第74話 落ち着いて!!!
飲み込まれないようにしながら、この奇妙なパーティーの中を進んでいく。テーブルに並んでいたハムとレタスとチーズのサンドウィッチを片手に持ちながら。
これから戦うかもしれないっていうのにお酒を飲む訳には行かない。でも、こんだけ色々置いてるなら何か食べたい。
ブラックさんの後ろでみんなの表情を観察していたが、どれも似たような笑顔をしていて上流階級を感じた。練習してるんでしょうね、笑顔の。
「あの、僕ってこの後は?」
「しばらくはそのままで良い。あ、向こうに例の冒険者がいるぞ」
「ん?」
ブラックさんが指差したのは、綺麗な金色の瞳をして黄色のドレスを着た女性。金色をしているのは瞳だけではなくて、首元や手元にも金のアクセサリーを付けている。なんとなく高飛車な印象を感じた。
「クインって人ですか?S級冒険者の?」
「そう。挨拶でもしておこう」
「え、ホントですか?」
「本当だ。行くぞ」
これから殺すっていう相手とどうやって仲良くすれば良いんだ。ここは空気を消して、ブラックさんの後ろでシモベみたいな顔して佇んでおこう。
歩いていくと、例のS級冒険者と目と目が合ったので軽く頭を下げてみた。無反応。金色の瞳は綺麗だけどジッと見つめるようなもんでも無いな。
「久しく。クイン様もこちらのパーティーにいらしたのですね」
「そうですわ。そちらのお方は?」
「初めまして、羽山健人と申します」
「あらあら……羽山健人」
分っかりやすーく顔が歪んで、眉間にシワが寄っている。まぁ、シリンを捕まえたりソルドを殺したりしたのは俺だから、敵対視するには十分な相手だろう。
このまま唾でも吐きかけられるんじゃないか?と思うほどの憎悪の顔に、どことなく萎縮していた。
「彼は金蜘蛛を使役しておりますゆえ、後の催し物の一つとして呼ばれました」
「そうですか。さっさと向こうに行きなさい。下衆な生き物」
その言葉は俺に向かって放たれていた。こんなに分かりやすく性格悪い人いるんだな。本当に女王様みたいな人ですね。
俺は落ち込んでいたが、なんでもないようなフリをしてその場をやり過ごそうとする。いや、いきなりの攻撃過ぎて逆に効いてない可能性もある。
「はは。それでは失敬」
「キッシシ!高飛車な女だな!お前みたいな奴が1番嫌いだ!!」
「な、なんだ……何をおっしゃいますの!」
「あわあわ……ゴーパー、ちょっと今は」
「無礼者!誰かこの下衆をここから引きずり出してちょうだい!!」
「クイン様!どうなされましたか!」
周りにいた人達がみんな俺たちに注目する。当たり前のようにザワザワと言った騒めきが周囲から湧き出てきて、さっきまで感じていたら違和感とはまた別の、直接的な居心地の悪さを感じ始めてきた。いやぁ、ここは俺の居るべき場所ではないね。うーん。
「キッシシ。大変な事になったな」
「だねー。こわ」
「なんですの!その笑い方は!召喚獣ならしっかり管理なさった方が宜しいのではなくて?」
「失礼しました、申し訳ないです」
「ご無礼をお許しください。その声の主は金蜘蛛でございます。どのようにお考えになられてもよろしいですが、その事だけは頭に入れておいていただくと幸いです」
ブラックさんの一言で周囲の騒めきはなお大きくなる。もはや収拾が付きそうにない空気の中で、シルクハット姿の、プルンッとした綺麗な肌の太っているおじさんがやってきた。雰囲気からしておそらくこの会の主催している側の人間だろう。
シャツのボタンが金蜘蛛になっている。相当信仰心強めだ。
「な、何事ですか!どうかなされましたか?」
「このお方がワタクシに無礼な事をおっしゃったのです!この場に相応しくない方達ですので引っ張り出してください」
「召喚獣だ」
さっきまでは畏ろうとしていたブラックさんが大きく伸びた後に、ラフな口調へと変化した。シルクハットおじさんとは知り合いなんだろうか?
「ブラック!?どういう事だ!……ま、まさか!」
「事態を察知する能力は素晴らしいですね。ハット」
「その召喚獣とはまさか金蜘蛛の事じゃないだろうな!コレはお前の付き添いで来たんだろ!?」
コレ。と指差されたのは俺。
そもそも俺がここにいる理由は、金蜘蛛をみんなに見せる為なのだ。そして、俺はブラックさんのコネクションを使ってここにやってきたのだ。
このハットおじさんがどこまで事情を知っているのかは知らないが、この会の管理をしている人間であれば、ブラックの付き添いで来た男の召喚獣、と聞いて金蜘蛛を連想するのは難しくない。
本当に金蜘蛛を信仰しているのであればブラックがオーナーのカジノでゴーパーが自由に歩いていた、という情報も知っているはずだし。
「そうだ。優れた思考能力だな」
「あ……あぁ、あぁ!それは何というご無礼を!クイン様、ここはどうかお静まりください……」
「な、何で私が!どうなってるの!私は悪くないでしょ!?」
「金蜘蛛様のお言葉ですので。申し訳ない!本当にクイン様には返すお言葉もないのですが、ここは一つお納めいただけると……」
「キッシシ!!俺は気にしてないぜ!」
「も、もしや今のが?」
「俺は金蜘蛛のゴーパーだ!!!崇めたいなら好きなだけ崇めな!!」
気が大きくなっているのか、ゴーパーは大きな声で自分の存在をあらゆる人に知らしめようとする。混乱はさらに大きくなり、キャー!とか、ワー!とかっていう高い声がこの会場内には響いていた。
黄色い声援だ。みんなの顔の方向が俺を向いているから、俺がスターになったと勘違いしてしまいそうだ。
「あぁ!金蜘蛛様!いつも有難う御座います!」
「私に姿を見せて!召喚してちょうだい!」
「今の富は金蜘蛛様のお陰です!御礼をさせてください!」
御礼?その宛先は誰になるんでしょうね?ニヤニヤ。
この狂騒の中で人混みに揉まれてしまいそうになっている俺。このまま行くと勝手に暴走して、勝手に内部崩壊をしそうな勢いだ。俺はまぁ、冒険者だから問題ないけど、ブラックさんにはコレはキツイんじゃないか?
もはや人が当たり前のように触ってくるようになり、【鉄人化】でも使おうかな?と悩み出した時、会場内に大きな声が響き渡る。
『・落ち着いて!!!』
それによって僅かに平和を取り戻す会場。声の主が誰なのかは分からないが、止まった時間の中で1人だけ悠々と歩いている人がいた。あれだ、さっき見た人だ。
「ブラックさん、大丈夫でしたか?」
「お陰様でな。ここまで混乱するとは想定していなかったよ」
「あ、えー、丹羽さんですよね?」
さっき見たブラックさんの謎の知り合いであるピアノ調律師丹羽。繊細そうなイメージに反した大きな声だったが、何故かそこまでの違和感はない。
むしろ、そっちの方が本当の姿というような印象もある。あれだろうな、フレンチとか食べてるけど本当はカップ麺の方が好きみたいな、、、なんだそりゃ。
しかし、只者ではないな。よく分からんけど、この状況を収められるのは普通の器じゃない。
「それではまた後で。皆様も優雅に楽しみましょう!」
そう言って彼は去っていく。スタイリッシュやなぁ、似合う。この場所が。
「あの、丹羽さんとはどこで?」
「カジノでピアニストに演奏を頼んだ事があってね。その時に調律師としてやって来たんだ。そこからの付き合いさ」
「へぇ、ホントですか?」
「ホントだ」
本当にそれだけなのかは疑わしいが、これ以上聞ける事も無さそうなのでここまでにしておく事にした。
俺が勘違いしてるだけかもしれないしな、それに、そこまで興味もないし。
静かになったパーティー会場。それでも俺にはキラキラとした視線が向けられていた。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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