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第1話 リジェネ解放

 

 ぼやけた昔の思い出


「永久歯が抜けちゃってますね。ちゃんと歯磨きとかしないと周りの歯が虫歯になったり、歯周病になったり大変なので、とにかく歯磨きをするようにさせてください」

「この子歯磨きキライみたいなんです……」

「便利なスキルでも覚えさせましょうか?【自己診断(メンテナンス)】ってスキルなんですけど、冊子とか渡すので、良かったらぜひ検討してみてください……僕?よく頑張ったね?」

「うん!!ありがと!」


 ○○



 羽山健人は健康体。

 この世の中でも別格なくらい健康だ。嘘みたいに健康だった。


(今日は大事な日だ……体の調子はどうだ?)


 意識を身体に集中させ、身体の悪い所を探る。

 脈は安定してるし、悪い細菌も入ってきてない。

 血管もサラサラだし、炎症とかも起こしてないみたいだ。そして、歯。

 虫歯や歯周病とは縁遠い、綺麗な歯。寒いけど風邪も引いてない。


 今日も大丈夫だ。健康第一だな。

 毎日のルーティーンを終え、仕事は向かう。


 会社への移動は自転車。軽い運動の為でもあるけど、それ以上に満員電車のストレスで精神的におかしくなりそうだったからだ。

 こんな感じでストレスから逃げて、逃げ回った結果、今の俺の健康がある……その努力は無駄じゃなかった事を証明するべく、今日も健康でいる。

 そんな事を思いながら、東明日都の一角のよくある中小企業へと入っていった。


「おはようございます」

「おはよぉう。健人君は今日も出勤してて偉いねぇ」

「あ、社長。おはようございます。本日も宜しくお願いいたします」

「実は今日は二人も熱なんだって。夏なのにね?しかも7度五分。微熱」

「ははは……確かに、微熱ですよね」

「君は良いよねぇ。真面目だし、今まで皆勤賞でしょ?入社してからさ?」

「ありがとうございます」

「僕も孫にメンテナンス進めようかな? ハハハ!!」

「ははは……」


 六十過ぎの社長は随分と上機嫌である。その理由はおそらく俺のことについてだ。

 スキンシップがウザい。いつものことだ。


「今日なんだよね?いやぁ、楽しみだなぁ。夜に居酒屋予約してるから……イケそうなんだよね?」

「はい。今日も健康体でした」

「今日なんだよね?スキルが解放されるかもしれないのは?」

「はい。五年前に解放された日付と一緒なのでそうだと思います」

「楽しみだなぁ……我が社からねぇ。初スキル解放者が出るなんてね?」


 今日は俺が一切、病気をしなくなってから二十年。

【健康第一】のスキル解放を見てみると、未だかつて二十年の項目を達成したものはいない。

 十五年ですら十八人しかいない。

 今日は、俺がこの【健康第一】という称号を世界で初めて解放できるかもしれない日でもあるのだ。


「おはよう。どう?今日の調子は」

「健康だな。全身どこも異常無し」

「はぁー……スゲェーよな。風邪も引いたことないんだろ?」

「六歳が最後かな?全然覚えてないけど」


 ワクワクと緊張で仕事もあんまり手に付かないまま、スキルが解放されるまでの時間が三十分を切った。


 称号を獲得すると、スキルがついでに貰える。

 例えば、十時間勉強をすると、【勤勉家】という称号か解放され、魔力の基礎威力が増加するスキルが貰える。

 そんな形の称号がこの世界には沢山あるのだが、今、彼が解放しようとしている【健康第一】の称号を全て解放した者は誰もいない。

 どのようなスキルが手に入るのかは、誰にも分からないのだった。


 不安だ、風邪とか引いてないよな?大丈夫か?


「それじゃぁ、みんなで集まろうかー。今の仕事は良いから集まって」

「どう?今の気分は?」

「吐きそう……ちょっと確かめていい?」

「どうぞ。ここで風邪ひいてるとかはないよな?」


 全身に意識を集中する。

 脈は安定して……ない。だが、それ以外は健康体だ。もちろん虫歯もない。

 いつもはこういう場所から逃げてきた。そういうのが俺の健康法でもあったわけだが、今日はそうもいかない。


「健人くーん?前に出てきてよぉ。ちょっとみんなに顔を見せてあげて?」

「は、はぃ!」


 声が上ずって、クスクスと笑われる。やめてくれ……心拍数がおかしいぞ……

 前に出るとみんなが期待の目線を俺に向けてきている。もしかして脳の一部がおかしくなってるかもしれない……ちょっと確認したい……


「健人君。一言よろしく」

「…………」

「健人君?どうしたのかなぁ?」


 ちょっとだけ待ってくれ。意識を集中して、脳に異常がないかを調べる。

 ……脳は強いストレスを感じていて、早くこの場から逃げ出さないと自律神経が崩壊するかもしれない。とにかく今は落ち着かないと……


「あ、あの、社長……」

「どうしたんだい?健人君」

「トイレに行ってきてもよろしいでしょうか?先程からちょっと……」

「……早く言ってくれよぉ。行ってきなさい!」

「失礼します!」


 同僚の柏木が変な笑顔を浮かべている。

 アイツはホント性格悪いなぁ。


 駆け足で逃げるようにその場を去る。このままだとスキル解放をトイレで過ごすことになりそうだな。

 個室の扉を開けて、ズボンを下ろし、便座に腰を下ろす。ちょっとおし……


 ピコンッ!


『おめでとうございます!初の称号解放です!』


 スマホから通知が来て、スキルが解放されたことを知らせる……ホントに世界初なんだ……これで人生が変わる……鼓動が……心臓が……さて、問題はどんなスキルが解放されるのか。

 五年目は【体力増加】

 十年目は【MP増加】

 十五年目は【状態異常耐性】


 状態異常耐性というレアスキルがついた時は驚いたが、会社員で働いている俺はあんまり恩恵を受けられていない。メリットは正座で足が痺れないことと、食中毒の心配がないことぐらいだ。


 ピコンッ!


 スマホから自然な合成音声が流れてくる。


『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』


 ドキドキしながらURLを開く。


 ________________



【健康第一】の称号を得ました!

 おめでとうございます!


 ________________ 


 お!やっとか!やっと……やっとこの時が来たのか!

 そして、もう一つのURLを開くと、そこには


 ________________ 


 〈ベーススキル《リジェネ》〉   

 [スキルを解放しますか?]

 《はい/いいえ》

 ________________ 


 リジェネ!?マジか!?

 俺は冒険家の仕事を早々に諦めちゃったから、あんまり詳しくないけど、これって超上級スキルだよな?

 極々一部の選ばれた白魔導士しか使えないやつだ……


 白魔導士とは、回復魔法などによって戦闘補助を行う役職だ。リジェネを使えるほどの魔道士は数えられる程しかいない。それほど協力なスキルだ。


 これ、ベーススキルってことは常にリジェネ状態になるってこと?つまり何秒かに一回、総体力の5%を回復するってこと?

 今までそんなベーススキル持ってる人いないんじゃないかな……どうして俺なんかに……


 嘘だろ……と思いながらスキル解放ボタンを押すと、シャンッと頭の上から回復音が鳴った。

 シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……


 いつまでも鳴り止まないそれは、リジェネがしっかりと発動してることを教えてくれる。

 簡易的なステータス画面を開く。


 ________________


【体力:2326/2326】

【魔力:560/560】

【状態:リジェネ】

 ________________


 ホントにリジェネついてる……マジか……



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