第70話 キャンプファイヤー!!!
事務所に帰ると、そこにはアーローさんが居ました。お互いを認識すると、そこに気まずさが生まれて、ここに居たくないなぁ、という思いが心の底から湧いてくる。うむ。
ワシがここに来た理由はシンプルで、事務所の自分の部屋(仮)の中にある荷物を持って行こうという事だ。花瓶とか、充電器とかその他諸々。
「あの」
「え?」
なんでもないみたいに作業に移ろうとしていたが俺であったが、秘書さんは俺に話しかけてくる。どんな事を言われるんだろう、不安が凄い。どこまでも不安が続いている。
顔はパソコンの画面をずっと見続けている。こちらには見向きもしない。
「もう私は何にも言いません。私も矢面に立ちますので。貴方は沢山お金を稼いでくださいね?」
「え?あ、良いんですか?」
「覚悟がありますので。見返りはお金で良いです」
アーローさんはずっと変わらない姿勢のまま、言いたい事だけを言ってくれた。だから、俺もお金だけで恩返しが出来るという事になり、気持ちは楽になる。
難しい事なんて考えなくても大丈夫だ。お仕事をしているなら俺とアーローさんの関係性なんて、合理的で効率的な物であればそれで良い。
間違いなく信頼できる人だと思う。それだから、俺はお金を稼ぐ。
「ありがとうございます。それじゃ、ビビるくらいにお金を稼いできますよ」
「ありがたいので。そのサポートはしますので」
それなら俺は稼ぐぞー!どうやってお金を稼いでいくのかはよく分からんが、頑張ればいくらでもお金持ちになれるだろう。
今度暇があったらジャックさんの所にでも行こうかな。一週間ぐらいずっと走り続けてたら、すぐに数億ぐらいは稼げそう。
そんなに稼いでも大丈夫なんだろうか?とか思いながら、俺は自分の部屋(仮)にあった荷物をカバンの中に纏めていつでも転移出来るようにしておく。
出発する前にアーローさんに挨拶しておこうか。色々お世話になったし、そもそも居候みたいな感じになっちゃってたしな。
「あの、それじゃ引っ越します。ありがとうございました、めちゃくちゃお邪魔してすみません」
「良いですので。また用事があったら連絡しますので。よろしくお願いします」
大きなカバンを肩に掛けながら、俺は転移をする。家が壊れてから随分とここにはお世話になったけど、別れる時は案外適当な感じでお別れをするんだな。
めちゃくちゃ便利なスキルである転移。でも、ちょっとだけ仰々しいような引っ越しがしたかったなぁ、という思いもあった。
そんな感じで我が大豪邸へと帰ってくる。家の中は外からでも聞こえるような音でドタバタと騒いでいた。やっぱりアレだけの体重があると、足音も大きくなるんだね。
今日は初めてここに泊まる日。さっき頼んだ荷物も今日の夕方辺りに届くらしいので、ずっとここであーでもないこーでもないをするのだ。うーん、なんか暇を潰せそうな物を持ってくれば良かった。
マンガが届くまでは何してよ?そんな気持ちで「ただいまー」というと「おっ!かえりー!」という元気なストームの声が聞こえてくる。なんであんなに元気なんだろ?
「どう?家の様子は」
「良いよー!外にも出て良い!?」
「うーん……どしよ」
「マスターは良いって言ってくれてたよー?」
「なるほど」
ここに来てソルドの人間性に触れる事になるとは。
もちろん自分の敷地の中、私有地の中であれば全然問題ないんだけど、そこからドンドン適当になっていって、自分の土地じゃない所まで歩くようになったら大変だ。
ソルドみたいな考え方を持っている俺は、彼みたいな事をしないように気を付けないといけない。だから、ちょっとちゃんとルールを決めるか。
「今度ちゃんと自分の土地の地図を貰ってくるからさ。それまで待ってて。私有地であれば外に出ても良いからさ」
「うーーーん!分かった!」
ギリギリのところで納得してくれたストーム。良かった、ワガママ言われてたら俺も適当になってたかもしれない。
「そうだ。今日の夜みんなでキャンプファイヤーしよう。外にも大きな広場があるし、そこに集まって火でも眺めて」
「何!?いつのまにそんな準備をしていたのだ!」
「さっき頼んでおいた。一応アルダードへのプレゼントだから」
「な、そうか!ありがたいな!」
喜んでくれて良かった。ゴーパーにも会いに行かないとなぁ。でも、もしかしたらここにいるよりもカジノに居た方が彼は幸せかもしれん。まぁ、良いや、いつかは会いに行こ。
そんな事を考えていると宅配の人がわざわざこんな山奥までやってきてくれた。いやぁ、やっぱり転移がないと不便だよなぁ。買い物とかは極力自分でするか。
沢山のマンガと、キャンプファイヤー出来そうな薪を持って来てくれた事に感謝しつつも、これだけでは味気ないという事に気付いたので、今度は俺自身で街の中へと行き、買い物する。
スーパーでキャンプにあったら楽しそうなものを沢山買い、支払いを済ませてからもう一度豪邸へ。なんだか忙しい1日だ。
「どう?マンガ?」
「良いよー!ありがとー!羽山健人ー!」
「どういたしまして」
床に直置きになっているマンガ。本棚も買わないとなぁ。なんだかホントに引っ越しをしたという気持ちが湧いてくる。
「夜になってきたし、ちょっと外に出る?霧も晴れてきたし」
「良いの!?」
「あんまり遠く行っちゃダメだよ」
「やったー!」
「アルダードも」
「良いのか?火事にならないか!?」
「水のスキルあるから。火事になってもすぐに消せる」
「そうか!なら、なら行こうか!」
いやー!賑やかになってきましたねー!本当はここにゴーパーも居てくれれば良いんですけどね。
そして、自分の底に僅かにこの行為がおままごとではないか、という疑問も湧いてくる。見る人が見れば、俺は狂人だ。
でも、やっぱりみんなは喜んでくれるのだ。考えてみれば、人間も人形も大差ない。その時にソルドの心にちょっとだけ触ったような気がした。
「ローズは?」
「ダメそうだったらすぐに戻してね」
「分かってる。【召喚】」
その時に分かった。俺はローズさんが居てくれるから正気を保てるんだと。理由は簡単。
俺がやるべき事は、人間を人形として見るんじゃなくて、人形を人間として見るという事だ。
人間もモンスターも同じであると捉えるんじゃなくて、モンスターを人間と同じように捉える事だ。変わるのはモンスターの立ち位置だけ、人間はあくまでも人間。
きっと、同じように見えてしまったのだろう。あの人は。そう考えるとちょっと可哀想だ。同情なんてするべきじゃないんだろうけど。
「私が組み立てるー!」
ストームが大きな火になるように薪を組み立てる。強い風と共に一瞬でジェンガのように積まれた薪は、アルダードが発する炎の光が反射して、僅かに光って見える。
「アルダード。火を付けてよ」
「分かった!!それなら我に任せろ!」
大きな身体を持つアルダードがそのジェンガに触れると、大きな大きな火が、火の粉を散らせながら上へ上へと昇っていく。そして、パチパチと跳ね始める。
スーパーで買ったマシュマロ。火を見るだけではつまらないだろうと思って買ったマシュマロの出番はまだこなさそうだ。
火の光に照らされたローズさん。いつもよりも顔に影が掛かっていて、不思議な雰囲気だ。
「あーー!ちょ、ちょっと!アルダードー!」
「お、お前ら!こんなところで!」
悪い事をしている気分だ。俺はローズさんの事が好きだからキスをした。自分が怖くなる。これは、どっちなんだろう?
俺としてはもうどっちでも良かった。人間だろうとモンスターだろうとどっちでも良かった。ただ、こうなる運命だったんだとは思う。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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