第68話 ひとまずは終わり
「ローズって誕生日あるの?」
「誕生日なんてないよ。ダンジョンにカレンダーなんてないし」
「そっか。あ、そうだ」
「何?」
「いや、内緒。うん」
今日は前と同じくジャックさんのところで修行だ。しかし、前とは違い、今回は数時間で終わるらしい。
どうやら『トール』のレベルが52とかいう中途半端な数字で終わっている事が気に入らないらしく、100レベまで一緒に頑張ろうと連絡が来たのだ。
ありがたいのかなんなのかは分からないが、その誘いに俺は乗り、また地獄へ向かう事にした。今回もメイルさんと一緒だ。
今はまだ午前。ここから数時間という事なので、お昼頃には終わるだろう。だから、午後から夕方にかけてはローズとトリガーラッキーさんの為のプレゼントを用意する。
ローズには薔薇をプレゼントする。うん。これが1番良いはず。しかし、トリガーラッキーさんが分からん。
まぁ、走りながら考えればいいか。そんな事を思いながら、例の『地獄』へと転移する。
「やっと来たか。メイルは先に待っていたぞ」
「え?予定時間……遅れましたか?すみません」
「時間はピッタリだ。それ以上でもない」
「……なるほど。そうですね」
会社みたいな空気を久しぶりに感じた。アレね?5分前行動、いや、数十分前行動を強いる系のアレね?なるほどな、やっぱりここはブラック気味だ。
「メイルさん。お待たせしました」
「お、やっと来たか。言わないといけない事があってね」
「ん?なに?」
「実は私もジャック騎士団に加入したんだよ。正式入団はまだだけど、そういう風に話は進んでてさ」
「なるほど。それで早く来てたのか」
「それもあるね」
まぁ、俺個人的にはそれで良いと思う。というか、なんとなくそうなるような気がしてた。
メイルさんの変さって分かりづらいけど、やっぱり冒険者らしく変な人ではあるね。
「私も5億グル分頑張って働かないとだから」
「まぁ、ここならすぐに貯まるだろうね」
「黒魔術師になるの初めてだからさ。ちょっと不安だ」
「そっか、1からなのか」
「そう!頑張らないと!」
気合いが入ってて良いね。俺にはない能力だ。前向きなメイルさんの後ろで前と同じようにひたすら【雷脚】を放つ。
前よりも高くなった攻撃力のおかげで、レベルの低い黒魔術師がいても一連のムーブで敵を倒せる。
ガシャドクロなども倒していると、『トール』のレベルは100を超えた。走り始めてから3時間ほどで終わった。
○○
私の存在価値や意義に付いて悩んでいると、そこに光が差してきた。それは、まるで台風のようだった。
マゴマゴとイロイロな事で悩んでいた私は向かうべき道を喪失していたが、台風の中では生きていく事だけを考えれば良い。
この光の中に居る私は疲れ果てて、これ以上何も出来ないと思うほど追い込まれてしまう。だから、私のするべき事は明確で、そこに意志などは必要なかった。
ずっとこうして走り続けていれば良いんだ。
未来の事なんて考えなくて良い。こうやって走り続けていれば、きっとそれで大丈夫だ。
渡り鳥のように色々な場所を行き来していた私は、ようやく自分の居場所を見つける。私は寄生虫だ。意志のない人形だ。
でも、それが良いんだ。光だから。
メイルは自分の居場所を見つけた。しかし、きっとまた別の何処かへと旅立つのだろう。移り気な雲が彼女の姿。
○○
「お世話になりました。また来るかもしれません」
「いや、なんとなくだが、お前はここにはもう来ない気がするよ。だから俺はもう1人の団員を探す」
「まぁ、とりあえずお疲れ様でした。またどこかで」
「今度はS級冒険者として会おう。お前にはその器がある」
そんな感じで俺はこの場を転移で去ってしまう。それにしてもメイルさんが騎士団に加入したのはビックリした。まぁ、なんとなくそんな気はしていたような気がするけれども。
俺は街の中で適当なチェーン店を探し出し、そこでもう一度自分のステータスを確認する事とした。
________________
羽山健人ステータス
Lv.103
【体力:569,000】
【魔力:238.600】
【攻撃力:46,000】
【防御力:125,000】
【俊敏:69,000】
【ラック:5,000】
【状態:リジェネ】
【状態:運試】
【状態:セットアップ】
【状態:神通力】
【状態:奮迅】
【状態:霊感】
【状態:覇者】
________________
新しく手に入れたベーススキルである【覇者】は、対峙している相手に《恐怖》という状態異常を付与するというものだ。
《恐怖》の状態になると攻撃のミスが多くなり、身体が上手く動かなくなり、ステータスが僅かに低下するというものなので、バカ強い。
新しく手に入った攻撃スキルには【破壊雷】という物があった。嵐の状態でのみ発動出来るスキルらしい。なんだかよく分からん。
そもそもステータスの上昇自体が異常だ。というか、ちょっと思ったけど、あのやり方なら誰だってA級冒険者になれそうだな。
実際に黒魔術師レベル1のメイルさんですらあの周回について来れていた訳だし、体力さえあれば誰であってもこのぐらいのレベルになる事は出来る。
そう考えるとやっぱり穴なんだろうな。そして、そこから一歩先に行く為には特別なベーススキルが必要になるんだろうな。
「あ、2人もなんか欲しいのある?これから買い物だけど」
「我か!?なんの話だ!」
「久々に買い物でも行こうかなぁって。それで、必要になりそうな物があったら?……まぁ、欲しい物があったら教えて?」
「わたしー!?私はマンガ読みたい!」
「ならアルダードは?」
「我か……我にはあまりないな!欲しい物!」
……普通に会話を始めてしまったが、そういえばこの2人声がめちゃくちゃデカかった。
視線のカケラのような物がコチラに向けられ始めているのを感じで、1度店を出る事にする。どこか公園でも行こうかな。
歩きながらも会話をする。アルダードに物欲がないのは割と意外だったな。
「マンガってどんな漫画?てか、電子書籍じゃないと読めないか」
「そうかもー!でもやだー!」
「もしかして紙派?」
「そう!めくらなきゃ!」
「なるほど。じゃあ、家が出来たら通販で頼もう。広い家なら問題なし」
「やたー!」
やたー!と喜んでくれるなら俺も嬉しい。まぁ、とりあえずはストームの分はそれで良いかな?お金ならいくらでもあるし、別に好きなマンガを好きなだけ買ってあげる事が出来るだろう。
「アルダードは?本当にない?欲しいの」
「我にはない!気持ちは嬉しいがな!」
「そっか。まぁ、それならちょっと考えておいてよ。お金ならあるんだし」
「ふん!どうせ無駄だがな!」
何かしらは思いつくだろう。きっと。
そういえばゴーパーにもなんか買ってあげないとか。でも、何が欲しいんだろ?今度またカジノに行って、その時に話でも聞いてみるか。
はぁ、なんか楽しいんだけど、大変になってきたな。そもそもトリガーラッキーさんへのプレゼントとか全然思い付いてないし。
どうしようかなぁ、とか思いながら、街で1番大きいであろう百貨店的な所へと入っていく。別にネットで良いんだけど、俺今住所が微妙にないからな。
事務所で受け取るようにしてもらっても良いんだろうけどさ。
煌びやかな世界の中で自分という存在が浮いている事を感じながら、これでもないあれでもないみたいに商品を探していた。うん、これは中々めんどくさい。
トリガーラッキーさんって何をあげたら喜ぶんだろ?意外と普通の人って言ってたし、もう、2つとも纏めて買おうかな?いやぁ……分からん。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!他の人に広めてもらえたりなども嬉しいです!
ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!