第66話 穴だらけのゲーム
ジャックが言っていた通り、ガシャドクロの攻撃は鈍く、そして予測可能だった。俺たちはその隙にスキルを叩き込む。
近距離戦で戦おうとすると、大変に困難な相手なんだろう。しかし、走りながら距離を取って戦う分にはなんの問題もない弱いボス。
倒した時にレベルは2も上がった。鈍くなっていた上昇に勢いが付いて、これから先の道は短いという事を分かる。
今はガシャドクロがもう一度出現するまで、前と同じようにひたすら走りながら敵を倒しているのだった。ふぅ、疲れてないけど疲れた。
「今レベルは?」
「俺は、75です」
「それなら今日中に『ハンマー使い』は終わりそうだな。メイルは?」
「私は126レベルです!!」
「そうか。中々鍛えてるな」
カンストっていうベーススキルを持っていると、レベルの上限が99ではなくなる。だからメイルさんは126レベルもあるんだろう。
「ジャックさんのレベルは?聞いても大丈夫ですか?」
「俺のレベルは……842だ」
「……凄いですね」
「暇さえあれば、いや、暇なんてなくてもずっとここをグルグルと周回しているからな」
「みんなも一緒に?」
「そうだ。ただ、もうステータスの上昇はほんの僅かしかないがな」
ここはやりがい搾取のブラック企業だった。そんな事を思いつつ2度目のガシャドクロ戦へと向かう。
今度は1レベルしか上がらなかったが、これでも十分だ。ペースがドンドンと鈍化してしまっているから、敵を倒しただけで1も上がるのが凄い。
それからはひたすらその作業を繰り返し続け、いつのまにかレベルは100まで上がっていた。作業開始から10時間ほどだろうか?
さっきまで疲労困憊だったはずのメイルさんは謎にハイになっているし、ジャック騎士団のみんなは謎のドリンクを飲んでいる。多分キメてる。
この集団はヤバ集団。私は帰りますわ。
「転生のやり方は分かるか?」
「どうやってやるんですか?」
「スマホで選ぶだけで良い。まずは『剣士』からだ」
言われた通りに『剣士』を選ぶと、俺の身体は青白く光り、レベルが1まで戻ってしまった。
「【雷脚】は打てるか?」
「うーん、一回だけなら打てそうです」
「それなら十分だ。ガシャドクロの所へ行こう」
「分かりました」
「随分と物分かりが良いな」
「まぁ、慣れてきたので」
転職をすると使えないスキルが出てくる。しかし、【雷脚】は全職業に共通して使える技で、レベル1の『剣士』であろうと問題なく技を使う事が出来る。ふむふむ。
前と同じ様なルートを辿って、前と同じようにガシャドクロを倒す。すると、俺のレベルは27まで上がった。
なんだか凄いねー、バカみたいな出来事が起こっている。思ったよりも早く片付きそうな上位職への転職に心を躍らせる。
誰が作ったゲームなのかは知らんが、めちゃくちゃ大きな穴ありますよー。ゲームバランス崩壊してますけど大丈夫ですかー?
S級冒険者が知り合いにいたら、いくらでもレベルアップが可能である。富める者がさらに富めるのだ。ガッハハ!
○○
こんなに楽な事ないわ。
私はギャンブルに勝って、特別な瞳を手に入れた。で、必死こいて努力している無能たちに大きく差を付けた。
ただ、シリンは捕まった。そして、ソルドがバカをやった。
私に迷惑かけんじゃねーよ。あぁ!どうやったら落ち着いた生活に戻れるのよ。
クインの瞳はメドサの瞳だった。なので【石化】という本来はメドサ専用であるはずのスキルが使える。
シリンに改造された瞳。手術例が非常に少なく、成功例もない手術に成功したクインはS級冒険者になる。
不正なやり方で成り上がっていった彼女は様々な悪事を働いていた。
○○
それから15時間後。休憩は何度か挟んだが、ほとんどこのダンジョンを走り続けていただけで、『トール』になれるだけのレベル上げが済んでしまった。
こんなに短時間でレベル上げが完了するとは。ちゃんと普通にダンジョンに潜って一歩一歩頑張っている人にちょっと申し訳ないな。
ステータスの上昇も半端ない。今の俺は『ファーマー』の52レベルなので本来は数値がカンストするような事はないはずだが、俺の体力は120,000もある。リジェネは一度に数千回復する。
インフレしすぎだ。俺は強い、間違いなくつよいぞ!
「やっと終わりました。これで『トール』が使えるようになるんですかね?」
「あぁ。元気だなお前」
「え?まぁ、健康だけが取り柄なんで」
俺とジャックさんの周りには疲労困憊の死屍累々が群がっていた。地獄の景色とよく似合う。本当に地獄に来てしまったみたいだ。
ジャックさんはまだ元気だけど、他の人たちは肩で息をするように、身体に出来るだけ何かの成分を取り入れようとしていた。
もちろんメイルさんだってそうだ。果たして地獄の空気は健康に良いのだろうか?
そんな感じで俺は『トール』へと転職する。職業説明欄には、天候を操ることが出来るハンマー使いの神。として書かれていた。
ストームがトールに反応していたところを見ても、それは間違いないんだろう。てか、天候変えられるってどんな仕組み?何があったのこの世界に。
「お前ら!まだ走れるか!!」
「はい!」
「メイルだけか!オイ!」
「はい」「はい!」
「やれるな!?ならいくぞ!?最後の冒険だ!気合い入れていけよ!」
地獄ブラック企業め。まぁ、でもこの周回ってめちゃくちゃお金貰えるから、ブラック企業の中でもマシな方の企業なのかもしれない。
俺はここを周回していただけなのに、もう既に20,000,000グルを手に入れている。S級ダンジョンだから、敵が落とす報酬が桁違いだ。
正直、全部が順調すぎて怖いくらいだ。どうしてこんなに順調に物事が進んでいくんだろう?不思議になるくらい。
俺たちは走り出す。ペースは前よりも遅くなっていて、俺的には今の方が前よりも楽だ。
簡単にS級冒険者になれる方法を見つけた。トリガーラッキーさんなら「運命ですので」とでもいうのだろう。
どうして運命に俺が選ばれたんだろう?もしかして、ただ純粋にめちゃくちゃ運が良いだけなのか?俺は。
それからしばらく戦闘を続けた結果。『トール』のレベルが52まで上がった。これ以上はみんなも限界らしく、ひとまずはここで打ち切りだという。
ちなみに俺の体力は240,000にもなっていて、リジェネの回復だけで、昔の自分の体力を回復出来るぐらいの力がある。
自分でもこの能力のバランスが壊れていることを自覚する。やばーい。
「大変なスキルだな。リジェネ」
「そうですね……ちょっと壊れてる感じですよね」
「この世界にダンジョンが当たり前になったのは、段階的に徐々に世界が変化していったからだからな。そもそもの仕組みを作った奴らは適当な奴らだ。何にも考えずにダンジョンを作っていったんだろう。だから、こうした穴を見つければ簡単に上に上がることが出来る」
「リジェネもコレも穴ですか?」
「穴だ。しかも、誰にも修復することが出来ない穴」
「なるほど」
たまたま穴の中にあった財宝を掴んだ人がS級冒険者になる。だから、みんな変な人ばっかりなのかも。人と同じ道を歩いていたら穴を見つけられない。うーん、俺も穴だらけの世界を作っちゃおうかな。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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