第63話 レベリング
「ジャックさんから連絡が入っていますので。どうやら一緒にダンジョンを巡ろうというお誘いです」
ゴーパーを自由にさせる為にカジノへと行っていた俺が事務所に帰って来るやいなや、アーローさんはそんな事を言ってきた。
この前の約束の話か。いや、ダンジョンを巡ろうまでは言われてなかったのか?
「分かりました。俺はその誘いを受けます」
「分かりました。メイルさんも一緒に行くそうなので。もしかするとこの後すぐかもしれませんけど、大丈夫ですよね?」
「あぁ、全然大丈夫です。行けます」
「それではこちらから連絡しておきますので」
ジャック騎士団。俺もその団員に加わるのだろうか?
S級冒険者と一緒に戦ったり、なんだったらS級冒険者と戦ったことはあるが、一緒にダンジョンに行くのは初めてだ。
どんな感じなんだろう?戦いに関してはそこそこの自信があるが、探索や冒険に関してはほとんど素人みたいなもんだ。
しばらく待っていると、そこにメイルさんとアーローさんがやってきた。メイルさんは例の高級鎧を見に纏っている。つまりはそういうことだ。
「あの、長旅になるそうなので。出発前にこれらにサインしてください」
「え?契約書ですか?」
「それもありますが、メインは選挙の事です」
「それもある……」
「中身は私が確認してますので」
俺は僅かな不安の中、書類に自分の名前を記入する。てか、選挙って事はC級になったばかりだっていうのに、B級に昇級しようとしているって事か。
「こんなに連続でやっても良いんですか?なんかルールとかって」
「基本的には間隔にルールはありませんので。実力のある冒険者が適正な級になる事を止める理由もないのでね」
「なるほどー。じゃあ、俺みたいにトントン上がっていく人もいるんですね」
「このメイルさんがそうなので。ご存知なかったですか?」
それはご存知なかったな。闘技場の王って呼ばれてるだけあって実力者なんだろうな。聞かされてないよね?
「昔の話は良いよ。それじゃあ行こうか。ジャックさんの所に」
「【転移】」
アーローの転移によって俺たちは飛ばされる。辿り着いた場所は、まるで地獄のように空が真っ赤などんよーりとした所だった。
草木は枯れに枯れていて、向こうにある山も土がモロに見えてしまっている。ここが地獄かぁ。巡ろう。
「よく来てくれたな。2人とも」
「お久しぶりです。この間はどうも」
俺たちの目の前にジャックさんと、その騎士団の方が現れた。騎士団員の数が減ってるのは、この前のあのモンスターの影響なのだろうか?
「トリガーラッキーが世間を賑やかにしているな。ちなみに私は賛成の立場を取っている」
「え?」
「……S級冒険者が提出する案は、一度S級冒険者の中で賛成反対を決めるんです……」
アーローさんがジャックさんには聞こえないような声で教えてくれた。なるほど、なんでもかんでも自由に言えるって訳でもないのか。
「それは、ありがとうございます!」
「冒険者の管理下であればゴブリン程度のモンスターを放置する事は可能だ。そもそも召喚獣は冒険者の指示を聞く。冒険者の為に動くだけだ」
「なるほど……」
「賛成は俺とコッパーとトリガーラッキー。反対はクインとキング。あの2人は……そんな事は良いんだ」
深く考え込みそうになったジャックさんは、手を叩いてこの場の空気を変える。最初の目的に戻るのだろう。
「ここはS級ダンジョンだ。ボスのガシャドクロがこの先には居る」
「なるほどね。でも、どうして私たちを?」
「理由は複雑だ。走りながらでも良いか?」
「俺はそれでも問題ないです。メイルさんは?」
「着いていける自信はないけど、なんとか」
「それなら走ろう。みんな!俺の後に続け!」
「「はい!!!」」
「うぉ」
ジャック騎士団のみんなは鼓膜が破れてしまいそうなほどの大声で返事をする。俺たちは呆気に取られていた。
「返事をしろ!お前らもだ!!」
「申し訳ありませんでした!」
メイルさんがそう言ってすぐに順応する。俺はまだボーッとしていた。やっぱりプロの冒険者は一味違うね?俺とは違う世界で生きてきた人なんだろう。
「それではみんな!!俺の後に続け!!!」
「「「はい!!!」」」
「はい!」
少し遅れて、しかも小さな声で返事をする。ちょっとコチラをチラッと見てはきたが、それでも騎士団は出陣した。
俺たちは全力疾走で走り出す。みんな凄いなぁ。リジェネもないのに走り続けられるなんて。
「気を付けてくださいねー!私は帰りますのでー!」
「ありがとうございましたー!」
アーローさんは転移で帰っていく。さてさて、本格的な冒険が始まるぞ。
「最初に確認しておくが、お前ら、遠距離攻撃はどれぐらい出来る?」
「私は【波斬撃】と、【斬波】ぐらいしか使えないよ」
「俺は……うーん」
俺は遠距離攻撃使えない?俺が持ってるスキルって全部近距離専用の攻撃である気がしてきた。
役立たずかもしれん。この状況に置いて、俺は全くの置き物、いや、走り物でしかない気配がする。
「ねーねー!私の【雷脚】はー?アレは遠距離じゃないの?」
「お前、アブソリュートを使役してるのか」
「まぁ、ソルド……の」
今ソルドにさん付けそうになったわ。あぶねー。
俺はあの人とは違うんだ!っていう感じを出しておかないと、色々とややこしくなってしまう。
「敵です!」
地獄みたいな場所を喋りながら走っていると、目の前に5メートルぐらいはある赤鬼が出てきた。髭がモジャモジャで、短い角が2本あって、身体はボダボダって感じで、右手には金棒を持っている。
「それならお前たちは全てのパターンで【雷脚】と、【斬波】を使えば良い。おい、クローバーだ!」
「「はい!!」」
「【突風】」
「【熱風】」
ジャック騎士団の人たちは、全く迷う事なく赤鬼に風の攻撃を放つ。それは赤鬼の身体を引き裂いたり、燃やしたりしている。あまりにも一瞬だった為か、相手は大きくのけぞって、かなりのダメージを喰らった様子だ。
「俺がトランプのスートを言ったら敵に向かってスキルを発動してくれ。分かったな!やってみろ!」
「はい!!」「はい!」
「【斬波】!」
「えっと【雷脚】!」
「【鎌鼬】」
メイルさんは斬撃を波のようにして赤鬼に飛ばす。俺は前に見たトラックのように大きな雷の脚で赤鬼を蹴り飛ばす。
ジャックさんが放った攻撃は、赤鬼の周りにしつこい付き纏い、彼はいつまでも吹き荒ぶ風の中で悶えている。
ピコン!ピコン!
戦闘が終わった事を知らせるように、俺のレベルは一気に2つも上昇する。ボスモンスターでもないのにこんなに上がるのって、やっぱり俺のレベルが低いからなのでしょうか。
というか、敵と戦っているにも関わらず俺たちは一度も立ち止まらず、走り続けていた。やっぱりS級は違うのか?
「なるほどな。お前たちの実力は大体分かった。本来はボスとも戦うんだが、今はこの辺りの周回だけに留めておこうか」
「周回?」
「このダンジョンの敵が1番効率が良いんだよ。後3時間ぐらいは休憩なしでも走れるか?」
「……」
3時間ずっとただただこの作業を続けるって事か?
うーん、それは俺の得意分野ですね。全然問題ないです。むしろめちゃくちゃ走ります。これだけでレベルが馬鹿みたいに上がるんだったら。
「怖気付いたか?はは」
「いや!全然問題ないです。俺は」
「そうか。ならお前は?」
「私、私も出来ます!」
ずーーっと走り続けている。会話をする時も走って、敵を倒す時も走って、メッセージを確認する時も走って、なので、横でメイルさんは疲れた様子を見せていた。
俺以外の人はどうやって走ってるんだろ?気合い?
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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