第62話 この世界はダンジョンと共にあるので
トリガーラッキーさんが提出した案は政治家の方達が議論をする段階まで行ったらしい。あとは祈るばかりだ。
そんな事もあってか、事務所は落ち着きを取り戻しつつある。久々に帰ってきた空き部屋で、ゆっくりステータス確認でもする事にした。
とは言っても、全然スキルも称号も増えてない。入手した順で上から見ていくか。まずは称号から。
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『獲得した称号』
【上級冒険者】
【大嵐】
【双六師】
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えーー!あんなに大変だったのに3つしか増えてないってマジでか?あんなに努力したのに、あんなに街を走り回ったのに。
やっぱり冒険者の仕事とはモンスターを倒す事のようだ。それでしかレベルは上がらないし、それで得られる称号ばかり。切っても切り離せないような関係だ。
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『習得したスキル』
【ベーススキル:カンスト】
【攻撃スキル:雷脚】
【ベーススキル:振り直し】
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まぁ、大体こんなもんですかね。これからS級冒険者になる男のスキルとしては心もとないというか、もしかしてレベル上げの作業が必要かもしれない。
ただ、そんな時間を用意してくれるのかは微妙だ。これから先何をやるのかは分からないが、俺の予定はアーローさんやトリガーラッキーさん次第だ。
「ぷへぇ。最近忙しかったぁ」
「お疲れ様。健人」
「ローズも色々お疲れ。意外となんとかなりそうだから、まぁ、安心してくれても大丈夫だよ」
「……私はもう良いって。言ったでしょ?私の人生よりも貴方が無事である方が嬉しいって」
照れるような事を言われる。うーん、贅沢を言うならローズと俺の2人だけの空間であってほしかったが、ここにはアルダードもゴーパーもストームもみんないる。
「えー!すごー!ホントに恋人みたーい!」
「バカもの!そんな事を言うもんではない!こういう時には黙って見ておくものなのだ!」
「キシシ。お前もお前でうるさいけどな?」
こういう事も要因の一つだろう。召喚獣を人間みたいに扱っちゃうと自分のプライベートがマジで無くなってしまうのだ。
俺は疲れないから別になんでも良いし、眠らないから気にならないけど、神経質な人ならすぐダメになりそう。ていうか、健康に気を遣ってた頃の俺ならマジで死ぬほどイライラしてただろうなぁ。
今は本当に自由だ。風邪を引く事を恐れなくても良い社会。神だ。久々に昔を思い出す。まさかこんな人生を歩む事になるなんて、俺も思ってなかった。
「こんにちは。この前の話について詳しく話したいので」
部屋の中にアーローさんが入ってくる。この前メールで適当に話した事を覚えてくれていたようだ。しかし、俺はその事に付いて何にも覚えていなかった。だから、正直に言う事にしたを
「ありがとうございます。あの、もう端的に言っても良いですか?」
「はいどうぞ。その方が私としても嬉しいので」
「驚かないでくださいよ?本当に。引きもしないでくださいよ?」
「分かってますので。どうぞ」
うーん、中々言いづらいが言わないとどこかに齟齬が生まれて自分の思いが変な形になってしまいそうだ。ちゃんと言おう。
「ローズが人間みたいに生きられる世の中が作りたいんです。それに向かうような法案?というか、それに向かう物であればなんでも良いんです」
「そうですか。それぐらいは言ってくると思ってたので。別に驚きません」
「え?じゃあその方向に向かって?」
アーローさんはその言葉を淡々と受け止める。俺がローズに対して普通じゃない思いを抱いている事を理解しているからそんな対応が出来るのか?それとも、もう慣れてしまったのか。
「貴方はエースなので。だから私も頑張ります。天才の考えてる事は分からないので。それに、トリガーラッキーさんからも尊重するように言われているので」
「トリガーラッキーさんが?」
「事務所に今来てますので。後で顔を出すと言ってましたよ?私はこれで失礼しますけどね」
「すみません、色々とお世話になります。ありがとうございました」
「これが私の仕事なので」
事務的なお話で終わった。今までちゃんと向き合った事がなかったような気がするけど、アーローさんって優秀な人か?しかもすこぶる。
まぁ、普通に俺の意図が本当に伝わっているのかはちょっと不安になるけど、その向こうにはトリガーラッキーさんがいる訳だし、そんなに心配する必要はない。
いつのまにか俺も信者みたいになっちゃってるよ。どうする?俺までのでので言うようになっちゃったら。
「あ、そうでした。今度またカジノにゴーパーさんを置いといてください。ブラックさんからお願いされていたので」
「分かりました。良いよね?ゴーパーも」
「キッシシ!俺は全く問題ないぜ?」
「なんの話ー!ねぇー!」
「俺が自由になる話だ」
「いいなぁーーー!!私も自由になりたい!」
流石に、流石にストームさんの願いを叶える事は俺の身に余るような気がする。もちろん、努力はするけど、最低限やるべきなのはローズさんの事だ。
久々の日常の中にゴボゴボしていると、さっき話にも上がったトリガーラッキーさんがやってくる。
「お疲れ様です。あの、ありがとうございます。召喚獣が復興を手伝えるようにするって話聞きました」
「別に気にする事はないので。私は私のやる事をやっただけですので」
俺は本当に感謝している。正直、俺は無理な約束をしてしまったのではないか、と不安になっていたからだ。
可能性が結構ある予感がしてきて、少しの希望が見えている。そこに向かうだけだ。ただただそこに向かうだけ。
「次は貴方の番なので。S級冒険者になるのは」
「それは、分かってます。頑張ります」
「ジャックのところで色々とやって来てください。その後はクインをこの前みたいに殺します。その頃にはA級冒険者ですので」
「めちゃくちゃ決まってるんですね。運命って」
「キングと闘技場で戦ったら、その後には名実ともにS級です。その後になれば、貴方の願望も叶うので」
「……」
逆に怖いな。そこまで自分の人生が決まっているとか、俺は一体なんなんだ?まぁ、その中であっても幸せに?自分の思ったように生きていけるなら、それはそれで良いのだろうか?
「安心してほしいので。召喚獣は安全ですので。だから、復興の手伝いが出来るので」
「それは、俺も知ってます」
トリガーラッキーさんは言葉を続ける。もしかしたら運命が見えても、不安はいつまでもついてくるのかもしれない。
「私のやってる事は間違ってないので。なので、心配しないでください。これ以上心配する必要は何にもないので」
トリガーラッキーさんはそう言った。僕はその言葉から想像以上の勇気と、確信にも似た実感を得た。
「この世界はダンジョンと共にあるので」
今更変えられないのだ。この世界にはダンジョンがあるという事実を今更変える事なんて出来ないのだ。
なら、ダンジョンと共に生きていく必要がある。それは、ダンジョンと、そして、モンスターと向き合う事だと思う。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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