第61話 召喚獣で復興
トリガーラッキーさんがS級冒険者になってから3日。未だに事務所の前は賑やかだった。
まだ3日しか経っていないから、それは当たり前だ、ともちょっと思ったが、昨日よりも人気が増している気がする。
俺はダンジョンに行く事もなくひたすらジャックさんやメイルさんと復興のお手伝い。時々来るだけだったので、たまたま今人が多いだけであるという可能性もあるが、なんだか変なのであーる。
「今回提案された案に付いてお話をお聞きしたいんですけど!居ますでしょうか!?」
変だ。
トリガーラッキーさんは一体何をしてしまったんでしょうか?不思議です。
「凄い人だねー!みんな君の!?」
「羽山健人のファンではない!別の用事があってここにいるのだ!」
「キッシシ!これだけ居たらちょっとはファンもいるんじょねーか!?
最近では召喚獣同士で喋る事が多い。聞いた話によると、周りに聞こえないようにミュートでも喋っているそうだ。
ローズと俺が付き合っているという話もストームは知っていた。まぁ、別に良いんだけども。
事務所にちょっとした用があった俺だが、どうやら中に入るのは困難のようなので、ひとまずアーローさんに状況を確認してみる。適当なカフェに入ってメッセージを送る。
『何かありましたか?事務所の前が賑やかになってますけど』
『まだご存知ないようですね。トリガーラッキーさんが復興に召喚獣を用いる事を提案しました』
『それって実現しそうなんですかね?』
『まだ分かりません。ですが、可能性は十分にあります』
ラッキーさん……ありがとう……
思わぬ形でモンスターが自由に街を歩ける社会がググッと近づいた。
もし仮にこれがOKだったら、街のあちこちにモンスターが居るようになる。それが当たり前になればもっと広い範囲で自由を得られる可能性も十分にあるんだ。
『どうしてそんな事が出来るんですか?S級冒険者にある権利なんですか?』
『冒険者は選挙によって決まっています。もちろんそれは政治家としての信託を受けている訳ではありませんが、それでも影響というのは増すものです。S級冒険者が発言した事が世論に大きな影響を与えるようになってから、それを利用したいと思う政治家の集まりがS級冒険者のみを準政治家として承認するという法案を成立させましてね』
文字ばっかりでよく分からんが、要するにS級冒険者には発言力があるって事?元々その事は俺もなんとなく知っていたが、ちゃんとした制度や背景があるのは知らなかった。
『つまりは、簡単に言えばトリガーラッキーさんは実質政治家なので、この話は直接議会で話し合われます。そして昇級直後のS級冒険者の発言力はとても強いので、多くの場合でそのまま可決される事になります。ハネムーン期間のような物ですかね?イメージで言えば』
となると、俺がみんなが、まぁ、最低でもローズさんが自由に生きられる社会を本当に作りたいと思うなら、S級冒険者になった直後にその事をいう必要があるのか。
『大変申し訳ないですけど、僕がS級冒険者になった時の意見って頼めたりします?気が早い事は重々承知しています』
『どのような意見ですか?聞いておきます』
『モンスターが自由に人間みたいに歩けるようにしたい、という案になってしまうのですが、大丈夫でしょうか?』
それからしばらく返信が返ってこなかった。向こうは向こうで色々と大変だろうに、俺の変な願望まで聞かないといけないなんてねー。やばいねー。
『それは不可能ですし、あまり公言しないようにしてください。理由は簡単です。ソルドと同じような人だと勘違いされてしまうからです。それは多くの人の前で言うような意見ではありません』
『それなら召喚獣だけとかは?それでも不可能ですか?』
『それならそうと最初っから言ってください。《モンスターが自由に歩く》と《召喚獣が自由に歩く》では天と地ほどの差があります。そうでしたら制限などの中であれば可能だと思われます。実際に私有地であれば召喚しても良いという事に現在の制度がなっているので』
『想定される制限ってどのような物ですか?』
『今のトリガーラッキーさんの提案と同様に、下級ダンジョンの召喚獣に限定された物であれば十分に可能だと思われます。スライムなどは民間人でも倒せますし、怪我のリスクなどはないです』
『話が少し変わってしまいますが、召喚獣が人間のような扱いを受けるという案は不可能でしょうか?』
本題っぽいところに入り込んでみる。ローズは人間になりたいらしいから、人間にしてあげられるような案があれば良い。
『また今度ちゃんとお話ししましょう。後、人間のような扱いがどのような事を指すのかを考えておいてください。それでは私も忙しいので。申し訳ありません』
トン、と突き放されてしまったようだ。これは?あれは?じゃあそれは?みたいにずっと意見を出し続けていたから、きっとキリがないと思われてしまったんだろうな。
確かに、キリらしきものは自分の中にもなかったので、そのアーローさんの判断は正解だ。
何はともあれだ。何はともあれ、ローズが人間のように生きていけるような社会は間違いなく近づいている。ラッキーさんは協力してくれている。
だから、あとは俺が頑張る必要があるようだ。なんとかせんとくん。
「ローズ。もうちょい時間がかかりそうですよ」
「うん。分かってる」
俺は頼んでおいたパンケーキを食べながら、今後の事について考える。未だに食事制限はしている。しかし、これはアレだ。
世間一般で言うところの自分へのご褒美というやつだ。クリームが沢山乗っていて、ハチミツがかかったパンケーキ。甘い物食べるの久しぶりだなぁ。
○○
私は考え事をしていた。
モンスターとは何かについて考えていたのだ。
まず、私が対峙する事となったあの死神のようなモンスター、アレはなんだったんだ?私の知る限り、彼に倒された人は殺されてしまったし、私の元にいた召喚獣はみんな消えてしまった。
そして次はその話だ。私が使役していたモンスターはどこに行ってしまったのだろうか?さらには、私が抱えている悲しみは大事な物が消えた事によって起こっているのか、それとも、大事な仲間が死んでしまった事によって起こっているのだろうか?
失ってから初めて気付くことになるとは。私はやっぱりこの仕事が向いてない?
思えば戦い続けてきたせいか、周りに人は居なくなっていた。
パーティーを辞める、とみんなに言ってしまったせいで、その時の仲間との関係は薄くなってしまったし、闘技場から出て行ってしまったせいで闘技場にいた冒険者との関係も薄くなってしまった。
きっと、今のみんなともどこかで別れる事になる。色々と得た物は多いがそれと一緒に失った物もあるのだ。
広く綺麗な家の中で、カップ焼きそばにお湯を入れながらそう考える。
私と召喚獣との繋がりは、今ある全ての関係よりも濃かったのかもしれない。それに気付いてしまった時に、心にポッカリと空いている穴の正体に気付いた。
モンスターに感情移入をするなんて馬鹿みたいだ。こんなところを誰かに見られたら恥ずかしい。
1人で良かったと思うと同時に、誰かに居て欲しかったとも思う。そんな時にずっと近くにいてくれた人は、もうどこにも居なかった。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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