第59話 S級冒険者への昇給へ
様々な事があった、あの事件の翌日。俺たちの事務所には人だかりが鬼のように出来ていた。俺たちの事務所の前には山のように報道の人たちと野次馬的な人がいて、彼らは思い思いにそれぞれの言葉を発する。
「ありがとー!」
「トリガーラッキーさんはいらっしゃいますでしょうか!」
「顔だけでも見せてくれや!おい!」
事務所で面倒な事務作業をしていた俺は、外の異変に早々に気付いた。うーん、みんな耳が良いなぁ。
みんなの期待する気持ちは分かるが、残念ながらまだトリガーラッキーさんはこの場所にいない。俺とアーローさんだけだ。
「この様子なら選挙もなんとかなりそうですので」
「選挙?」
「今さっき渡した紙の中にありますので。D級からC級への昇級です」
「あぁ……これって怒られてる訳じゃないよね?こんなに被害出た訳だし」
「怒ってる人もいるかとは思いますが、私たちは最善を尽くしましたし、感謝している人もいますので」
上からチラッと見てると暴動が起こっているようにしか見えないんだよな。早くトリガーラッキーさんに帰ってきてほしい。ただ、どうやってこの状況をなんとかするんだろう。
「数日後の選挙はきっと問題なく執り行われるでしょう」
「ふーん、数日後かぁ」ピコン!
「ん?貴方のスマホですか?」
「え?俺じゃないよ?」
「あぁ、私でしたので。すみません」
アーローさんはスマホを持って奥の部屋へと消えていく。電話でもしてるのかしら?
あぁ、なんか面倒な事になりそうだなぁ。ダンジョンに行って雲隠れでもしようかな。こんなに頑張ったのにレベル一個も上がらなかったし。
「わ!分かりました!そ、それでは!」
壁越しからでもアーローさんの声が聞こえてくる。なんだか動揺している感満載だ。
「あ、あの。トリガーラッキーさんの為に昇級選挙が開かれるそうです!つまりは、S級冒険者になる可能性が出てきたという事です」
「あ、そうなんだ」
「なんで慌てないんですか!」
「だってずっと言ってなかった?S級冒険者になるって」
「そうではありますけど……でも、でも!数日後なんて聞いてないじゃないですか!」
「数日後?」
「同じ日付になっちゃいましたので!貴方は貴方で頑張ってください!私たちはトリガーラッキーさんだけに注力しますので!」
うーん、冒険者を取り囲む状況って全部変なんだな。だからみんな勝手に変になっていくんだ。なるほどねー。
まぁ、俺は選挙があると言われているのに全然焦っていなかったから、1人でも良いとは思う。だって運命でなんとかなるって言われてるし。
「まぁ、OK。分かりました」
「すみません!申し訳ないので!」
「いやいや、別に大丈夫で」
「「ううぉー!来たー!」」
事務所の外でそんな声が聞こえてきた。きっとトリガーラッキーさんがここにやって来たんだろう。未来のS級冒険者め。いつか必ず追いついてやる。
そこから数十分後、事務所にトリガーラッキーさんが入ってきた。到着してから中に入るまで時間かかりすぎじゃろ。
「お疲れです」
「お疲れなので」
「あの!トリガーラッキーさん、実は」
「知ってますので。昇級の話なので。羽山健人にお話ですので」
「え?俺に?」
なんか嫌な予感がするなぁ。どうせ変な事をお願いされるんだろうな、とか思っていたが、トリガーラッキーさんが言ったのは案外普通の事だった。
「メイルさんと一緒に街の復興のお手伝いをしてほしいので。場所はスマホに送りますので」
「あぁ、なるほど。それなら全然やります」
「選挙の時もなので。よろしくお願いしますので」
「ん?というとアレですか?今日からずっとですか?」
「そうなので」
まぁ、まぁまぁ、良いでしょう。面倒くさいのは間違いないけど、冒険者には珍しい困っている人を助けるような仕事だ。感謝されるのは悪くないはず。いや、まぁ、良いか。うん。
「それでは行ってらっしゃいなので」
「もう行くんですね。まぁ、それじゃ行ってきます」
「まだ召喚獣は使わないでほしいので。それでは」
謎に物分かりが良い俺はそのまま外へと出て行く。ずっと書類と向き合ってたせいで身体が固まってしまっているのだ。
外に出るとそこにはまだ沢山の人はいたが、それでも前よりは少なくなっている。
きっと大丈夫だろう、とか思ってなんでもないように歩いていたら、俺に興味があるという奇特な人たちもいて、少々取材やファンサービス?とやらに時間を取られてしまった。
さらに、ストームにまで取材が入ってしまい、もはや訳分からん状態になってしまっていた。
「ストームってファンいるんだね」
「えへへー!マスター……前のマスターと一緒に居た時にね!へへへ」
「マスター……俺の事は名前で呼んで?無理そう?」
「良いよ!健人!」
「そっちの方が良いね」
俺はストームのマスターじゃない。それに、彼女にとってのマスターはやっぱりソルドの事なんだろう。
それを俺が上書きするのは気持ち悪い。ストームにとってのマスターはずっとソルドだ。そっちの方が良い。
スマホを見て目的地を目指す。道中、作業員さんなのか、ボランティアなのかは分からないが、昨日置いたゴミを撤去する作業をしていた。
目的地を目指している途中、数キロほどの広さをした更地があった。ジャック騎士団が戦っていた奴はこの辺に居たんだろうな。
「あ!来たんだー。お疲れ様」
「いやいや、メイルさんもおつかれ。あれ?ジャックさんも?」
「そうだ。今さっき起きたばかりだが、復興の手伝いをする事になった。ここはまだマシだが、向こうは酷いだろ」
「確かに。あの、俺も手伝いますよ。何かあれば」
「なら水を運んでくれ。水道が完全にダメになっているみたいなんだ」
ジャックさんが指差した先には2リットルのペットボトルが沢山入った段ボール箱があった。なるほど、これは中々の重労働の可能性があるな、とか思いながらその箱を持ち上げたが、案外なんともない。
身体が強くなってる?普段からトレーニングしてるからか?
俺たちはその箱を避難していた人たちのところまで届ける。分配作業は他の人がやってくれるみたいなので、俺たちはただただ重たい荷物を運ぶだけで良いみたいだ。
中には色々な人がいる。この人たちのどれだけはモンスターを嫌っているのだろうか?
「聞いたよ。ソルドを倒したんだって?」
「うん。殺した」
俺はソルドを殺した。一応、この世界の冒険者は警察みたいな権限も持っているらしいから、殺したとしても法的にはなんの問題なないらしい。とはいえだな。
多少困惑した様子のメイルさんは次の言葉を言う。
「あ、そうなんだ。まぁ、凄いじゃん!そんな事出来るなんて流石に思ってなかったからさ」
「そうか。少し不安だったんだよ。お前たちに本当にソルドを任せて良かったのかどうかが」
「そっちは大丈夫でしたか?」
「大丈夫ではなかったな。ただ、メイルの助けもあってなんとかなりはした」
「メイルさんも?大丈夫だった?」
「大丈夫だからここに居るんでしょ?」
確かに。大丈夫じゃなかったら休んでるか。
都会の朝早くに起こった事件にも関わらず、多くの人がこの場所にはいる。ここはオフィス街的な場所だからそんなに被害も出ないだろうと予想していたけど、みんなそれぞれの生活を送っているんだな。
何度も水を運ぶ為に往復をしたり、残っている瓦礫を運ぶ為に沢山の人が労力を割かれているのを見ると、やっぱり召喚獣に頼った方が早いのでは?とも思う。
まぁ、今この状況では無理だろうけど、いずれはそうなっていかないかなぁ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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