第57話 ドクドクドクドク
後はもう時間の問題だろう、と思えるほど優勢になってきた。今回はトリガーラッキーさんもいるし、想像よりも短期戦で終わるかもしれないな。
ずっと元気だったストームもなんだかションボリしている。まぁ、正直俺との戦闘、いや、俺たちとの戦闘ってつまらなそうだしな。
「ねねねー?どうするの?ソルド〜?」
「うるさいな……まだまだ召喚獣は残ってるから!なんとかなるよ!」
「そう?ホント〜?」
「ホントだって!信じられないのか!?」
「何でそんなー!ねぇー!もー!」
2人は喧嘩を始めてしまった。まぁ、気持ちはちょっと分かるよ。俺もめちゃくちゃ喧嘩?喧嘩ではないけど、めちゃくちゃトラブルになった事あるし。
やはり召喚獣と人は分かり合えないのだろうか。別にそんな事関係ないけど。
「分かった!もう召喚する。いでよ!四獣!【召喚】」
「【毒弾】【毒弾】【毒弾】【毒弾】」
バン!バン!バン!バン!と4回続けてトリガーラッキーさんは銃弾を放つ。すると、現れたばかりの召喚獣たちが猛毒で苦しみだす。
これはもうゲームオーバーだ、可哀想……いや、というか、これから俺はソルドを殺すんだった。なんかいきなり重たい気持ちになる。仕方がないけど、まさかそんな事を経験する事になるとは。
俺は鉄人化を解除して、ソルドに話しかける。
「もう諦めなよ」
「お前!さっきまでずっと籠っていたくせに!優勢と分かるとすぐに」
「ハッキリ言うよ。お前は死ぬ運命にある。だから、最後にどうしてこんな事をしたのか話してくれ。俺の理想もお前と近い」
流石に俺も分かってきた。これは流石に抗えない。そういう次元のスキルじゃないよ、トリガーラッキーさんの《運命》は。
「は?は!?何言ってんだよ!?ふざけんな!死ぬ訳ないだろ!僕が!」
「ねねね!どういう事?何の話?」
「うるさい!!まだ四獣は生きている!ゲンブ!スザク!ビャッコ!セイリュウ!今がチャンスだ!アイツらを」
「ねーねー!私はー!私に指示はー!」
「分かってくれ。なぁ、ストーム。違うんだよ。無理なんだよ……無理なんだよ!!!」
ソルドはそう言ってその場にうずくまってしまった。何かを恐れているみたいだ。いや、きっと運命を恐れている。
何でそんな人生を歩む事になっちゃったのかね。でも、いうて俺の未来の可能性もある。
四獣と呼ばれる召喚獣は、毒に苦しんでいる。ソルドは冷静さを失い、【解毒】する事を忘れていた。
ボロボロになった街の様子や、吹き荒れる台風を見ると、俺はこの人がS級冒険者であるという事に納得する。
しかし、今目の前にいる人はそんなに大層な人じゃない。どこまで偉くなっても人は大した事ないかもな。
「なんで……はぁ……」
「俺の理想は、つーか。俺はローズが自由に街を歩けるような世の中を作るって約束したんだよ。だから、ソルドがやろうとしている事とほとんど一緒だ」
「エテルか……それは立派だよ」
「でも。俺は別に人間を殺したい訳じゃないからな。人間を殺したくないのと同じように、俺はモンスターを殺したくない。人間が街を歩くように、モンスターにも街を歩いてほしいんだ」
「それは矛盾しているよ。僕もその矛盾に悩んだ。そして、人間の価値に気付いたんだ」
矛盾している。冒険者とはモンスターを殺す仕事だ。モンスターを殺さないと経験値なんて貰えないし、モンスターを殺さないとお金が貰えない。
冒険者という仕事を選んだ時点で、モンスターを人間として見れないという論理は俺にも分かる。でも、モンスターは生きている。
間違った事をしているからと言って、正しい事を避ける必要はない。
「その結果がこうだ。無様だ。何がしたかったのか今になってみたらよく分からないよ。ただ、ただ俺はモンスターを殺しているという事実を、人間を殺す事によって紛らわせたかったのかもしれない」
「まぁ、大変だったんですね」
「なんか重たい話ー?楽しい事しようよ!」
ストームは呑気にそんな感じの事を言っていた。そうだ。ソルドが死んでしまうなら、ストームの行方がない。
「君、俺と一緒に来る?」
「えー?どうしよー!ソルドがなんて言うのかなー」
「行けば良い。どうせ死ぬんだ僕は。僕は本当にお前を愛していた」
「えー!そっかー。なら一緒に行こうかな?」
こうなってしまったという事だ。なるほどな。なるほど、だから俺が殺すのか。
パーティーでモンスターを倒すと誰に使役されるのかがランダムになってしまう。だから、確実にストームを使役したいのであれば、俺が俺の手でソルドを殺す必要があるという事だ。
「話したい事はもうない?後悔は?」
「後悔……最後にローズに会わせてくれないか。それに金蜘蛛も」
「大丈夫?」
「……良いよ」
「キッシシ!問題ないぜ!」
「【召喚】」
俺はローズとゴーパーを召喚した。どうせならアルダードも、とか思ったけど今は元気ないみたいだし、このままにしてあげよう。
「どうしてソイツを……お前名前なんて言うんだ?」
「俺?俺は羽山健人」
「あぁ……聞いた事はある。どうして羽山健人を選んだんだ?」
「キッシシ!!理由は簡単だぜ!楽しかったからだよ。追いかけっこが」
いや、俺も初めて聞いたけどそんな理由だったんかい。確かにめちゃくちゃ追いかけっこしたけど、そんな理由で使役される事を選んだのか。
「そんな理由で……なら、ローズは?ローズはどうして?」
「私は。私は約束してくれたから」
「さっき言ってた約束か。なら、どうして僕はダメだったんだ?」
「分かんない。でも、多分」
ローズさんはソルドから顔を背ける。言いづらい事でも言うのかな。それとも、嘘とか?
しばらくは沈黙が流れて、激しい雨風の音だけだ。
「……貴方が辛そうだったから」
「俺が?」
「貴方は生きてるのが辛そうだったし、私は召喚獣になりたくなかったから」
「…………もっと楽しい未来を見せてあげれたら良かったのかな」
「分かんない。でも、あの時の私はおかしかったから」
「これが運命か……僕にも分からない」
まぁ、なんとなくというか、そりゃそうなるよなって感じではあったな。だって普通にあのままだとローズ死ぬ事になったんだし。
死ぬか生きるかなら、生きる方を選ぶ人がほとんどだろう。そしてローズはそれを選んだ。
「幸せにしてくれそうだったから?健人は私を幸せにしてくれるかもって思ったから」
「……お、おう。そ、そうだった?幸せにしてくれそうだった?俺?」
「うん。ちゃんと出来てたよ。健人は」
「そ、そっか」
なんで照れてるんだ。俺は、バカか。
照れるようなタイミングじゃねー。マジで。本当に。これから先何があるのか、そして、今何が起こってるのかを考えたら、どう考えても照れるようなタイミングじゃねェ。
「そろそろ終わりなので。四獣も死んでますので」
「そうか……じゃあ。殺すんだな?俺を」
「私は戻りますので。後はご自由に」
俺は背中に背負っていたハンマーを取り出し、構える。ちゃんとしないとダメだ。ちゃんと一撃で、ちゃんと殺してあげないと可哀想だ。
「あぁ!死にたくない!こんな気持ちだったのか!みんなは!」
「そうかも。人間もモンスターも死ぬ時は大して変わらないんだろうな」
「あぁ!ストーム!僕を押さえてくれ!逃げ出したいんだ!でも、逃げたくなんてないだろ!だって死ぬんだ!死ぬんだ!」
「アハハー!押さえてあげるねー」
「【振】」
俺はハンマーをバットのように構えて、ソルドの全身に向かって思いっきり振り抜ける。
気持ちの悪い感触があった後、血だらけになって動かないソルドを見て、みんながモンスターを生き物として見れない理由が分かった。
モンスターには死体がないんだ。だから、自分のやった事が分からない。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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