第54話 約束を破っても良い
街並みはボロボロだ。モンスターは人を殺さない、という話を聞いていたが、これだけ瓦礫が散乱しているなら下敷きになっている人もいるだろう。被害者がいないなんて有り得ない。
それに『死神』。死神の咆哮で人が一人消えたのを見てしまうと、そもそもの、モンスターは人を殺さないおいう前提が間違っているような気さえしてくる。
俺たちは走るしかなかった。ジャック騎士団のみんなが時間を稼いでくれている間に、あんな奴が街で自由にしてたらこの世界は終わりだ。なら俺はどうするんだ。
「スマホを貸して欲しいので!」
「スマホ!……はい!」
走りながらそんなやりとりをした。そういえばトリガーラッキーさんのスマホは完全に消えてしまった。そんな事気にしてる場合じゃないか。
ラッキーさんは器用に、走りながら文字を打ち込んでいる。誰に連絡を?アーローさん?メイルさん?
打ち込み終わったラッキーさんに聞いてみた。
「誰に連絡したんですか?」
「メイルですので。死神の所に向かわせるので」
「そんな!大丈夫なんですか!?」
「大丈夫なので。後スマホはもうちょっと借りるので」
「え?」
確かにメイルさんはA級冒険者だし、強い人だっていうのは分かってるけど、あんな化け物に対処できるほどの実力があるとは思えない。
心配だ。だって、死んでしまうかもしれない……いや、その前にソルドをなんとかすればいいのか?
「急ぎましょう!もっと走れますか?」
「もちろんなので!!」
トリガーラッキーさんは何かのスキルを使い、今までよりも足が速くなる。
俺も【俊敏】を使って全身全霊で全力疾走していた。
○○
『この場所に行ってほしい。ジャックがいます』
住民の避難活動に協力していた私の元にやってきたのはトリガーラッキーのメッセージと、ピンが刺された地図だった。
ジャック、S級冒険者のジャックの事であるならば、私の助けなんていらないはずだ。
彼は無数の職業をマスターしていて、無数のスキルを自由自在に使う事が出来る冒険者だ。
ひたすらに固定のパーティーでレベル上げをし続ける。そのパーティーはいつしか『ジャック騎士団』と名乗るようになった。
彼らの特徴はその連携だ。だから、そこに私が行っても邪魔になるだけだろう。
「ここは任せて大丈夫?」
「はい!避難は僕たちに任せてください!メイルさん!」
「そっか。ならよろしくね?」
「はい!」
そんな事を思いながら、避難者救助を私の周りにいた他の冒険者に任せる。私はこのピンの場所に向かう事を決めていた。
トリガーラッキーの事は信じておいた方が良いんだろう。そして、なによりも、5億グルの鎧。
私にはまだこれを着ている意味がない。還元しないと。
走り出した私の目の前に、さっき召喚したはずのウルブルがやってきた。
「あれ?どうしたの?」
「ご主人。モンスターは倒し終わりました。次は何をすれば?」
「ナイスタイミングね。私をこの場所まで連れて行って?」
私はスマホの画面をウルブルに見せる。こんなに堂々と召喚獣を街中で召喚出来るのは、何か特別な気持ちになるような出来事だ。
「分かった?連れてってくれる?」
「御意!!」
私はウルブルの背中に乗って次の目的地を目指す。道中、ウルブルに乗りながら、モンスターが別のモンスターと戦っているところを何度も見た。
みんなも私と同様に召喚獣に頼っているんだろう。不思議な感覚だ。
モンスターに街を壊されているのに、それを守ろうとしてるのもモンスターだなんて。
「申し訳ない!俺たちの仲間が街を壊してしまって」
「ウルブル?」
「モンスターはモンスターでしかないはずなのに。俺たちは、人間を喜ばせる為に生まれているはずなのに」
不思議とその言葉は私の胸に刺さった。今まで考えた事なんてなかったかもしれない。
きっと、羽山健人はその事を知っているんだろう。だから、あんなに簡単そうにモンスターを使役する事が出来るんだ。
でも、それは彼自身の強みではないはずなのに。彼の強みはいつまでも発動し続けるリジェネのはずなのに。
またもや世界の不平等に悩む。どうしてあんなに優れているん……え?
ひたすらに進み続けていた私の目の前に砂埃が舞う更地が現れた。その中心には2、3人の人と、馬に乗った背の高い骸骨。
おそらく目的地はここだ。ここでジャック騎士団が戦っている。私は震えてしまった。どうしてかは分からない。しかし、ここに居ると死の恐怖がやってくる。
ウルブルがそこに近付く度に不安が強くなって、身体が寒気でおかしくなりそうになってしまう。
「戻れ!お前に倒せるような……お前はメイル?」
「……私はメイルです」
普通に会話が出来るほど近付く。そして、近付けば近付くほど死の恐怖は強くなる。
「それなら手伝ってくれ……もう体力もかなり減らしているはずだ。後一押しなんだ!」
「……分かりました」
「ガードは忘れるなよ!?俺が指示を出すまではずっとガードをしておくんだ!」
「……はい!」
私はウルブルから降りて、ジャック騎士団と合流する。しかし、怖い。どうしようもないくらい怖い。手足が震えてまともに立てない。
そんな私を見透かすかのようにウルブルは寄り添ってくれる。私に近づいてくれた。
「ご主人!これは敵のスキルです。その不安は貴方の感情ではありません!」
「でも……」
「恐る事はありません!貴方には私が付いております」
「ありがとう。ウルブル」
少し落ち着いた心は「ガガアァァ!!!」という咆哮でまた不安になる。だけど、大丈夫だ。近くにはウルブルが居る。
「中々の威力。ご主人、これは……」
「今だ!咆哮の後はチャンスだ!」
私とウルブルは二人で死に立ち向かう。このままじゃみんなも死んでしまうかもしれない、と思ったからだ。
○○
俺たちが走っていた先にあったのは闘技場だった。みんなもう避難を済ませているからか、ここに人気はない。しかしソルドはここにいるんだろう。きっと。
モンスターがこれだけ暴れているんだから、俺の理想はかなり遠くにいってしまったような気がする。それにムカムカしていた。
他にも理由を挙げようと思えば挙げられるが、これが一番ムカつく。あとどれだけ頑張れば俺はローズの約束を守れるんだ。
金蜘蛛の装飾が施された闘技場。もしゴーパーに神様みたいな力があるなら助けてくれ。俺もみんなも。願いも叶えてくれ。
「行きますので。中にいますので」
「本当にここに居るんですか?でも、何でこんな場所に?」
「さぁ?私もただ知っているだけなので。あと召喚獣は全て召喚してから行ってください」
「全員?」
「そうなので」
向こうは召喚獣を使って戦ってくるはずだ。それに対抗するための手段として、俺たちも召喚しておく。そういう事だろうとは思ったが、これからS級冒険者との戦闘だ。
みんなも傷付くことになるだろう。痛い思いをする事になるだろう。
そんな事を言ってられないのは知っているので、俺は召喚する。
「【召喚】」
「キシシ!大変な事になってるみたいだな!?俺たちの力が必要か?」
「我らに任せるが良い!お前の力になってやるぞ!羽山健人!」
「……」
「ローズ」
あれからまともに話せてない気がする。てか、きっと不安を感じているはずだ。俺が感じているイライラと同じような理由で不安なはずだ。
「ローズ。大丈夫。全部解決するから」
「……良いよ」
「へ?」
「もう何にも解決しなくて良いよ!約束を破っても良い!!だけど!」
ローズは大粒の涙を流す。その瞳には似合わないほど大きな涙。
「死なないで。絶対」
「……分かった」
「安心してほしいので。羽山健人はこんな所では死なないので。ローズさん?」
「……」
ローズさんは黙って俺の後ろを歩く。俺が一番先頭だ。目的地は闘技場の中心。死なないのは得意だぞ。その約束なら絶対に守れる。俺は至って健康体だ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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