第53話 『死神』
俺はジャックさんと一緒にひたすら走っていた。なんか走ってばっかりだな。目的地らしき建物も見えてくる。
マンションのような高さをしている建物だったが、ベランダが存在せずに豆腐の頭がギュンッ!と伸びている感じだ。
つまりは長方形の一軒家。分かりやすい目印だ。
S級冒険者がどうして協力してくれる事になったのか?トリガーラッキーさんが連絡してくれてたんだろうけど、こんなところにも繋がりがあるのか。
「あの、どうしてソルドの事を?」
「そもそもアイツはおかしな奴だったよ。元々街中でモンスターをいきなり召喚するような奴だった。だから、トリガーから話を聞いた時も単なる与太話ではないと思った」
「なるほど」
「準備をするに越した事はないからな。嘘ならその準備のままダンジョンに向かえば良いだけだ。本当だったけどな」
やっぱりトリガーラッキーさんから連絡が入ってたのか。俺たちはひたすらに走っていたが、道中に杉の木ほど大きなクマのようなモンスターがいた。なんか黒いオーラを纏っている気がする。
見た目からしても、大きさからしてもコイツはきっとボスモンスターだ。なんとかして倒さないと被害が広がるばかりだ。
「いくぞ。ハートだ」
「【灼熱】」
「【雷光】」
「【焔】」
「【紫電】」
「【着火】」
ジャックさんたちはそのクマのモンスターに、走り続けたままスキルを放つ。
5人から火の球体や、紫色をした雷が連続でクマに叩き込まれていき、全く無駄のない動きで、一切足を止める事なく討伐が完了した。
一瞬で敵を倒したのもスゴイが、全く止まらずに完璧な連携で敵を倒したのはもっとスゴイ。ダンジョンもこんな感じで攻略していくのだろうか?
イフリートも道中にいたが、またもや5回のスキルで倒してしまった。
「体力あるな」
「え?俺ですか?」
「そうだ。名前は?」
「羽山健人です」
「噂の冒険者か。事務所は?」
「トリガーラッキーさんの」
「分かった。覚えておくよ」
ジャックさんは俺に興味を持ってくれているみたいだ。でも俺はただただ走る事や耐える事が得意なだけで、さっきみたいなスキルを使って敵を倒すみたいな事は出来ない。
なんとなく勘違いされているような気配を感じながら、やっぱり俺は走っていた。うーん、ずーっと走ってる。
○○
私が辿り着いた時、もうそこにはドラゴンは居なかった。そこに居たのは周囲の人から讃えられているコッパーさんとキングだった。近くでみると本当にキングは大きい。
モンスターみたいだ。5メートルもある人間なんて見た事がない。どうして?
「アッハッハ!無事に討伐出来たか!ならば我らはまた別の場所に赴くとしようか!コッパーはどうするのだ!?」
「私?私は避難したい人の手助けかしら?」
豪快な笑い声はどこまでも響く。どうしてあんなに身長が高いんだろう?私が知る限りだと病気によってホルモンが異常に分泌されているらしいが、それにしても伸びすぎじゃないか?
「あら?メイルさんも来たの?」
「はい。討伐は終わりましたか?」
「アッハッハ!!我らに掛かれば一瞬だったな!」
「そうね?でも、まだ多少は残ってるのかしら?」
私の気持ちの知らないで。
ただただ恵まれているだけだ。どうせ、どうせそれだけの事なのに、なんで私がダメでこいつらは良いんだ。
早く終わってくれと思った。早く全部が終わってほしいと心から願っていた。羽山健人とかトリガーラッキーが終わらせてくれると期待した。きっとあの2人なら、あの2人なら終わらせられる。
「コッパーさん!報告です!また新しくA級のボスが出現したそうですよ!」
「あら?そうなの?」
「行きましょう!キング様はどうなされますか!?」
「我も向かうぞ!!おいメイル!!ここは任せたぞ!」
「え?あ、はい!」
風に姿を変えたコッパーさんと、車のようなスピードで走っていくキング。やっぱりあの二人おかしい。
私は無理やりここでの仕事を押し付けられた。避難とかはもっと低い位の冒険者がやった方が効率的なのに。
不安ばかりを考えてもしょうがないので、私はみんなを安全な場所へと誘導する。これも立派な仕事だ。私も必要だ。
○○
「ここか。ソルドの大豪邸は」
「はい。そのようです」
「思ったよりも警備は手薄だな。行くぞ!」
目の前には本当にほんとーーに大きな大豪邸があった。どれぐらいだろうか?もしかしたらワンチャン小さな遊園地ぐらいの広さがあるかも知れない。
そして、なによりも俺が気になったのは広さ、ではなく、高さ。
近くで見上げると、おそらく10階建てのマンションほどの高さがある。しかし、これは一軒家なんだろう。きっと。
中で召喚獣を召喚しているんだろう。アルダードとかを自由に歩かせるためには、これぐらいの広さと高さが必要だ。
ジャックさん達は躊躇う事なく中へと進んでいく。俺も遅れて着いて行った。というかトリガーラッキーさんたちは?
「あの!ここは私有地です!立ち入らないでください!」
「お前も避難した方がいいぞ。ここはおかしいだろ?どうだ?」
「そんな事ないと思いますが……」
「最近ここに来たのか?」
「はい、つい最近です」
「仕事よりも命を優先しろ。俺たちはここを通る。良いな?」
「いや!ダメです!私が怒られるんですから!」
警備員さんは健気にジャックさんたちを阻もうとしている。モンスターが街を襲ってきているというのに今もなお仕事をしようとする気持ちは凄いけど、実際問題そこに居られたら困るんだよなぁ。倒す訳にもいかないし、どうすれば良いんだろう?
「貴方は帰った方が良いので。鈴木彰人さん」
「へ?なんで私の名前を?」
「貴方が所属している企業に問い合わせましたので。貴方は前任者が辞めた理由を知らないので」
「え、ど、どういう?」
「電話ですので。話してください」
そこにやって来たのはトリガーラッキーさんだった。どうやらこの状況を解決するための秘策を持っているらしく、その警備員さんにスマホを渡す。
「鈴木くんか!その場所は危ないぞ、帰った方が良い!」
「葉月さんですか?どうして?」
「ソルドの豪邸の警備をしているんだろう?その家は危険だ。恐竜の足音のように巨大な音が聞こえてきたり、木々を覆うほどの大きな影が現れたりするんだ。分かるか?」
「どういう事ですか?」
「今この状況!もしかしたらソルドのせいかも知れないんだ!そんな場所にいたら危ない!あとは冒険者の方々に任せた方が良い!」
「でも……」
「私はソルドを告発する事に決めた。私もいくつか証拠を持っている。彼のこの計画も小耳に挟んだ事がある、冗談だと思って無視していたが、まさか本当にこんな事をするなんて」
警備員さんは困惑している様子だ。その隙を見てジャック騎士団の皆さんは中へと入っていく。彼はそれを止めなかった。
「うーん、俺たちも中に?」
「ここにはソルドは居ませんので。私たちは移動しますので」
「え?じゃあどこに?」
「ジャック騎士団の皆さん!!家の中の召喚獣は任せたので!」
「なに?なんの話だ?」
……ガガアァァ!!!
長方形をした建物の中から咆哮が聞こえて来たかと思うと、ローブを付けて鎌をもった骨だけの男が白馬に乗って外へと出てきた。
身長は4メートルほど。その姿を見ると、何故か背筋が凍った。
「『死神』。これは……骨が折れるぞ」
「S級でしょうか?」
「そうだ。S級ダンジョンのボス。どうやったらこんなモンスターを使役出来るんだよ」
「どのようなモンスターなのでしょうか?データが不十分です」
「……オイ!全員ガードだ!」
骸骨はもう一度吠える。すると、周囲の建物が全て粉々になり、目の前にあった大豪邸も消えた。俺にも7,000ほどダメージが入る。ガードしてなかったら死んでた。
……さっきまでそこに居たはずの警備員さんが消えた、何もかもが消えてしまった。
……本当に死神だ。これは死神。今まで感じた事のない感情になる。コイツは人を殺せる。なぜなら死神だからだ。
「とんでもないのを召喚しやがって。行くぞ!」
「「「「ウォォォ!!!」」」」
ジャック騎士団は立ち向かう。死に立ち向かっていた。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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