第51話 コッパー、ジャック、キング、トリガーラッキー、羽山健人
事件の前日、事務所の中はとにかく慌ただしかった。
見た事ある冒険者と見た事ない冒険者が部屋を出たり入ったりしている。俺が住んでいた部屋も奪われてしまった。
中央の広い部屋の壁には街の地図が貼っており、それぞれの冒険者が街のどこで待機するのかが書いてある。ちなみに、俺がどこに待機すればいいのかは書いてなかった。
自分の名前はどこ探してもなかったので、ちょっと重要な事をやらされるのかもしれない。もしくは事務所で待機をするのか。
「忙しいな!!お前は慌てないのか!?」
「指示出されてないからね。このまま待っとけばいいんじゃないかな」
「そんなにノンビリしてられるのか!?」
「まぁ、何すれば良いのか分からんし」
そもそも、明日俺は何があってソルドとかいう人を殺す事になるんだ。普通に考えて今の自分の状況からそこに発展していくのが全然想像付かない。
そもそも、そもそも、俺は本当にトリガーラッキーさんを信じて良いのか?人を殺すって大変な事だけど、そんな事してら普通に捕まるだろ。てか、ダメだろ。
複雑な気持ちになりながら、俺は事務所でジッとしていた。
「こんにちはなので。それでも行きましょうなので」
「え?どこに?」
「ホテルです。ここだと休めないし、少し遠いので」
「あぁ、なるほど」
「一番良い部屋を取ってあるので」
トリガーラッキーさんが部屋に入ってきてそう言った。確かにちょっと慌ただしいなぁ、とは思ってたけど、ホテルまで取ってくれているとは。気が効くのか効かないのかよく分からない人だ。
アーローさんも居たので、車に乗せてもらった。道中で色々聞いとかないといけない事がある気がする。
「本当に、召喚獣を街に放つなんて事起こるんですか?そんな雰囲気全くないですけど」
「起こるので」
「イメージでしかないんですけど、S級冒険者がそんな事するんですかね?あんまり詳しくないですけど」
「しますので。悪い人は一人だけではないので」
「え?」
「クインも後で殺しますので。それで席が二つ空きます。そこに私たち二人が座りますので」
まただ。また変な事を言われてしまった。どうしてそんなに当たり前みたいな顔して人を殺す話が出来るんだ。
というか、その二人の席に俺たちが入るってなんか印象良くないな、コッチが黒幕みたいじゃん。黒幕なのか?
「クインもS級冒険者なんですか?」
「そうなので。彼女は瞳をメドサの金色の瞳と変えました。シリンがやったので」
「メドサ……なんか知らない単語ばかり」
「アーロー。説明して」
「メドサは相手を石化させる事ができるモンスターです。そして、S級冒険者のクインは目で見ただけで相手を石化させる能力を持っています。その力を手に入れたのは、シリンが彼女の瞳を改造したからです」
「なので」
そんな事出来るんだ。てか、S級冒険者って二人も悪い人だったのか?五人しかいないのに?
俺が会った事があるコッパーさんは、まぁ、変な人ではあったけど良い人そうだったし、みんなあんな感じなのかと思っていたら、案外そうでもないみたいだ。
「S級冒険者って五人ですよね?誰がいるんですか?」
「コッパー、ソルド、ジャック、クイン、キングの五人です」
「へぇ……でも、二人いなくなったからと言って俺たちが入れる訳でもなくないですか?」
「S級冒険者が起こした問題は私たちが解決します。なので、必然的に私たちを必要とする声が高まります」
やっぱり俺たちが黒幕なのでは?大丈夫だよね?ソルドとクインって人は本当に悪い人なんだよね?大丈夫?
二人を信頼していない訳ではなかったが、どうしてもその可能性は否定できない。どうしたら良いんだ、従ってて良いのかな。
そう思っていると、トリガーラッキーさんが喋り出した。
「コッパー、ジャック、キング、トリガーラッキー、羽山健人。これが次のS級冒険者なので」
え?ダサ。俺だけなんかダサ。
あまりの違和感に鳥肌が立ちそうになったが、これって俺なんだよね?羽山健人って正真正銘俺の事だよね?ダサくない?俺も気が利いた名前を付けておいて欲しかったなぁ、うーん、嫌だなぁ……まぁ、嫌って事もないか?どうだろ?
「とにかく!!私たちは明日ソルドを殺しますので!!よろしくお願いしますね、羽山健人さん」
「あぁ、分かりました……」
トリガーラッキーさんは、俺の気持ちを分かっているのか?羽山健人って呼ぶ必要なかったはずなのに、わざわざ羽山健人なんて言ってきちゃって。俺が名前に不安を感じている事がバレていたのか?
「着きましたよ。キングホテルです」
「キング?冒険者の?」
「はい。44階建ての最上階に貴方の今日泊まる部屋があります」
「たっかー。そんな……たけ〜」
俺はどこまで上っていくんだ。エレベーターに乗りながらそんな事を考えていた。
ヤバい事が起こってますので。どうしたら良いのか分からんので。なぜか三人で一緒にエレベーターに乗って、最上階へと向かっていた。一人でも大丈夫なのに。
「ゆったりここで待っていて居れば良いので。景色もよく見えますので」
「あぁ、すみません、部屋の中まで案内してもらって。もう帰っちゃうんですか?」
「はい。忙しいので」
どこまでも見えるんじゃないか、と思えるホテルの最上階で、俺は二人とさよならをした。内装も豪華で、いかにも最上階!って感じの雰囲気が漂っている。
冷蔵庫の中には見た事もないジュースが入っている。ワインみたいな見た目をしたオレンジジュースだ。
「広いな!!ここならゆったり出来そうだ!!」
「キッシシ!俺を召喚してくれよ!自由になりたいからな!」
「良いよ…………ローズは?」
「私?私は良いよ」
「そっか。なら、【召喚】」
ゴーパーを部屋の中で自由にさせる。それでも全然問題ないくらいの広さがこの部屋にはあった。あともう一人ぐらいなら普通に問題ないくらいの広さ。アルダードは無理だけどもね。
ローズはあの事があってからあんまり喋らなくなってしまった。本当に喧嘩した後のカップルって感じ。
俺が恋人になっているなら、俺が元気付けてあげた方が良いのでしょうか?でも、何をどうすれば?
「良い部屋だ!広くて。ね、ローズさん」
「ね」
「まぁ、トリガーラッキーさんが言ってるだけかもしれないけど、なんか上手くいくみたいだから、うーん。まぁ、なんでしょうね。なんか食べます?」
「いらない」
「なんだお前ら!!もっとハッキリ言ってしまえ!言いたい事があるならな!!」
……まぁ、確かにそうなのかもしれない。俺には言いたい事があるが、それを遠回りして雰囲気だけで言おうとしていた。アルダードの言う通りだ。いや、でも!なんだ!これは!
「まぁ、俺はローズの事好きだから。別に全然気にしてないし」
「……なんで?私と会ってからの時間なんて知れてるじゃん。どうして?」
「なんで……まぁ、運命なんじゃない?いや、運命なので」
「私があの人に貴方と付き合ってるって言ったのは、その方が上手くいくと思ったからだから」
「そっか。じゃあ、俺はローズの事が」
ローズは動揺している。きっと、自由に歩いていたら暴走していたのかもしれない。でもそしたら俺が戻せば良い。
「私も貴方の事好きだから良いよ。このままで良いよ。貴方がそれで良いって言うなら」
「このままが良い。俺はローズを愛している。うん」
……はぁ……なんだ?俺は誰なんだ?
素直な気持ちを伝えてしまったら、会話が途絶えてしまった。仕方がないので俺は冷蔵庫にあったジュースを飲む。これで俺たちは間違いなく恋人だ……
はぁ……愛って辛いのね……
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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