第43話 ここはモンスターと恋しちゃいけない世界ですか?
連絡を送ってからしばらくすると、『テレビとかでお前の名前よく見るよ。しかし、遊びの誘いなんて珍しいな。送迎会すら出来てなかったし会おうか。今度の土曜に酒でも飲みに行こう』と、返信が来た。
酒かぁ……居酒屋ではあんまり召喚獣の話出来なさそうだし……出来ればもっとプライベートな場所、本音を言えば家で会いたい。もっともっと本音を言うとローズとかと話をさせたい。
家に人なんか誘った事ねぇ……健康を優先してると友達なんか出来るわけないね。
『ごめん!出来れば人目に付かない場所が良いからさ。結構遠いし、無理そうだったら良いんだけど俺の家とかはどうかな?』
有名人で良かった。普通に断られる可能性もあるけど、あくまでも確認だけだからな。自分がおかしいのかおかしくないのかを確認するだけの、だけっていうと違うか。
久々に柏木に会いたい気持ちもなくはないし、ダメでもまた今度予定合わせようかな。てか、アーローさんに報告しなくて良いのかな?スケジュールとか。
それから何度かやり取りをして、今週の土曜日に俺の家に柏木が遊びに来ることが決まった。あぁ!呼んだら呼んだで面倒くさい!掃除しとかないと!
掃除をしようとも思ったが、今日はまだトレーニングをしていなかったので、ひとまずジャージに着替えて走る事に決めた。玄関で靴紐を結んでいると、ローズが話しかけてくる。
「どこかに行くの?」
「ちょっとトレーニング。とりあえず走らないと」
「……ここに召喚してくれない?私を」
「あぁ、家の中でって事?それなら良いよ」
「え?良いの?」
「うん。私有地だったらOKらしいし。ローズはアルダードみたいに大きくないから……」
そうだ!今度引っ越そう!
アルダードも生活出来るくらいの広い家を、メイルさんから買う予定の山に建てて、そこでのんびり暮らす事にしよう。
転移さえあれば住んでる場所なんてどこでも良いわけだし、コレも後でアーローさんに頼んでみよ……秘書って大変な仕事やな。
「【召喚】」
俺は自分の部屋にローズを召喚する。一人暮らし用の部屋だから二人だと狭くなりそうだ。やっぱり引っ越し……うーん、やる事がめちゃくちゃ沢山あるぞ。なんか選挙もある……選挙って土曜か?日曜か?
どっちだかは分からなかったが、前の当選の時にも立ち会ってないし、なんとかなるはなるかもしれない。
「私はここで待ってるから。いってらっしゃい羽山くん」
「あ、あぁ、いってきます」
ローズはニコッと笑いながら、俺に手を振ってくれた。それに対してぎこちなくなりながら、外へと出ていき、玄関の扉を閉めた。深呼吸。
……今まであんまり気にしてなかったけど、ローズって、俺が見ているところで笑ってなかったのか。
初めて見る笑顔に動揺しながら、それを掻き消すためにいつもより早く走り出す。今日は寒い。肌寒いような日だ。
○○
私が想定していた触れ合い。それはもっと単純で、一つの目的の為にある物だと思っていた。
恋なら恋。好きなら好き。嫌いなら嫌い。利益なら利益。純粋な触れ合い。それが触れ合いだと……というよりは会話かな。触れ合いではなく会話。
しかし、現実は複雑だ。愛と利益と嫌いと好きが全部入り混じって、訳分からなくなりそうなのが会話……いや会話でもない。
やっぱり触れ合い?コミュニケーション?お話し?
……人間?私はまだコレに名前を付けられていない。いつかはもっと深く理解するようになれば、その名前も分かるのだろうか。
○○
ランニングから帰ってきて、玄関の扉を開ける前、今までは誰もいなかった部屋の中に他の誰かがいる事を思い出し、ドアノブに手を掛けるのを少しためらった。
「た、ただいま」
「おかえり」
この部屋は狭い。だから、ここからでも奥のリビングにいるローズの顔が見える。その顔はやっぱり笑顔。いや、そんな顔見せてなかったじゃん、今まで。
うむ。頭がおかしくなりそうだ……え?もしかして俺って召喚獣に恋しそうになってるの?ヤバ……
……そうか。そうかこれか。冒険者がモンスターをモンスターとしてしか思えない理由ってコレか。
俺の場合は恋人で引っ掛かっちゃったけど、みんなは一番最初の友達で引っ掛かってるんだ。
俺が、『モンスターと恋人になるなんてどうかしてる』と思ってるのとほとんど同じ。
アーローさんたちは、『モンスターと友達になるなんてどうかしてる』と思ってるんだろう。多分。
「どうかしたの、羽山くん」
「あ、そんな、何かがあった訳ではないです。はい」
笑いながら「羽山くん」というのは辞めてけれ。好きになりそうな気配が僅かにでも湧き上がってくると、どうしたら良いのか分からんくなる。
でも、まぁ、もしかするとローズと恋人になる事、それは俺でも出来ないかもしれない。
なんか、モラル的なロックでそこまでは踏み込めないかもしれないけど、でも、別に友達なら普通になれるし、現に、ローズはまだ分からないけど、ゴーパーとアルダードとは友達ですからね。
そこまでは俺でも納得出来るし、俺でも問題ないと思えるのよ。ただ、ただ!!ただ恋人は流石にやりすぎじゃないか?
ローズはモンスター……だから好きになったらダメなんだ……ウググ……オレ、ニンゲン、ヤメナイ……
俺は部屋の中へと歩いていく。狭い。二人で暮らすには絶対狭い。早く引っ越しをしないと……出来るだけ早く引っ越しをしないと俺の自我が……いや、待て?本当にダメなのか?
ここはモンスターと恋しちゃいけない世界ですか?ヤメロ!!それ以上は!!それ以上は、ヤメロ!!!
「これからどうするの?」
「こ、これから?これからは……筋トレでもしようかなぁ……ハハハ」
「さっき走ったばっかりなのに。羽山くんって努力家なんだね」
「ま……まぁ、そうですね」
筋トレはまだ良いよ。まだトレーニングメニューの範囲内だ。ただ、それから先どうするの?寝てみる?この時間をやり過ごす為に。
でも、ここまで寝てない日々が続いているなら、俺は絶対に眠りたくない。健康を気にしてた日々を思い出す。こういうのは妥協して良いところとしちゃダメなところがあるからな。
俺はそれからひたすら筋トレをずーーっと続けていた。本当に全部の筋肉がダメになるんじゃないかってぐらいにずーーっと。ダメだった。この空気が全然耐えられない。ローズさんはローズさんで俺の事見たり応援してきたりするしで、頭が純粋におかしくなりそうだった。
この部屋にはテレビがない。だから沈黙が自分の身体よりも重たかった。つまりは筋トレよりもそっちの方が辛かった。
【早朝】朝であるよ。俺はこの夜中ずーーーーーっと馬鹿みたいにずーーーーっと筋トレをしていたんですよ。それももう終わり。朝だから大丈夫。朝だから大丈夫。
筋トレの過程で【筋肉愛好家】なる謎の称号も獲得してしまったから、やっぱりもう終わり。
ちなみに得たスキルは《筋力増強・改》というスキルで、体力と攻撃力と俊敏が増加するという強いスキルだった。良かったけど良くない。
「羽山健人!今日は随分とハードだったな!!どうかしたのか!?」
「ど、どうもしてない。いや……違う!俺は、俺はもっと強くならなきゃいけないんだ……もっと強く……」
「そんな人間だったか!?羽山健人!」
「強く……うわぁ……もうなんか疲れた」
疲れてないのに心が疲れた。《リジェネ》よ、出来る事なら心の疲れも取り除いてくれ。
冗談みたいに言いはしたけど、強くなりたいのは本当だった。俺の気持ちと、ローズとかみんなの気持ちは別だ。
俺が恋人になりたいかどうかなんて関係なく、ローズは人間になりたいんだから、やっぱり俺は目標に向かって頑張るべきだという結論を自己研鑽の中に見出した。
明日も筋トレ?うーん、明日はダンジョンでも行こうかな。てか、シャワー浴びよう。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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