第42話 召喚獣はモンスターなので
カジノをひたすらに遊び倒していると、アーローさんが到着したという連絡が入ったので、俺はブラックさんの所へと向かった。
選挙協力の話自体はスムーズに進んだが、ゴーパーをカジノに常駐させるという話は流石に驚いたようで、少しばかり確認の時間があった。というか、結構あった。
暇だった俺はその間に、カジノで貰ったスキルと、レベルアップでもらったスキルを見ていた。見てました。
丁半博打では【神通力】という称号が手に入り、《直感が冴える》という謎のベーススキル《直感》を貰った。
花札では【猪鹿蝶】という称号で、《連続攻撃の威力がアップする》というベーススキル《連鎖》を貰った。
麻雀では【ロン!】という称号。《パーティーを組んでいるとステータスが上がる》というベーススキル《役》を貰った。
レベルアップの方で貰えたスキルも確認。
《体力微増加》
【カイフク】
【残骸】
【寝袋】
《身体強化》
《体力微増加》は体力を微増加させるスキルだが、《身体強化》は体力、攻撃力、防御力の三つを微増加させる。
【カイフク】はその名の通り回復の発動スキルで、【残骸】は攻撃スキル。いつも名前が物騒だ。
《寝袋》は、ダンジョンの中でも眠りに付きやすくなるというスキルで、俺には絶対必要がなかった。
俺はあれから寝てないし。
正直、前よりも微妙なスキルだが、【神通力】の《直感が冴える》というベーススキルはちょっと魅力的だ。今もなんかスゲー頭良くなった気がしてるし。うむ。
それに、レベルは10も上がっている。なので、今は33レベだ。強い。
「いきなりの事だったから待たせてしまったね。君が他の所に居ても金蜘蛛が暴れないというのは正しいようだ」
「はい。召喚獣の取り扱いは秘書の資格を取る際の試験で問われる事なので。知識は間違ってないと思っていただければ良いです」
「それなら、召喚してみてくれ」
「それなら【召喚】」
俺はゴーパーを召喚してみた。いつもの変わらないキンキラキンの姿は、さっきまでいたカジノによく似合っていると思う。中々良いんじゃないか?
「ゴーパーも聞いてたでしょ?ここなら自由にして良いって」
「ローズ!俺は一足早く自由にならせてもらうぜ!キッシシ!」
「羽山くん。私が求めてるのは」
「大丈夫。それは分かってる」
ローズは自由になりたいんじゃない。
人間になりたいんだ。
人間みたいに道を歩きたいし、人間みたいに買い物がしたいし、人間みたいに結婚したいし、人間みたいに自由になりたい。
だから、これが不十分なのは分かってる。でも、俺が今出来る精一杯はこれでしかないから、ひとまずこの方向性で探ってみよう。色々と。
みんながゴーパーに慣れてくれれば、案外すぐにでも人間みたいになれるかもしれない。
「羽山健人!俺は帰りたくなったら勝手に帰るからな!?」
「それはブラックさん方も分かっていただけますよね?私たちもそうならないように努力しますが、これは契約ではないので」
「ハハハ!その通りだ。しかし、常に居るよりも、その時々に金蜘蛛が居る方が有り難がる人も増えるだろう。カジノという空間では特にね」
懐が広い人だ。アーローさんはこの前の、「契約してないから報酬もないよー」ってヤツを踏まえてさっきの発言をしたんだろうけど、完全に返されちゃった感はある。大人の余裕だぁ。
「それでは。私たちはこれで帰りますので」
「今度の選挙も協力させてもらうよ。まぁ……私の耳にも君がS級冒険者と共に仕事をしたという話は届いているからね。心配する必要なんてないだろう」
「ありがとうございます。ご協力感謝します」
あそっか。その話もみんなの耳に入ってるのかな?
街に侵入してきたローズを、コッパーさんと一緒になんとかした、っていう話がみんなに届いているなら、今回の選挙もなんとかなるのかもしれない。一万票取れば良いんだったかしら?うん。
「じゃあな!!飽きたら帰るからな!お前もたまには遊びに来いよ!!キシシ!!」
「絶対行くよ!もうほとんど中毒だから!」
「そんな自慢気に言う事ではない!ほどほどにしなければな!」
「確かに」
ゴーパーに手を振る。向こうもキラキラの身体をフリフリと動かしていたので、きっと手を振ってくれていたんだろう。
なんか、なんか普通に寂しいんですけど。
もっと長く一緒に居たかったというか……出会ってまだ1ヶ月も経ってないなんてマジで信じられない。
そんな事を思いながら、俺はアーローさんの車に乗る。うーん、名残惜しい。現実感がない。
「召喚獣の許可取れましたね。しかし良かったんですか?貴方にはメリットないですよね?」
「そうかな?まぁ、冒険者としてはそうかもだけど」
「他に何があるんですか。召喚獣はモンスターなので」
「……な、なるほど」
「本来は居た方が良いんですけどね。金蜘蛛ですから」
なんだかちょっと気になるところもあったが、スルーする事にする。なんだかちょっと冷たくない?
アーローさんもゴーパーと何回か喋ってるんだから、そんなに雑に扱わなくても……雑じゃないのか?もしかして俺が変……俺が変である可能性が高いですね。
俺が変なのか?聞いてみよ。
「あの、アーローさんってモンスターに対してどんな風に思ってる?あの、ゴーパーとかアルダードに対する印象でも良いから」
「そんな事聞きます?別になんとも思ってないので」
「え?でも、一応」
「モンスターはモンスターです。冒険者はモンスターを倒す仕事ですよ?分かってますか?」
「でも、めちゃくちゃ喋るくないですか?」
「プログラムですよ。人形に恋しないですよね?それと同じなので。あんまりおかしな事言わないでください。これから先は、余計な事を言わないスキルも必要ですよ」
アーローさんはその言葉の後に「はぁ……」と、溜息をついた。今までで一番だ。今までで一番呆れられているような気がする。
今までも怒られる事から呆れられる事はあったけど、こんなに分かりやすく溜息をつくのは初めて見た。お、俺がおかしいのか……え?もしかして俺がおかしいのか?
こんなにアルダードたちは喋っているのに、それなのに、こんなに呆れられるって……俺がおかしいんですか?ねぇ!誰か!誰か教えてくれ!!!
俺はそれから一言も発さなかった。移動の車内はシーンとしていて、俺はさっきのアーローさんの「はぁ……」を頭の中で繰り返していた。俺も「はぁ……」……だよ……口には出さなかったけどね?うん。大人だから……いや!!まともな人だから!
「それでは、家まで着きましたので。休むなら休んでください」
「あ……ありがとうございました……」
「疲れてるなら眠ったらどうですか?寝てないそうなので」
「……そ、そうですね」
家の中で俺は自分の正当性、いや、自分の社会性について考えていた。もしかして俺は人形に話しかけている人なのか?
人形に話しかけてる系の人に見えてたのか?みんなからは。
一気に冷や汗が出る。
もう、もうみんなと話すの辞めようかなぁ……とも多少思ったが、ローズとは大事な約束をしてしまっていた。それに、普通にそれは出来ない。だって普通に友人みたいなものだし。
ゴーパーだってそうだ。再会する時に俺が変な顔してたら可哀想だ。それは俺には出来ない。
(退路はどこにもない……俺はみんなを受け入れるしかない……)
モンスターについてどう思っているのか、知り合い全員に聞いて回ろうかすら考えたが、頭の中に浮かんでくるのはみんな冒険者で、どう考えてもモンスターをモンスターとして見ているはずだった。
……いないのか?俺には冒険者以外の友達がいないのか?
友達は少なかった。てか、居なかった。恋人もいない。話せる人は両親ぐらいしかいない。
誰か……誰か……誰かーーー!!!、と悲鳴を上げそうになっていた俺の頭に、一人の顔がパッと浮かぶ。
変な笑顔だ。俺を見て、嫌ーーーな笑みを浮かべる男。名は、柏木!!!
俺は退社してから全く連絡をしていなかった柏木に、『予定が空いている時でいいから少し会いたい。何にも言わずに退社しちゃったからな』と送った。
頭がおかしくなっている。変な行動を起こしている。自覚はあったが、コレをする以外にこの流れ出る冷や汗を誤魔化す方法が思い浮かばなかった。
仮に俺がおかしいなら!!社会を変える!!それぐらいの覚悟はあるぞ!!
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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