第39話 ローズという名のモンスター
ガードをしていても約2,000ダメージの攻撃が断続的に俺を襲って来ている。しかし、ゴーパーのスキルのおかげでダメージ自体を無効化する事もあり、なんとかこの状態を保ててはいるが、体力は段々と減っていってる。
【鉄人化】をするのもありだが、それだと会話が出来ない。俺には時間があまりない。
しかし、さっき報告したばかりだ。だから、みんながここに来るまでには少しの時間がある。その間に、なんとかして説得しないと。
「じゃあ!召喚獣は!?召喚獣だったら死ななくても済むんじゃない!?」
「いやだ!!だってそんなの私じゃない!」
「でも!それ以外には……じゃあ!名前は!?君の名前!俺の名前は羽山健人!君は!?」
みんなを使役する時に、俺は必ず名乗っていたし、相手の名前も必ず知っていた。名前が大事なはずだ。名前とか、自分とか、後は信頼とか。時間とか?
時間はない。だから、その分無理矢理にでも頑張らないと。ここでこの人を助ける事に意味があるのか分からないけど。
「ないよ!!名前なんてない!!それに!!」
「それに?」
「私が使役されても!私のいた場所に!私みたいな誰が居続けるんでしょ!?それなら意味ないじゃない!」
そっちにも問題があるのか。確かに、俺がデカゴブリンのデリビーを倒した後にいたのは、グラスというまた別のデカゴブリンが居た。
きっと、召喚獣として使役されても、同じような現象が起こるんだろう。デリビーとグラスみたいに、目の前にいる彼女とは違う、もう1人のエテルがダンジョンに現れるんだ。
「甘えた事を言うな!」
「いや!アルダードはちょっと待ってて!時間が……」
「キッシシ!自分がモンスターである事を認めな!」
「いや!ゴーパーも静かにしてて!……てかゴーパーはコッチ側でしょ!?」
「キシシ!そうだった!助けたいんだった!」
あぁー!!なんでもうこんな時にこんな事に。みんなちゃんとせい!俺もだけど!!
「もぉ!【波動】!!」
その技が発動した瞬間、300程度のダメージが俺に入った。しかし、それ以上に大きな問題なのは、さっきの衝撃で俺はガードが吹き飛んでしまい、完全に無防備な状態になってしまったのだ。
「オイ!ガードの体制を取れ!」
「分かってるけど……ちょっと待って!」
「次のダメージが来るぞ!早くしろ!」
ガードをしているのに2000のダメージ。そんなのが直接俺に入ったらもうお終いだ。出来る限り早くガードをしようと試みたが、衝撃が俺にやってきたが、ダメージはゼロだった。ゴーパーのスキルだ。
「……はぁはぁ、助かった……ゴーパーのおかげだ」
「キッシシ!スゲーだろ!早くガードしろ!」
「……そうだ。この前のスキル……【絶対防御】!」
さっきの攻撃がなんなのかは知らない。分からん。ただ、このスキルは絶対にガードが解けなくなるらしい。マジでちょうど良い。サンキュウ神。
「なんでそんなに楽しそうなの!?なんで貴方達に名前があるの!?【波動】!」
体制は崩れない。ガードは継続された。
これならなんとでもなる。ただ、時間がない。どうせもうすぐ来るんだ。なんかよく分からない方法でやってくるんだよ。きっと。
「我々は生を見つめているのだ!!そして!その一瞬一瞬の中で生きている!その為には名前が必要だ!」
「キッシシ!!俺は金蜘蛛だ!それを理解しているから!俺が俺である為に名前が必要なんだよ!」
「なんで!なんで私には名前がないの!?【波動】!!!」
「……なら!なら俺が名前を付けてやる!そうすればもう少し生きたくなるだろ!?それに!死んだとしても自分が残るだろ!?」
「要らない!!そんなの要らない!!だって!私はどうせ死ぬんだよ!【波動】!!!!!」
名前。俺にはパッと思い付いた名前がある。それが適切なのか、気に入ってもらえるのかは分からない。でも、それでも、なんでも良いから人には名前が必要なんだ。
そうじゃないと大勢の中にいる人間でしかない。自分になれないんだ。
「『ローズ』。君にはこの名前が似合う」
「……え?」
「だから、僕の召喚獣になってくれ……ローズ」
……ローズ。俺はさっきからずっと傷付けられてばかりだ。てか、そもそも俺はそればっかり。
建物もいつ壊れるのか分からない。このままだと俺も潰されてしまいそうだ。
全部壊れそうだ。でも、それはきっと、誰が悪いって訳じゃない。ただそこに棘があっただけ。
「キシシ。キザな名前だな」
「……確かに……」
「私は、ローズ……」
今もなお、攻撃は続いている。しかし、さっきまで発動していた【波動】は止まった。
きっと悩んでいるんだ。召喚獣になるかどうかを、そして、自分の存在を。
そんな事をしている俺たちの間に、強い風が吹いた。家のどこかに穴が空いているみたいだ。
「あら?随分と頑張ってくれましたね?えらいえらい」
「こ、コッパーさん……いや、あの」
「私だけでも来ましたよ?今日もどこかに吹く風となりました」
不味いぞ!コッパーさんはS級冒険者だ。だから、止めないとローズが殺されてしまう。勝手にローズって言ってるけど大丈夫か?
「コッパーさん!ちょっとだけ待っててもらっても大丈夫ですか!?」
「どうしてかしら?」
「いや、あの、それは……分かり合えそうなんです!今」
「モンスターさんとかしら?」
「はい!」
俺は凄いおかしな事を言っている。きっとそうだ。
分かり合えるとはなんだ?俺がやろうとしている事は?
きっと悩んでも仕方がない。きっと。やるしかない。やり切るしかない!
「ダレ!?貴方は誰なの!?」
「落ち着いて!?大丈夫!?ローズ!」
「ローズちゃんって言うのね?可愛いお名前?」
「なに!?なんなのこの人は!?ダレ!!なんでここにいるの?」
「貴方はモンスターさんでしょ?だからここに居たらダメじゃない?ダンジョンにおかえり?」
コッパーさん……それは今言わないでくれ……うぅー!どうしたら良いんだ!
「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!嫌!嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!」
「健人。身構えろ。今までのとは違う。圧倒的なパワーだ」
「……【鉄人化】」
「なら私も?【変身】」
「ゼンブ!ゼンブ!!ゼンブゼンブゼンブ!!!ゼンブ壊れちマエ!!【天変地異】!!」
ローズがスキルを発動したその後、俺たちがいた場所は更地になってしまった。さっきまでそこにあったはずの家がない。
そこにあるのは草すらも捲れた土の地面。周辺の建物からも大きな音が聞こえている。
しかし、俺は大丈夫だ。そして
「あらあら。大変」
水が人の形をして立っている。きっと、これはコッパーさんなんだろう。どんなスキルだそれ。
水になったコッパーさんは、何事もなかったみたいにここに立っている。本当に何にも無かったみたいだ。
「どうしたら良いのかしら?ここは貴方に任せても平気?」
「……」
「あらら。返事が出来ないのかしら?」
「……すみません。こんな事になって。でも、俺に任せてください」
なんでだ。周りの人にも被害が及んでるのに。本当は俺はここでコッパーさんに全てを任せるべきだ。そうしないとこれ以上の被害が……
「分かったわ?それなら少し手伝ってあげる。【水滴】」
コッパーさんの形を作っている水の一部がローズへと飛んでいく。すると、それは彼女の全身を取り囲んでから、鎖へと変化した。そして少し苦しそうにするローズ。
「これも飲んで?【栄養剤】」
水で出来た自らの親指を自分の身体で作ったコップに入れて渡してきた。ん?これって、俺が飲むの?
「飲んでごらん?元気が出るわよ?」
「……そ、それならいただきます……」
恐る恐るそれを飲む。すると……全てのステータスが一気に上昇していくのが分かった。どこまでも力が湧いてくる。無限のエネルギーを得たみたいだ。
「戻ってくるまでに解決して無かったら……そこからは私がやっても良い?」
「はい!ありがとうございます!」
「良い返事。それじゃあ風を掴むわ」
目の前の水が消えたと思うと、俺の近くに強い風が吹いた。すぅ……なんだあれ。あれがS級?
呆然としながらも俺はもう一度ローズと向き合う。なんとかしないと。このままじゃダメだ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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