第36話 自由になったモンスター
「どのような方でした?そのモンスターさんは」
「どんな、あの髪が水色で……うーん、白いワンピースを着て……えーと」
他にどんな特徴があったかなぁ。いうて特徴なんてこれだけだったような気がする。
「我が答えよう!!我も羽山健人と共にヤツを見ていたからな!」
「あらぁ。どなたですか?」
「イフリートですよ!なんで忘れちゃってるんですか!」
「そういえばそうでしたね?フフフ」
口を押さえてお上品に笑う。しかし、「フフフ」とか言っていたけど、全然表情は変わっていなかった。
「アイツはエテルだ!『忘れられた遺跡』のボスモンスターだな!」
「『忘れられた遺跡』?初耳だな。私も知らない」
「メイルさんも?」
コクリと頷く。『忘れられた遺跡』って名前だけあって、あんまり人目に付かないような場所にあるダンジョンなのかな?
名前を聞いてから向こうの秘書の方がスマホで何かを検索している。ダンジョン検索機能なんかもあるのか?攻略法とか書いてないかな?
「エテル!以前にも何度か脱走をしているようですね!問題視されているようです!」
「アエク?ありがとー」
「いえいえ!これが仕事なので!」
「仕事?」
「……今は仕事です。今は」
「へぇ、面白い」
ん?なんか微かにアエクくんを見ているコッパーさんの眼光が鋭くなったような。獲物を狙う狩人が今そこにいた気がするけど、やっぱり変態か?
「それでは明日、よく晴れていたら一緒に街を歩きましょう?行先は風に任せて」
「え、あ、はい。雨だったら行かないんですよね?」
「それなら私は雫になります。石を穿つ雫です」
ポエマーだぁ。S級冒険者になる為にはポエムのセンスも必要なのか。ふむふむ。
そんな事を言った後に、二人は席を立ち扉を開けて、外へと出ていく。S級が事務所に来たのって地味に珍しい体験じゃないかな?
というか、普通に話した事を自慢できるかも。という事は、なったら自慢どころの騒ぎじゃないな。
その翌日。その日はよく晴れていたので、コッパーさんが雫になるところは見れなかった。残念。
事務所の前でメイルさん、アーローさんの二人と話すわけでもなくただただ待っていると、向こうから強い風が吹いてきた。
「お待たせしましたね。それでは行きましょうか?」
「え!?何処から?今、いきなり目の前に」
そうだ。ただただ待っていた俺たちの目の前に、いきなり、本当にいきなりコッパーさんは現れた。時間でも止めたか?
「私は風です。あ、地面にゴミが」
そう言ったコッパーさんは歩道に落ちていたペットボトルを無理やり喉に突っ込み、丸ごと呑んじゃった。食べちゃった。
「何処で発見したんでしょう?そのモンスターさんを」
「……あぁ、着いてきてください。歩きで大丈夫ですか?」
「もちろん。何日前の話ですか?」
「何日……あの、メイルさん、一緒に喫茶店行った日っていつだっけ?」
「一週間ぐらい前じゃなかった?正確には覚えてないけどね」
もっと早く言えよ!って空気をなんとなく感じる。こんな大事だとは思っていなかったんです。すみません。
「そこを起点にして別れた探しましょ?あ、またゴミが」
今度はライターを拾って丸っと飲み込む。超クレイジー。俺もこれぐらい出来るようにならないとかなぁ。
「そういえば秘書さんは?」
「そうねー。どこに行ったのかしら?」
「……あのー!……コッパーさーん!……置いてかないでー!……」
「それでは行きましょうか?ご案内よろしくお願いしますね?」
「え……まぁ、はい」
「……早いですよーー!……あのー!……行かないでくださーい!……」
遠くの方から聞こえてくる声は無視して、俺は目的の場所を目指す。正確な場所は覚えてないけど、闘技場から喫茶店までの道を歩いていれば勝手に思い出すだろ。
「この辺りですね。だよね?アルダード」
「そうだな!ここで肩を打つけたな!」
「どちらから来たんですか?それも大事な情報なので」
「あぁ、それなら俺が闘技場の方から歩いてきてたから……コッチ?」
「そうですか。それなら私たちはあちらを探しましょ?」
「そうですね!行きましょう!」
勝手に色々決まってしまった。一応了解とか取る素振りくらいは見せてほしかったけど、良いか。
「それでは私たちはこちらの方を探してみましょう。その前に、もし今度似たような事があったら報告する事を約束してください。良いですね?」
「あぁ……もちろんでございます……ソーリー……」
「それでは手分けしますので。ここでお別れですね」
「あ、そうだ。あの、なんか逃げてるみたい雰囲気だったので、もしかしたらどこかに隠れてるかもしれないです」
「それを……そういう事ですよ。そういうのを今後は早い段階から報告してほしいので。それでは」
「じゃ、私も行くわ」
「お互い頑張ろう」
というわけで俺は一人で探索をする事になった。
とは言ってもあまりにも見当が付かない、人探しってどうやってやるんだろう?というか、これも俺たちの仕事なんだな。
適当に街をブラブラ歩いていたが、途中からランニングに切り替える。あのジャージ持って来れば良かったな、どうせ走る事分かってたんだし。
「キシシ。大変そうだなぁ!」
「なんだ!お前は心当たりがあるのか!」
「ねーよ、そんなもん。だからなぁ。俺はラッキーな男なんだぜ?」
「でも、俺にもあるよ?《幸運》」
「分かってねーな!俺のラック値、見た事あるはずだろ?8,888。これだけのラックを持ってるやつは中々居ねーな」
俺ってどんぐらいだっけ?20ぐらい?いや、ゴーパーのステータスにも影響受けてるから200か。
そうなると……何倍だ?なんまいだ?うーん、よく分からない、走ってて頭が回らん!
「キッシシ!俺を召喚しろ!俺がお前を目的地まで導いてやる!」
「街中で?大丈夫?」
「俺は金蜘蛛だぞ!?イフリートならまだしも、俺なら問題ないねー」
「我はデカいからな!ハッハッハ!!」
楽しそうに話してる。
置いてけぼりをくらっていた俺は、金蜘蛛が街の中で歩き回ってたらどうなるんだろう?と走りながら考えていた。
俺は知らなかったけど、多くの人にとって金蜘蛛は大事な存在らしい。
で、それは冒険者に顕著で、というか、冒険者であればあるほどその傾向は強い。
うるせー!怒られたら逃げれば良いんだよ!!
「良いよ。その代わり絶対見つけてね?」
「キッシシ!絶対見つけてやるぜ?なぜなら俺は金蜘蛛のゴーパーだからな」
「じゃあ、【召喚】」
そう言って俺は立ち止まり、目の前に金蜘蛛のゴーパーを召喚した。キンキラキンに輝いている金色のその姿は、こうして直視してみると中々神々しい。やっぱり神的だ。これだったら別に怒る人も居なさそうだ。
近くにいた通行人は驚き、興味深そうな顔で俺とゴーパーを見る。
「行くぞー!俺は自由だー!!」
「えー!そういう事!?騙したのか!」
「キッシシ!!今だけなー!それじゃあ俺は行くぜー!」
そう言ってゴーパーは建物の屋根に糸を吐き出し、屋上へと歩いていく。流石に魔法を使う訳にもいかないからな。
ここは地道に追っかけるしかない!
「待ってー!ゴーパー!」
「キッシシ!!着いてきなー!」
「やられたな!お前の負けだ!」
「負けで良いよ!とりあえず追いかけないと!」
前と一緒だった。
初めて金蜘蛛を見つけて追いかけたあの時とほとんど一緒だ。だから、俺はゴーパーがやりたい事はこういう事なのかもしれないと思った。
やっぱり、スマホの中がどんな風になってるのかなんて分からんけど、外に比べたら窮屈なんだろうな。
そんな事を考えながら、やっぱりはしるーはしるー。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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