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第35話 怪奇!ボールペンを丸呑みする女!

 

 俺のヤツと同様の鱗で作られた鎧をメイルさんも貰っていた。なので、適当換算をすると二人で十億グル。うん、俺が間違ってなければ、1,000,000,000グル。

 バカですか?と言いたくなってしまったが、運命が見えるというトリガーラッキーさんの決断であるのを考えると、無駄にはならないんだろう。

 そもそもだ。そもそも、これだけの鎧を買って貰ったからにはまず感謝をしないといけない、


「アーローさん、ありがとう。トリガーラッキーさんに会う事があったら、ありがとうって伝えておいて」

「あー、はい。分かったので」


 まず感謝。その次がめんどくさい。というか、もう絶望したくなるくらいに嫌だ。

 感謝した後に俺がやるべき事、それは、ガチで冒険者として成功する事だ。これ以上に何を努力するんだ?って感じもあるけど、俺は間違いなく成功しないといけなくなってしまった。最悪だ。


 ただ正直、俺よりもメイルさんの方が気が参っているんじゃないか?鎧を見せて貰った時のメイルさん。


 ポワポワポワ〜ン


 ○○


「わ、私ー!?ま、待って!!さっきも言ったでしょ!?私は、私は『ブラッド・ハルヴァルギル・ドラゴン』をギリギリ倒せるかどうかぐらいの実力しかないんだ!!それに、羽山健人と違って!伸び代がない!!!」


 絶叫するようにそういうメイル。可哀想に。

 これだけのプレッシャーが背中に伸し掛かる事なんて本当にないだろうから、俺も同情する。というか、期待しすぎ。

 俺はメイルさんの事を全然知らないが、5億は多い、という事は流石に分かる。その値段の鎧を貰うなんて重すぎる。

 あと、普通にこの鎧重い。


「全てのステータスが上昇しま〜す。そして、全ての属性の耐性がありま〜す。この『ハルヴァルギルアーマー』はあらゆる装備の中で最も使いやすくて、最も良い装備だと言われているので、安心して使っていただきたいですね〜」

「それは知っている!だからこそダメなんだよ!市場に出回っている装備の中で一番良いだろ!!コレ!」

「そうですよ〜。ダメでしたか?」


 首を傾げるララーさん。ダメではない。というか、普通にララーさん的には意味分からないか、この状況。


「ダーー……だ、ダメじゃない!ダメじゃないよ、うん。全然ダメじゃないです。ごめんなさい!」

「気にしないでくださいね〜」


 気にしないなんて事は無理です。それにしても動揺してるなぁ、メイルさん。


 ○○


 あんな感じだったなぁ。


「あ、アエクさん連絡来たよ。秘書と繋げてくれだって」

「私ですね。それなら連絡先をよろしくお願いします」

「はいはーい」


 さっきまでとは打って変わって元気そうだ。まぁ、気持ちの整理がついたんだろう。実際、着てみると普通に気持ちが上がるしな、あの鎧。

 自分じゃない何かになっている気分だ。変身してる気分。


「大変な事になっちゃいましね。逃げられなくなっちゃった」

「逃げるつもりだったの?君は」

「隙があれば?僕は嫌になったらすぐ辞めるので」


 嫌になったらっていうのは語弊があるが、自分の身に危険が及ぶほどの面倒からはいくらでも逃げてやる。

 これまで逃げたいと思った事はないが、これから先どうなるのかなんて分からないからな。


「どんな人だった?コッパーさんって。一緒に仕事する事になるかもだし聞いとこうかね」

「聖職者だそうですよ。私もモンスターに向かって手を合わせているところを見た事があります。なんの宗教なのかは詳しくないですけど」


 聖職者。宗教を信仰しているタイプの人かぁ。

 全くもって無縁だ。最近はお墓参りも行ってないし、そもそも行く意味も分からん。ダメだけど、本音はそう。

 別に俺はマジの無宗教だから、宗教的な行為に労力を使うのが良くわからん。うむ。


「それなら良い人なんかね」

「変な人ではあったけどね。でも、君たちみたいに有害なタイプじゃないから、普通に人からは好かれてるよ」

「へぇ?」


 罵倒?俺たちみたいに有害じゃないならありがたいけど、出来れば俺を入れないでほしい。トリガーラッキーさんが有害だというのは賛成……いや!義理で反対!義理がなかったら賛成!


「君たちって本当に迷惑な人たちだよね。私、もう正直どうして良いのか分からんのよ」

「うーん、なるほど」

「元々分かってないんだけどね!アッハハ!」


 おかしな人しか冒険者になれないのか、それとも、冒険者になると頭がおかしくなるのか、俺は両方だと思う。


「支払い等諸々終わりましたよ〜。それでは、それらは貴方達の物になります〜」

「ありがとうございました。それでは一度事務所に戻りましょう。どうやら来客が来るようです」

「来客?」

「コッパーさんが来るそうですよ。S級冒険者の彼女です」


 俺の今の目標はS級。それを目の当たりに出来るなんて良い機会だ。

 そもそも俺は本気でS級を目指しているんだろうか?そこがよく分からない。俺が【健康第一】というスキルを目指すようになった理由はなんだったか、そこをもう一度再確認する必要がありそうだな。


「あと、一週間後にまた選挙があるのでよろしくお願いします。羽山健人さん」

「あ、俺?」

「鉄は熱いうちに打て、です。E級からD級の昇級は選挙と秘書の推薦が必要なだけなので。もう既に推薦状は受理されました」

「いつの間に?」

「さっき書いて貰ったじゃないですか、サイン。アレですね」

「早いなぁ」


 カジノへ行く途中に渡されたヤツだろうか。

 半日もしないのに。凄いなぁ、ハイテクというか、なんというか。


「楽しみだね。S級冒険者に会うの」

「確かにねー」

「そんな事ない?」

「S級冒険者を見るのちょっと怖くない?だってそこを目指さないといけないんだし」

「流石かー、私も緊張しないと」

「俺は初めて見るS級だから」


 そんな話をしながら車へと乗っていく。

 普通に嫌じゃ。戦っていたい。戦いの方が楽だ。だって何もしてないから。

 社会生活って難しいな。今までどんな風に社会人やってたんだっけ?いつのまにか喪失してしまった普通を懐かしむ。

 S級冒険者。頑張ってなれるような物なんだろうか?それって。


「こんにちはー」

「あ、初めまして羽山健人です」

「初めましてかしら?どこかで会いませんでしたか?」

「え、いや、初めましてだと思います。コッパーさん」

「そうですかー。貴方に神のご加護を」


 事務所には噂のS級冒険者がいた。水色の髪をしていて、青いシスターのような服を着ているこの人は、近くにいるだけで聖職者の雰囲気を感じる。

 なんだか、菩薩みたいな笑顔が崩れない人だ。怖いぐらいに表情が変わらない。この人も変人か。


「コッパーさん!この前見せたじゃないですか!面白そうな人が居ますよー!って!」

「そうだったかしら?ねー?アエク?」


 コッパーさんは自分の腕を秘書のアエクくんの方へと動かし、掌を握ろうとする。

 茶色の髪をして、スーツ姿の仔犬みたいなアエクくんは、それを拒むに拒めないが、受け入れる訳にもいかない、という感じを出している。さては貴様ら!付き合ってるな!


「ちょ!ちょっと!ここではダメですよー!」

「ダーメ!ここでも大丈夫よー」

「うー!ちょ、も、もう良い加減にしてください!今日はもうダメです!そんな事するんだったら今日はダメです!」

「えーー!そんなぁ〜」

「嫌なら辞めてください!もう!」


 二人ともかー。二人とも変な人。いや、変態だった。多分。

 なんだか複雑な思いで二人を見つめていると、コッパーさんが机の上にあったボールペンを右手に持ち出した。

 それを黙って見ていると、ペンのお尻を人差し指と親指で摘んで、ブラブラとテーブルの上で遊ばせる。


「このペン……いくらで売ってくれますか?」

「ペンが必要ならあげますので。どうぞ」

「ありがとうございますね?お優しい方」


 その直後、顔を斜めに傾け、まるでさくらんぼでも食べるみたいにペンを口の上に持っていくと、そのまま喉へと押し込み、ゴクリと丸呑みした。


「ごちそうさまでしたぁ」


 …………うーん、分からん。

 凍りついた空気の中で、コッパーさんとアエクくんが掌を触ったり、肩に触れたりでイチャイチャしていた。変態夫婦だ……




読んでいただきありがとうございました!!

何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!

ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!


ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!

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