第34話 500,000,000の重み
メイルさんと途中で合流し、3人でララーさんの所へと向かう。
「また変な事したらしいねー。どうしたの、金蜘蛛って」
どうやら結構凄い事らしいな、金蜘蛛使役したのって。
みんなその話しかしないじゃん。とりあえずそれには触れとくか、ってみんななってる。
「普通ですよ。普通……っていうか、成り行きです」
俺がゴーパーを使役出来たのは本当に成り行きだ。
あの時他の冒険者が手を出して来なかったら、俺は当たり前のように金蜘蛛を倒していただけで、絆的な何かは生まれてなかっただろう。
「そんな事言っちゃってさ。天才天才」
「はは……」
どうすれば良いんだこういう時。今まで無かったタイプの大変さがある。もしかしてアレですか?人間関係とか、コミュニケーションって正解も目的もない感じですか?
そんな事ある?
「そうだ!ちょっと面白い話があるんだけど聞く?」
メイルさんは目を思いっきり見つめてきながら、テンション上げてそんな事を言ってきた。何事かな。
「一応聞いてみるけど」
「実は私、S級冒険者と知り合いでね?」
「え!そうなの?」
「そう。コッパーって知ってる?身体を水とかに変えちゃう人。私も昔一度だけ一緒に冒険した事があって。で、本題に入っちゃうんだけどさ。その人の秘書のアエクさんからこんな話が来たの」
重たい話か?それとも普通に仕事の話?
事務所入ったばかりだし、事務所をコッパーさんの所へ移すって事ではないだろうけど、なに?一緒に冒険するとか?ならなんで俺に?
「それは、この街にボスモンスターが紛れ込んでるって話」
「……へ、へ、へぇ。そ、そうなんだぁ」
おい!!その話知ってるぞ!アルダードと一緒に街を歩いている時にすれ違っているぞ!
動揺して汗が出てきた。うーん、もしかして悪い事してるのか?報告するべきだったかなぁ。
「もし見かけたら報告してってさ。運が良ければS級を生でみるチャンスになるかもよ」
「そっかぁ……」
これは言うべきなのか、そんな事を悩んでいた俺の脳みそをアルダードの大きな声が駆け巡る。
「それなら知ってるな!羽山健人!この前街ですれ違っただろう!」
「えー!?どうして言わなかったのですかー!大変な事件なので!!」
「あ、アーローさん」
さっきまで車を運転しながらスマホを見ていたアーローさんが振り返り、そんな事を言う。
「あ、まぁ、そういう事もあるのかなぁ的な。うーん、申し訳ありません」
言い訳をしようとしたが、辞めた。どうせ無理だ。
ここは素直に謝っておこう。
「アルダードも見てたよね?あの時」
「あぁ!見ていたな!ちゃんと教えてやったはずだぞ!」
「ちょ、ちょっとアエクさんに連絡してもいい?もしかしたら貴重な体験出来るかも?」
メイルさんはそう言ってスマホ。
なーんか、また面倒な事になりそうだぞー。とは思いつつも、S級冒険者を目指しているんだから、S級冒険者と一緒に何かをするっていうのは良い経験になるかもしれないとも思った。
「本当に……もうそろそろ着きますので!話はまた後でちゃ!ん!と!しっかり!話します!今は仕立て屋ですので!」
本当に大変な仕事だ。アーローさん。
今回の場合は俺はそんなに悪くないはず……いやぁ、でも、報告しておくべきだったのかなぁ。
どっちにしろアーローさんが大変なのは変わりようがないとは思うけど、報告はしておくべきだったかもしれん。
「着きました……二人とも降りますよー」
「は、はい」
「……アーローさん大丈夫かなぁ。私から見るにアレは疲れてるよ……間違いなくそうね」
「うーん、疲れるって感覚がよく分からなくなってるんだよなぁ、最近。だから、理解は出来るけど良く分からない」
「リジェネ?」
「そう。リジェネ」
リジェネで疲れなくなったから、最近は人の疲労も分からない。このままだとヤバい。
俺も、あの奇妙な冒険者の仲間入りをする事になってしまう、ヤバい。
「あら〜。お久しぶりね〜」
「お久しぶりです、火山以来ですね」
「そうね〜、あの時は面白いもの見せてくれてありがとね〜」
面白くはないけどね。ずっとガードしてるだけだから。てか、そこまで久しぶりでもないか。
「ありがとうございます」
「メイルちゃんは最近ぶりね〜。ようこそ〜」
「あ、あぁ、よろしくお願いする。私も最近ぶりだ」
二人も会ってたみたいですね。
そんな感じで仕立て屋の中へと入っていくと、いかにも強者といえるような鎧が飾ってあった。
なんだか、本当にモンスターと対峙しているような気持ちになってくる。
「こちらです〜。お気に召していただけましたか〜?」
「はい、もちろん。というか、僕には不釣り合いな気も」
「気持ちは分かります〜。凄い鎧ですからね〜」
見た目でいうと、真っ黒、いや、赤黒い、血が混じっているような色をした重装備の鎧。
全体に何かの生き物の鱗が使われていて、部分部分に毛布みたいな動きやすい部分がある。
パッと見た時の印象としては龍って感じの鎧だ。ドラゴン。
「随分と……なんだか凄い鎧ですね」
「これは凄いな。A級の中でも倒せるやつが少ないと言われている『ブラッド・ハルヴァルギル・ドラゴン』の鱗が使われている。きっと、これを作るのには何百回もソイツを倒さなければならないはずだぞ」
「そうですよ〜。ね〜アーローさん?」
「そうですよ。これには、実は……あの」
冷静に戻ったと思っていたアーローさんがまた動揺し始めた。なに?今度はなに?またなんかやっちまいましたか?ワシ?
「これには5億グル掛かっています。ホントに。本当に5億です。500,000,000ですよ?本当に」
「…………」
一瞬、脳の動きが停止してしまった。5億?5億。
今まで聞いた事がない数字だ。5億グル?5億グルの鎧がが俺の為に用意されたの?どういう事?
「まぁ、それぐらいはすると思うよ。私でも『ブラッド・ハルヴァルギル・ドラゴン』はギリギリ倒せるか倒せないかだから」
「は、はいー」
「それは分かるけど、君がいくら天才だからといって投資しすぎなんじゃない?本当にリターンなんてあるの?5億のリターンって相当だけど」
「これは、これを決めたのはトリガーラッキーさんです。貴方も後で会った時にはお礼なりなんなりしてください。本当に」
「あ、ありがとうございます……え、本当に俺のなんですか?」
「もちろんですよ。サイズも貴方に合わせちゃったので」
俺の身体に5億を纏う。そんな、そんなに?
そんなに期待されてる?どんだけ?
いつの間にやらスターになって行っている。このままだとヤバい。戻れなくなる。
気付いた時にはもう遅い。自分がいつのまにか変化していた。
別に悪い変化じゃないから良いんだけど、なんてこった、って感じだ。
「着てみてください。どうですか〜」
「そ、それじゃ……」
「私も手伝いますね〜」
前も、試着室の中で冷や汗をかいていた。ララーさんと密着していたから。
今も同じくララーさんは鎧を着せる為に密着してくる。仕事だからしゃーない。しかし、今かいている冷や汗は、5億の重みを理由とした汗だ。
5億が重たい。期待がヤバい。前の俺だったらもう辞めてたかもしれない、冒険者。
「汗すごいですね〜」
「はは……ははは」
「キッシシ!緊張してんのか!?たったの5億だぜ!?」
「え〜?どなたですか〜?」
「俺は金蜘蛛のゴーパーだ!覚えとけ!」
「そうなんですね〜」
普通に会話をしている。てか、5億を目の前にしてるのに落ち着きすぎでしょ。ララーさん、只者じゃない。
「私はお似合いだと思いますよ〜。羽山健人さんに」
「え?」
「私、人を見る目だけは確かなので〜」
自己肯定感が多少回復する。大丈夫だ!結局やる事は変わらない!だってそうだ!俺はずっとガードし続けるだけ!難しい事はマジで何にもないはず!
動揺を抑える為に自己暗示を繰り返す。大丈夫!大丈夫!俺は5億だ!5億グル!
俺は5億グルなんだー!
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!
ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!