第33話 苦労人アーロー
カジノへと向かう為にアーローさんが運転している車内で、どうして車で移動しているのか気になった。
【転移】の方が早いし無駄がないはずだ。それなのにどうして車に乗っているのだろう?なんでだろう?
「【転移】じゃダメなんですか?そっちの方が早そうですし」
「自動運転なので。別の作業をしながら移動出来るんです。後、そんなにいきなり来られても困るじゃないですか?失礼にあたるので」
「へぇ……そうなんですね」
別の作業と言ったアーローさんは書類をペラペラとめくっていた。そして、その中の一つを俺に渡して、サインをするように言った。俺は黙ってサインする。うむ。
「他にも理由はありますよ。一応」
「どんな理由ですか?」
「話す為ですよ。今後の予定を」
「僕の?」
「もちろんです。ブラックさんとの面会がいつ終わるのかに影響を受けちゃいますけど、これが終わったら仕立て屋さんに行く予定がありますので」
「へぇ……ララーさんの。そういえば前に戦いを見に来てましたよね?アレってなんか意味が?」
「装備です。貴方に最適な装備を用意する為には、貴方がどのように敵と戦うのかを見る必要があったみたいですので」
なるほどなぁ。俺はまだまだ強くなれるのか。
そういえば最近も《セットアップ》っていう装備にまつわるスキルも手に入ったし、そろそろ本格的にそういうのを整える時期に来てしまっているのだろうか。
ふと、不意に気付いてしまったが、俺はめちゃくちゃ冒険者じゃないか。装備を揃えるって、今までで一番冒険者っぽい事や。
「あの一応なんですけど、装備一式揃えるとステータスが上がるスキル持ってて、それってララーさんは」
「普通は!普通は装備は一式で揃える物ですよ。場合によっては付加効果が付いたりするので」
ん?なんかちょっとキレてた?
どうやら俺の、冒険者に関わる常識が欠如している事に対してイライラしているかもしれない。ただしょうがないやん。知らないんだし。ねー。
もしかして俺の性格の問題なのか?分からないけど。
「メイルさんも同行するそうですよ。貴方に話したい事もあるみたいですし」
「へぇ……そうなんですね。メイルさんって今なにを?」
「リハビリで『飛龍の巣』に向かってましたね。中々大変なダンジョンなんですけど無事に戻ってきましたよ」
「『飛龍の巣』。イカツイ名前ですね」
「将来的には貴方も行く事になると思うので」
飛龍ってドラゴンだよね。ドラゴンと戦う。
いやぁ、それはもうホントに冒険者。完全に冒険者でしかない。
「着きますよ。カジノに」
「あ、分かりました〜」
「よろしくお願いしますよ。金蜘蛛を召喚する事になると思いますけど、その時に余計な事言わせないようにしてくださいね。失礼があったら大変なので」
「キッシシ!俺は言いたい事を言うぜー?分かってんだろうな?」
余計な事言いそうな雰囲気をわざわざ出すな。
面倒な事になったら俺も面倒だし、一言だけなんさ言っとこうかな。アーローさんの手前なんもせんってのも申し訳ないし。
「ゴーパー。出来れば失礼のないように……」
「キシシ。人間の失礼なんて俺には分からねーよ。わり〜な〜」
「なんかあったらすみません」
「まぁ、モンスターの発言なので。そこまで向こうも本気にしないと思いますけど」
ふーん、それならまぁ別に良いんですけどね。
そんな会話をしていると煌びやかで沢山の金蜘蛛の装飾が施されたカジノに辿り着いた。
こうしてみると本当に神様みたいに祀られてるんだな。入り口の扉の上に金蜘蛛がデカく、バーン!と置かれている。
「ようこそ。よく来てくれたね。それじゃあ中へ」
「お出迎えありがとうございます。それでは行きましょう、羽山健人さん」
「はい」
「それにしても突飛な話だよ。金蜘蛛を捕まえたなんてね」
「ははは……」
俺の方を見てくる。なんだが言いたげな瞳だ。
ん?というか、この人、瞳の色が水色だ。なんだが珍しい。
「【召喚】」
「オイ!俺が例の『金蜘蛛』だぞ!キッシシ!」
「噂には聞いていたけど、本当にお目にかかれるとは。それもこの場所で」
ブラックさんの事務所で金蜘蛛を見せてあげる。でも、これをする事に何の意味があるのか正直よく分からないな。
金蜘蛛っているだけで運気が上がるんだろうか?なら、俺はスーパーラッキーマンだ。トリガーラッキー。
「一緒に写真でも撮ろう。羽山健人君、君も映りなさい」
「はい!分かりましたー!」
「良い返事だ。珍しい冒険者だね」
「ありがとうございます!」
そんな訳で俺は金蜘蛛とブラックさんと一緒に、カジノの入り口の前で集合写真を撮る。きっとこれも何かに利用する感じなんだろう。商売はコワイ!
「それじゃ、《金蜘蛛の心臓》の事は忘れてあげるよ。その代わり報酬なんてないけどね」
「それでは困ります。羽山健人も任務だという事でダンジョンへと行ったので」
「そんな任務があったかい?私は《金蜘蛛の心臓》が欲しいと言ったんだ。でも、それはここにない。ちゃんと契約しただろ?なら厳密に行こうじゃないか」
「……」
「これからも『仲良く』しよう。それだけで十分じゃないか。そうだろ?」
アーローさんは返事に困ってしまった。おそらくこういうタイプの人が苦手なんだろう。あと、シンプルに論破された感がある。可哀想に。
まぁ、俺が代わりに話すか。
「これからもよろしくお願いします!」
「良い返事だね。それじゃあ、機会があったらまた見せに来てくれよ。あと、カジノの中だったら金蜘蛛を自由に解放してもらって良いからね?」
「はい!」
俺は良い感じの返事をしてこの場を去る。
《金蜘蛛の心臓》それをゲットする事は出来なかったが、代わりに金蜘蛛のゴーパーが仲間になった。
最初っから金蜘蛛を使役しますって言っておけば、今回も何かしらの報酬が貰えたんだろう。ただ、そんな事はあり得なかった訳でありまして。出来たけど。
アーローさんは車の中に戻る。その後ろを俺も歩いていた。なんだが大変そうな人だな〜、俺のせいでもあるかもしれんが。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
「さて、それじゃあ仕立て屋に行きましょうか。このままここに居ても意味ないので」
「はーい」
「私、私は秘書向いてないんですかね?」
「え?」
なんじゃ?なんでいきなりそんな事を言われたのかは、なんとなく分かるが、ここまでダイレクトに切り出されるとは思ってなかった。
「そんな事ないんじゃないですか?分かんないですけど」
「申し訳ないです。せっかく任務を頑張っていただいたのに」
「まぁ、別にそんなにアレでもなかったので」
「……」
そんなちょっと重たい空気の中、車は走る。アーローさんはアーローさんで大変なんじゃろうな。うんうん。
そんなに思い詰めるような事でもないんですけどね。別に無駄な仕事をする時もあるでしょう。
車はやっぱり進む。さて、次は仕立て屋だ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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