第29話 一緒に逃げるぞ!ゴーパー!
ピコン!
追いかけ続けて早何年。俺は、何かの称号を貰ったようだ。
太陽が昇って来たタイミング、早朝か?心地の良い、新しい朝だ。
この最中に何度も他の冒険者とすれ違って、微妙に恥ずかしいような思いを少しだけした。別にそんなのどうでも良いは良いけど、それでも気にはなる。
『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
なるほどなぁ、どうせランニング距離だろう。昨日と今日とで走ってしかいない。
________________
【ランナー】の称号を得ました!
おめでとうございます!
________________
予想通りでしかない。金蜘蛛を探し始めてから丸一日?いや、おそらくもっと経っている。
ダンジョンには時間に合わせて景色が変わる機能が付いているらしく、朝、昼、夕、夜、早朝の全ての時間帯を過ごした。ん?よく見るともう一つ称号が。
『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
________________
【オールデイ】の称号を得ました!
おめでとうございます!
________________
なんか良くは分からないが、二つも一気に称号を獲得してしまった。
まぁ、全くもって無駄な時間というわけではない、のは助かる。
俺は何をしていたんだ?とか思い始めているし。
________________
〈ベーススキル《俊敏増加》〉
[スキルを解放しますか?]
《はい/いいえ》
________________
________________
〈ベーススキル《MP増加・改》〉
[スキルを解放しますか?]
《はい/いいえ》
________________
このベーススキルは二つとも解放しない理由がなかったので、走りながらポンポンと解放する。
そして、そのついでに解放条件も確認してみると、《二十四時間で100km走る》と、《一日をダンジョンの中で過ごす》という割とありがちな条件だった。
なるほど、俺は一日中ここにいたのかぁ!へぇ!
まだまだ全然行けるじゃん!だって!アルダードの時はもっといたはずだし。いや、もう覚えてないわ。
「俺ってアルダードと戦った時一日いなかったっけ?」
「我は眠っていたから時間感覚が分からん!ただ!戦闘中は戦闘の時間として換算されるはずだ!」
「へぇ、一日中戦闘するみたいな称号は無かったのか」
「ないな!」
何回も視界から外れそうになる金蜘蛛を逃がさないように走り続けている。
俊敏が上がっているおかげか、あれから何度かハンマーで殴った事もあるが、どうしてか確立の壁を越えられない。
「待てー!なんで逃げるんだー!」
「キシシ!」
「笑うなぁー!」
こんな感じで、俺はもう金蜘蛛に揶揄われてしまっている。向こうの大変なはずなのに。というか、普通に考えてリジェネが発動している俺よりも向こうの方がハードなんじゃないか?
「モンスターって走り続けられるの?」
「我は出来ない!ただ!スタミナなどの概念がプログラムされていないのであればない!」
「金蜘蛛かぁ。無さそうだなぁ、この感じだと」
「内部ステータスだからな!我にもそこまで詳しく知る事は出来ない」
「どうしたら良い?」
「運良く当てるしかないだろう!うん!」
うーん!どうやら俺はどこまでも走り続けなければいけないのだ!いや!待て!なんとかなるかもしれない。というか、これでなんとかなってくれ。
「金蜘蛛!名前!名前を教えてくれ!俺の召喚獣にならないか!」
「キシ?」
「俺がお前を使役する!どうだ!」
「は?ふざけんなよ。お前なんかに使役されてたまるか!」
「そんなに喋れるのかよ!なんでキシキシ言ってんだ!」
「キシキシ」
「待ってー!」
「追いかけろ!!今はアイツも油断しているぞ!」
アルダードの時みたいに俺が根気でアイツを追い詰める!どんだけ元気な奴だったとしても、根気で俺には勝てない!
なぜなら根気も回復しているからだ!生きてるだけで元気になっていく!うぉーー!
それからもずっと草原の中を走り続ける。その最中に俺は話しかける。それでも金蜘蛛は「キシシ」としか言わない。笑ってくれない。
笑うな!話がしたいんだ!俺は!
「話をするぞー!おーーい!」
「キシシ!!キシシ!!」
「待て待て待てーー!おーい!あの、えーとー、お前ー!」
こういう時は名前を叫ぶもんだ。しかし、残念ながら俺はアイツの名前が分からないので、変な感じでお前というだけになってしまった。
「キシッシ!俺はお前じゃないぞ!!俺の名前は『ゴーパー』だー!」
「よし!じゃあ、待て待て待てー!おいー!ゴーパーー!」
「キッシシシシ!!お前変な奴だな!」
「待て待てー!」
こんな所で大きな声で叫び続けているから、周りの冒険者が野次馬的にこの辺りに集まって来てしまった。
俺に興味があるのか、それとも金蜘蛛に興味があるのか。てかそうだ!俺以外が金蜘蛛倒しちゃったら大変だ!
「こんなに冒険者が集まっているぞー!つまりお前は包囲されているんだ!観念しろ!ゴーパー!」
「キシシ!嫌だねー!」
「あ!また上空に!俺は飛べないんだよ!」
「知ってるよー!キシシシ!」
上の方へと逃げていく金蜘蛛。アルダードはもう帰ってしまったので、見守る事しか出来ない。この後また俺は走るんだ……無限だ……辛い……辛くないけど辛い。
諦めて走る準備をしていた俺だったが、「《一閃》」という声が聞こえると、金蜘蛛は地上へと落下してきた。
「イテ!!なんだ!そんな事出来たのか!?」
「いや、俺じゃない!ハンマーしか持ってないし」
「俺たちだよ」
そう言ったのは見ていた冒険者の一人。複数人でパーティーを組んでこのダンジョンを探索していたみたいで、話しかけてきた男の後ろにも男女か何人かいる。
「噂には聞いてたけどさ!金蜘蛛なんて会えるとは思ってなかったな!」
「だねー!ラッキーじゃん!」
「あの、良いですか?俺たちも?経験値はちょっと減っちゃうかもですけど?」
「え?」
「一緒に戦いません?その方がお互い得だと思うんですけど……」
「なるほど……確かにそうか」
そうか。そもそも俺的には《金蜘蛛の心臓》が欲しいだけで、別に経験値とかは要らないしな。いや、まぁ、要らないって事はないか。
「それなら、アイテムは俺にくれるか?」
「えー!どうしよ?どうしたら良い?」
「いいじゃん!……どうせアイテムなんか出ないよ」
「そっか。それならOKです!一緒に倒しましょう!」
「よし。それじゃあ、ごめんなゴーパー。追いかけっこはもう終わりだ!観念しろ!」
「ま、待ってー!ちょ、ちょっと待てー!」
可哀想だが、俺はこういうのは乗り越えられるタイプだ。割り切れる。
なんだか微かな友情が芽生え始めているゴーパー。でも、それもここで終わりだ。出来れば殺したくはないがな。
「わ、分かった!使役される!召喚獣になるから助けてくれ!」
「な、なに!?」
「キ、キッシシ!だろ?魅力的だろ!お前だけじゃないと出来ないんだよ!使役ってのは一人じゃないと無理だ!」
「そ、そうなの!?アルダード!」
「システム的には不可能ではないが!しかし!使役される相手が誰になるかは分からない!倒した奴全員が使役される対象になってしまうからな!」
「…………みんなすまん!逃げるぞ!ゴーパー!」
「キッシシシシ!そうだよなぁ!」
俺は金蜘蛛を抱えてまた走る。俺の後ろを追いかけてくる他の冒険者。だが、残念だな!俺に持久走で勝てると思うなよ!
俺はまだ走る。なぜかモンスターを助ける為に走っていた。
後ろからは声が聞こえてくる。
「モンスターだよ!騙されるな!利用されてるだけだ!」
「そうそう!使役なんてタダの確立なんだから!」
「モンスターを守るなんて馬鹿げてる!早く戻ってきてー!」
うるせぇー!走るぞー!
ランナーズハイでおかしくなった脳内にはきっと麻薬が分泌されているのだろう。もはや誰だ俺は。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!
ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!