第28話 金蜘蛛と追いかけっこ
今日は走る日だと覚悟を決めて、走り出そうとしていたその時、視界の端に金色に光る何かを見つけた。
それはカサカサ、とまるで虫みたいな音をちょっと立てながら、森の中へと消えていく。
結構大きかったな、テーブルぐらいのサイズはありそうだ。あの、ちゃぶ台返しをするテーブル。
「今の?」
「走れ!お前ならまだ間に合う!」
「オーケー!走るぞ!」
鎧を着たまま俺は走る。全身から流れてくる汗を感じつつも、どこまでも走り続けられるような気がしていて、なんだかんだ次の足が出る。
「お前!スキル持っていただろう!走るスキル!」
「あぁ!そうか、えっと《俊敏》!」
勢いを増した俺は隠れた森の中へと入る。まるで風になったみたいだ!でも、草木が邪魔であんまり早く走れない!
そんな感じで走っていると木に掴まっている黄金に輝く蜘蛛が目に入ってきた。
すごいな、確かにこれは崇める価値あり。
そう思いながら背中にあるハンマーを構える為に引き抜くと、金蜘蛛は吐き出した糸を伝って別の木へと移っていく。
その瞬間に、俺はこの任務が不可能かもである事に気付いた。
レアモンスターのレアドロップ。
最初のダンジョンに20000000グルの価値があるアイテム。闘技場でも、カジノでも崇められていた金蜘蛛。
どうすれば良いんだ。なんだこれ。
もしかすると、このまま一年ぐらいダンジョンの中で彷徨い続ける事になるかもしれない。うーん、流石にそれはちょっと無理かなぁ……レアドロップってどんぐらいなんだ?
てか、なんでそもそもアーローさんはこの任務を引き受けたんだ?
こき使われてる?俺はS級冒険者になる気満々だったのに……
考える事は多かったが、俺は金蜘蛛を追いかける。とりあえずは一匹倒そう。話はそれからだ。
俺はひたすら木から木に移る奴に向かって走り続ける。待てーー!
「オイ!このままでは埒が開かない!!私がこの森を燃やす!そうすればアイツは糸を使えなくなるだろう!!」
「え、良いの!?そんな事して!」
「ここはダンジョンだ!何事もなかったように!今と全く同じ姿で復活する!」
「なるほど!それなら!【召喚】!!」
そう言ってアルダードを森の中で召喚する。それだけでもう近くの木々は燃え始めてしまった。カッコいいぞ!アルダード!ダンジョンに環境破壊もクソもあるか!!
アルダードは変な踊りを踊り出す。これはアレだ!ファイヤーダンスだ!
「喰らえ!【地獄の業火】!」
アルダードが口から吐き出した炎はこの辺りに燃え移り、大火事を起こし始めた。すると当たり前だが俺の体力も減ってくる。回復するけど。
ダメージは結構どうでも良かったが、煙たいのが嫌だったので、アルダードと二人でとりあえず草原の方へと向かう事にした。つまり金蜘蛛は見失った。クソ!!
○○
『羽山健人さんは大丈夫ですかね?《金蜘蛛の心臓》を手に入れるというのは、大変な事だと私は思います』
『大丈夫なので。別にどっちでも良いのです。ただ、彼は《金蜘蛛の心臓》を探しに行った方が良いので』
『そうですよね。申し訳ありません、運命ですからね』
彼がどうして成功するのか、彼がどうしてS級冒険者になれるのか、それは分かりませんが、なるのは確定だそうです。不思議なので。
「お前!何をしているのだ!そんな、全身真っ黒な格好をして!怪しいぞ!」
「こんにちは。ここはソルドさんのお家ですよね?」
「そうだ!ここは立ち入り禁止だぞ!」
「そうでしたので。私は帰りますので」
「そうしろ!今ならまだ通報せずに返してやる」
「ありがとうございます。そのお礼に一つ良い事を教えてあげるので」
「な、なんだ。え!?な、なにー?」
「この仕事は辞めてください。近い将来死ぬ事になるので」
「は?」
S級冒険者のソルド。
彼がマッドサイエンティストと話している所はちゃんと写真に収めたので、これで下拵えも大詰めですので。
それにしても大豪邸ですね。フルマラソン出来そうなので。
「……なるほど……いや!そんな、そんな事を言うな!不気味だ!」
「心当たりがない訳ではないみたいですので。その話も聞かせていただけませんか?」
「……いや、いや!そんな、そんなお前みたい素性も知しれない奴に話す事なんてない!」
「私はトリガーラッキーですので。これでどうでしょうか?」
「と、トリガーラッキー……」
私は運命に導かれて生きています。でも、それを悪いと思った事なんて一度もないので。
夜の闇の中に消える。立ち尽くしている警備員は、トリガーラッキーの名前を知っていた。
○○
草原の方へと出ていくと、煙がなくなってきて空気が綺麗になる。俺の隣には大きなアルダード。
目的の金蜘蛛は、もはや、もう、もはやだ。
「オイ!!あそこにいるぞ!!」
「どこ!?」
「指を刺している方だ!向かうぞ!!」
「ウォー!!」
俺はまだ走り続けるぞ!!大丈夫だ!俺には走る事が出来る!!行くぞ!!
背の高いアルダードは、俺よりも先に金蜘蛛を見つけた。彼が指差す方へと全力で走り続ける。はしれーー!はしれーー!
「いた!ハンマー!」
「我も攻撃する!オリャ!!」
なーんもない草原に金蜘蛛が一人。大丈夫だ!俺よりも足は遅いし、近くに木なんか一つもない!勝った!いけるぞぉー!
アルダードが拳を金蜘蛛へと振り下ろす。
カキン!
ダメージを受けている様子はない。
「なに!?ダメージが!」
「そういうモンスターもいる!確率でしかダメージを受けないんだ!」
「なんだとー!ふざけるなぁー!」
俺は持っていたハンマーで思いっきり攻撃を与えようとするが、金蜘蛛は、まさか、いや、そのまさかの行動を起こした。なんだそりゃー!
「な、なんで空を歩いているんだ!」
「空中に糸を吐き出しているんだ!雲にでも引っ掛けているのだろう!」
「えー、えー!」
「大丈夫だ!その糸は我が燃やしてやる!」
アルダードが軽く火を噴くと、金蜘蛛が歩いている空の先から火が出てきた。確かにそこに糸があったんだ。そして、それは今確かに燃えた!
空中の足場を無くして落下する金蜘蛛の所へとダッシュ!そこへタイミング良くハンマーを合わせ「【圧死】!」を発動する。
勢いよく振り下ろされたそれは確かに金蜘蛛にカキン!と!当たった!が!ダメージは!普通に!ゼロだった!残念!
「……うわぁー!」
分かった!!分かったぞ!!
これ一人でやる仕事じゃないわ!!あり得ない!
そういえばそうだ!冒険者って別にパーティー組んでも良いんだ!みんなでやってやっと出来るかもしれないくらいの事なんだ!
「オイ!絶望している暇はないぞ!また逃げ出している!」
「……あぁーー!もうー!走るぞー!」
もうどこまでも走ってやる。今までの俺はずっと待ってばっかりだったけど、今度は俺が追いかける番だ。
金蜘蛛を追いかけて走っている途中、もしかしたら俺と戦っていた奴はみんなこんな気持ちになりながらやっていたのかもしれないなぁ、とか思った。
こっちは戦いたいんだよ。なのに、向こうはまともに取り合ってくれない。
なんかちょっと反省しようかなぁ、と思うと同時に、なるほどこれは有用だ!とか思う合理性があった。
まぁ、とにかく走るぞ!とにかく俺は走る!
待ってろ金蜘蛛!そして、ブラック!アーロー!
目的があるなら頑張るのが俺だ!やるぞー!
この時間が楽しくなってきていたが、とにかく走っていた。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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