第27話 はじめまして、お久しぶりです
前にも歩いた事のある洞窟。
その中をもう一度歩いている。ここにも金蜘蛛が出る事はあるのだろうか?
俺が確かめたい事は、デカゴブリンがデリビーであり続けているのか、それだけだ。
「あのさ、アルダード達が喋る時ってどんな理由?」
「我らがか?そんなの人によるに決まっているだろう!」
「そういう仕組みがある訳じゃないんだ」
「喋りたいから喋るんだ!言いたい事があるから口を出すんだ!それ以外にあるか!?」
「なるほど。俺の時も言いたい事があったのか」
「どうした!?」
「うーん、また長くなりそうだ……アルダードは良いよね?別に」
「何がだ!」
「うーーん、ね」
「なにがだーー!!」
アルダードの叫びは洞窟内を反響する。その音でもはや耳が痛い。スライムぐらいなら倒せるほどの音量だ。
普通に戦ってて喋りたいと思えるような状況は普通ないだろ。だって、戦う為に頑張ってんだから。
だから、戦わないようにしないと喋れない。つまりはつまり、これから先また長くなるという事だ。
別に良いけどさぁ、良いししょうがないとは思ってるけど、いうて俺だってダルいんだぞ。ダルいんだぞー。
彼が歩いているその道の先には、前とは違うデカゴブリンが居る。それともう一度新しく友情を芽生えさせるというのは簡単な事ではない。
今までに見た事がないような人と対峙するボスモンスター達。彼らは今まで戦う事や、仕組みの一部として生きていく事しか知らない。
「ここか」
俺は前と同じ場所に辿り着いた。目の前にはゴブリン。とそのボスらしきデカいゴブリン。デカゴブリン。
松明になんとなく照らされた彼らを見つめて、なんの数日前の出来事を遥か前のように思った。
俺が冒険者になってからまだ一ヶ月も経ってないなんて。俺が一番信じられん。
「なんだぁ!お前らはぁ!」
「こんにちは。お名前は?」
「はぁ!?お前なんかに名乗る名前はねぇーだろ!おいおーい!」
「そりゃそうだなぁ。じゃあ、ちょっと話し合おうか」
「ふざけるなぁー!お前ら!やっちまえ!!」
「ヘイ!」
デカゴブリン。前に話した時と同じような気がする。
デリビーの性格とは凄く似ているし、見た目なんてほとんどデリビーでしか無いけど、教えてくれ。お前は誰なんだ?
それを確かめる為に、俺の元へと走ってきたゴブリン達をハンマーで押し潰す。
ただのハンマーだ。
スキルは使っていない。それなのにゴブリンは一撃で潰されてしまった。
「おいおーい!なんだよ!お前実力者か!?」
そんな声を聞きながら、他のゴブリンを着々と倒していくと、最終的には俺とデカゴブリンだけの空間が出来上がった。
これだけ実力差があれば、きっと向こうも諦めてくれるはずだ。
俺がここに来た本当の理由は、それはきっとデリビーと友達になる為。デリビーを召喚獣として使役する為。
最初に俺を見た時に、アイツは何にも言わなかった。
だから、アイツがデリビーであったとしても俺とアイツは単なる他人だ。
俺には確かめる必要がある。俺はもしかすると命を奪っているのかもしれない。
「おいおーい!ガードか!?そんなんで俺に勝てるとでも思ってんのかぁ!?」
「名前を教えてくれ。お前にも名前があるんだろ?」
「だー!かー!らー!お前に名乗る名前なんてねーって言ってんだろ!!」
「そっか……」
うーん。これは、もしかして俺の記憶が無いだけじゃなくて、デカゴブリンの性格も変わっちゃってるんじゃないか?
確かにデリビーってこんな感じだったような気もするけど、流石にもうちょっと冷静だった気がする。というか、もうちょい静かだったような気がする。いや、子供っぽかった?
俺の記憶が間違ってるのか?それとも本当に違う人なのか。
それを確かめるには、やっぱり時間がかかりそうだな。
「もう倒してしまおう!我を召喚してくれ!」
「それはまだまだ先になりそう。ごめんね」
「か!勝つ為の方法じゃないのか!勝つ為に戦闘を長引かせていたのだろう!?なら!こんな簡単に勝てる相手に時間を使う理由がどこにある!」
「……う、うわぁわわー!理由は聞かないでくれー!!」
「なんだ!なんでいきなり動揺するのだ!」
俺にも分からんよ!!なんでこんな事をしているんだ!
金蜘蛛はどうしたんだ金蜘蛛は!!こんな所に蜘蛛はいない!
自分が何をしているのかが分からなくなりそうなまま、デカゴブリンの攻撃を頑張って受け止めていた。
○○
「あの!コッパーさん!ご報告があります!」
「なにかしら?」
「えー!あのー!」
「良い声ね」
「ダンジョンからモンスターが逃げ出したそうです!覚えていますか!エテルです!」
「それって……どの子だったかしら?」
「はい!あの!こちらの写真です!」
「……あぁ!!あれね!水色の!あぁ!この子ってエテル!なるほどねえ〜」
二人は冒険者。
コッパーさん、と言われている女性はS級冒険者で、自らの肉体をあらゆる物へと変化出来る能力を持つ。
水や火や金属や風など、様々な物へと変化する能力を持っている事により、S級冒険者まで成り上がった。
この能力を手に入れる為には、様々な物を飲み込む事で得られる【ブラックホール】という称号を獲得する必要がある。
それは、ビー玉やら、釘やら、泥やら、虫やら、この世にあるありとあらゆる物を食べると得られる称号だった。
スキル名は《変身》。
冒険者として最初からそのスキルを目指していた訳でなかったので、多少のタイムロスはあったものの、あれよあれよみたいな感じでS級冒険者まで昇級したのである。
「それなら行きましょうか?アエク?」
「はい!分かりました!」
「殺生をお許しください。神よ」
○○
あれから数時間後。ずっとガードを続けていた俺に、デカゴブリンが話しかけてくる。
「お前!俺で遊んでんだな!性格悪いなぁ!」
「いや、違う違う。話がしたくて」
「んな訳ねーだろ!俺はモンスターだぞ!」
「居たんだよ。デカゴブリンが。デリビーって名前のデカゴブリン」
「デリビー?知らねーな!ていうか!お前俺たちの仲間を!」
「そう……まぁ、そうか。最初っからこうすれば良かったのか」
適当な口論をしていると、目の前のデカゴブリンがデリビーではないという事が確かになった。最初っからデリビーって名前を出しておけば良かったのか、俺はバカだ。マジで。
「なんだボソボソと!」
「友達なんだよ。向こうがどう思ってるのかは知らないけど。まぁ、でも、もう居ないならここには用はなくなったからな。達者でいろよ」
「逃げるのか!!オイ!」
「逃げるよ。じゃあな」
今更経験値もいらないし、それに、こんだけ話した相手を意味なく倒すのは好きじゃない。
気分転換にもなったし、とりあえずは金蜘蛛探しに戻ろう。はぁ……
「待てよ!」
「ん?」
「ならお前が俺を倒せ。どうせ俺は誰かに殺される運命なんだからな!」
「……まぁ、俺で良いなら俺が倒すけど。本当に良いの?」
「当たり前だろ!お前は冒険者にしては珍しく話が出来る奴だからな!」
「そっか。それなら、最後に名前を聞かせてくれ。覚えるから」
「俺は、俺の名前はグラス。お前は?」
「そっか、俺が名乗ってないのか。俺の名前は羽山健人」
「羽山健人。変な名前だな」
「そう?良い名前じゃない?」
「かもな」
「グラスも良い名前だよ。本当に」
俺はどうするつもりなんだろう。というか、なんでこんなにモンスターって良い奴多いんだ。苦しい。
でも、やるしかない。やるしかないから俺はスキルを発動する。
「【破壊】」
それを発動してから、俺は見ていた。
無抵抗で俺に倒されようと、殺されようとしているグラスを見ていた。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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