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第26話 金蜘蛛探し

 

『始まりの大地』

 冒険者であれば誰もが一度は通る道。

 その中に輝く蜘蛛がいる。その蜘蛛に出会えた冒険者は幸運だ。そして、それを倒せる者は天才だ。

 蜘蛛の糸はあらゆる場所を駆け巡る。逃げ足の早い蜘蛛を天性の才能で見つけて倒せる者は冒険者の中でも稀だ。


 ○○


 綺麗な場所だ。さっきからずっと変な鳥を倒してばかり、スライムを倒してばかり、アーローさんが帰ってしまってからもうどれくらい時間が経ったのだろう?

 一時間ほど草原をフラフラと歩いていても、どこにも金蜘蛛は見当たらない。一応、このダンジョンであれば全域で確認されているらしいので、場所が間違っているという訳でもない。

 ただ、シンプルにレアモンスターなんだろう。暇だ。


「アルダードは聞いた事ある?金蜘蛛」

「あぁ!知っているぞ!金蜘蛛はこの広いダンジョンに一人しか出現しないそうだ。だから、お前は塵を見つけようとしているのに等しい」

「そんな馬鹿な、ダンジョンの広さは?」

「平均として一つの市ぐらいはあるそうだ。800㎢ぐらいか?」

「終わった」

「しかし!『始まりの大地』は最初のダンジョンだ!そこまでの面積はないと言われているぞ!」


 このままここで時間を潰すのも微妙だ。

 そう思ったので、いつものトレーニングメニューのダンジョンの中で、鎧を付けながらしてみる事にした。

 走ったりもするので、探すにはちょうど良いだろう。どうせ疲れないんだし。

 そんな思いで俺は走り出す。最近だと走っている時の疲れと、リジェネの回復量が釣り合ってしまっていて、無限に走れるんじゃないか、とも思えてきている。

 これからはずっと走って移動しようかな、ダンジョンの中だけ。

 そんな感じで、毎日のトレーニングメニューをダンジョンの中で始めてみた。


 ○○


「こんにちは〜、ララーで〜す」

「知ってるかもしれないけど、私はメイル。仕立て屋だそうだけど、今更意味あるのかしら?」

「A級ですよねー。ご存じです」

「そ、そう。とにかく、よろしく」


 トリガーラッキー。彼女に会えた事はとても嬉しかった。僅かな時間ではあったものの、確かにS級冒険者になる人間の風格を感じた。アレは普通じゃない。

 そんな彼女に直々に仕立て屋に行くように言われたんじゃ仕方がない。私がここに来るのは運命だったそうだ。

 彼女の口癖。いや、彼女だけの特別なスキル。

 そんなトリガーラッキーが私に仕立て屋に行けと言ったのなら、私がそれを断るような理由はなかった。


「お身体触りますね〜」

「あ、はい」


 そう言って彼女は私に身体を近づけて……

 うーん、うー、なんだ?別に私が気にするような事ではないと理解しつつも、彼女の大きな胸が当たっているのを感じる。

 いや、普通だ。仕事だ。仕方ないんだ。ん?私はなんなんだ。

 少し羨ましいと思いつつも、男性相手にも同じような事をしているんじゃないか、と邪推をしてしまう。


「下着だけになって貰っても大丈夫ですかね?」

「あ!あ、はい、そうですね……」


 こんなにスタイルの良い人の前で下着……なんだか微妙に嫌な気持ちになりそうだが、これは仕事だ、普通だ!仕方がないんだ!!


「お客様〜、スタイル良いですね〜」

「え!?私が!?」

「はい〜。体型維持の為の努力とかしてる感じですよね〜」

「い、いや、ま……まぁ、そうですね〜」

「憧れちゃいます〜」


 ペタペタ私の身体を触りながら、なんだか悪い事をしているような気持ちになりながら、私はこの時間が終わるのを待っていた。

 なんでこんなに純情な人みたいになってるんだ私は。


 闘技場という殺伐とした場所に長く居てしまったせいか、こういう何でもない日常に抵抗出来なくなってる。

 なんだろう、この気持ちは。私はこんな生活を求めていたのか?


「それでは計測はこれでおしまいで〜す。次はこちらへ」


 謎の部屋へと連れて行かれた私は、青白い光に包まれる。


「貴方に適した職業……それは、『剣闘士(ソーダー)』ですね〜」

「それだと今の私と変わらないのだが」

「変えたかったですか?でも、一番適してるのはそれだと出てますよ〜?」

「……なるほどな」


 なるほど分かった。彼女は私に冒険者として大成する事を諦めさせようとしているんだ。

 一番最適な職業で、一番努力してきた技がこの程度なら、やっぱり私は冒険者が向いていない。

 最後の希望が砕かれたような気がする。面白そうだから、という気持ちだけでここに来たわけじゃない。成功するかもしれないという淡い期待があったんだ。


「あの〜、貴方って羽山健人さんと戦った事ありますよね〜?」

「ん?そうですね、戦った事はあります」

「どうでした〜?あの人」

「うーん……」

「私も見た事があるんですよ〜。あの人の戦い。凄いですよね〜」

「そうですね、確かに」

「どんな気持ちになりました?あの人と戦って」


 ある。間違いなく一つだけある。

 羽山健人と戦っていて思った事が一つだけある。それは、簡単だ。でも、不思議な話だ。


「私は彼から殺意を感じなかった。彼は、彼はきっと私を殺そうなんて思って居なかったはずだ」

「優しいんですかね〜」

「違う。きっと、きっと優しさではない」

「そうですか〜」


 優しさではないならなんだろうか?その答えは、その答えはきっと私の側にある。

 私が持っている戦いたくないという気持ちが、彼の戦おうとしない姿勢に共感してしまったのだろう。彼は勝ちたいだけで、戦いたい訳ではない。

 私たちは戦いたいと思っている。それが、それが楽しいから。

 もう少しだけで良かったのかもしれない。

 誰にも邪魔されない場所で、もう少しだけ彼と戦う事が出来ていれば、私はこの感覚を絶対の物に出来ていたはずだ。


 ○○


 金蜘蛛探しのランニングはもう数時間経ったかもしれない。こんなに出ない事あるか?そんな感じだ。ただ、確かにダンジョンが一つの市ぐらい大きいなら、このエンカウント率は不思議な話じゃない。


「まだ探すのか?」

「探す……あ、そうだ」

「どうした?」


 そういえば、この場所にはデリビーが居た。というか、このダンジョンのボスはデリビーだ。だから、もう一度会いに行ったらまたあの時と同じように……

 いや、違う。俺が会いに行きたい理由は、モンスターが自我を持っているのかを確かめたいからだ。

 俺はアルダードに個性を感じている。しかし、もし仮にイフリートがみんなアルダードみたいな性格をしていたら、俺の気持ちはちょっと変わるかもしれない。

 それを確かめる為にもう一度イフリートの元へ行くのは大変だ。だから、デカゴブリンで確かめよう。

 俺は金蜘蛛に飽き飽きだ。息抜きにボスに会いに行こう。


「どうした!!おい!!おーーい!」

「うぉ!びっくりした!」

「いきなりどうしたのだ!帰るつもりか!?」

「いや!ちょっと会いたい人……まぁ、会いたい人が居て」

「こんな所で?それとも戻るつもりか!?」

「いや、近くに居る。まぁ!とりあえず走ろうか!」

「まだ走るのか!お前は本当に恐ろしいな!」


 走っている最中にも体力が回復し続けてるんだし、普通に考えれば俺が走り続けられるのは普通だ。

 ただ、俺の普通じゃないところがあるとしたら、それはシンプルプルにこのリジェネ。ほんとに馬鹿みたいな能力ですよ。

 そんな馬鹿みたいな能力を持ちながらここを走り続ける。さっきから時々冒険者とすれ違う事があって、その度になんだか恥ずかしい気持ちになる。

 でも俺は走る。なぜなら、俺は走り続けるからだ。


 目的の為なら俺は頑張れる。でも、逆に言えば目的の為に頑張りすぎてしまう。成果が出なかったらゴミだ。だから、俺は運が良いだけ。

 結局一番強いのは運が良い奴だな。そんな事を思いながら、はしるーはしるーるるるー。


読んでいただきありがとうございました!!

何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!

ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!


ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!

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