第25話 ブラックからのご依頼は、レアモンスターのレアドロップ
「何してるんですか……羽山さん」
ブラックジャックに勝った喜びで、黙って拳を上げていた俺。
そんなところにやってきたアーローさんと、この間会ったブラックさん。
ふと我に帰り、自分が自分の思っている以上に喜んでしまった。もっといえば、その喜びを表現してしまっていた事を恥ずかしく思う。
やっちまった。なんか、正気じゃなかった。空間自体に魔法がかかっているみたいだ。
「楽しんでいただけて何よりだよ。これから私たちもお世話になる訳だからね」
「……どうもよろしくお願いします。羽山健人です」
「私はブラックだ。昇級おめでとう。ニュースで見たよ」
「ありがとうございます。カジノ、楽しませてもらってます。はい」
「私は一度戻っておくから。コインの受け取りや換金を済ませたらアーローさんと一緒に事務所へ来てくれ」
「はい!分かりましたー」
冷静でカッコいいブラックさん。
カジノの人って感じだ。ちゃんと裏がありそうだし、ちゃんと闇の組織かなんかとの繋がりがあってもおかしくないような立ち振る舞いをしている。
やっぱり仕事が出来る人っていうのは見た目でもわかるもんなんだな。
「お客様、こちらがお客様の獲得したコインです」
俺は20000グルを使って、70000グルを儲けた。こんな事があっていいのだろうか?
二択を何回か選択しただけで70000……冒険者として大成出来なかった時はギャンブラーになろう。
こんな経験をしてしまっては、今更会社員には戻れそうにない。
「それでは行きましょうか」
「ちょっと待ってください。称号が」
「なるほど。歩きながらでいいですか?」
「じゃあ、行きましょうか、ね」
歩きながらスマホを確認する。
『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
という、もはや見慣れてしまった文言をチャッチャッと読み飛ばして、メールを開く。
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【ブラックジャック】の称号を得ました!
おめでとうございます!
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そんな称号についてきたスキルは、《ドロップ率増加》とかいう地味にめちゃくちゃ役立つスキルだった。
これは他のギャンブルもやる必要がありそうですね。うん。
暇になったらここに来よう。そんな決意と共にアーローさんの後を着いていく。
「いくら勝ったんですか?」
「70000グルですね。ボロ儲け」
「……気を付けてくださいね。ギャンブルは一番最初に勝つとハマるとかいうので」
「まぁ、とりあえず称号だけでもコンプリートしてから考えます」
「カジノで貰えるスキルは有用ですからね。それに釣られて破綻する冒険者や、一般の方も多いので。気を付けるのだけは忘れないでください」
てっきりギャンブル肯定している人だと勘違いしていたけど、賭け事はあまり好きではないみたいだ。
どうやら利用しているだけの関係ってところみたいだな。それか、近くに居すぎて嫌な部分も見てきたのか。
まー、アーローさんもそこまで長く秘書をやっている訳じゃないみたいだし、そもそもトリガーラッキーとカジノの関係もそこまで長年の物でもないだろうから、単純に嫌いなんだろう。ギャンブル。
「ようこそ。私の事務所へ」
扉を開けるとすぐに謎の香水の香りが鼻を刺す。
刺激臭で普通に嫌な香りだけど、これが好きな人がいると言われてもそこまで違和感はないな。
何だろ?モンスターの体臭に近しいところがある。
ブラックの事務所には様々な宝石やらオブジェやらが飾られている。広さもバスケのコートぐらいはあるんじゃないか?
この富豪め。
「今回の選挙はご協力いただきありがとうございました。お陰様でおよそ十万票も獲得する事ができ、羽山健人も無事F級冒険者からE級冒険者へ昇級する事が出来ました。お力添えがあったからこそです」
「……ありがとうございました」
台本でもあるみたいにスラスラスラスラ。どうせそんな事心では思ってないだろ。
頭を下げて、頭を上げる。こういう社交辞令を聞くたびにこれは誰が喜ぶ物なんだろう、と必要性に関して少し考えてしまう。気色悪い。
「君たちも分かっているだろうけど、その票数は私達の協力ではなく、君たちの実力だよ。私としても、君たちがただの道化じゃなく、中身のあるスターである事を喜ばしく思う」
「ご協力があってこその中身です」
「そうだね」
そうか?
「本題に入ろうか。私は個人的に君に任務を頼みたいんだよ」
「あ、はい。私ですよね?」
俺は自分の顔を自分で指差す。ここで任務を受ける事になるのであれば、別に無理してなんとかラードを採りに行く必要もなかったな。
「そう君に。君に《金蜘蛛の心臓》を採ってきてほしいんだ。欲しいと言ってくれるお客様がいてね」
「金蜘蛛……そうですね。それがどのようなモンスターなのかに付いて詳しく聞く事は出来ますでしょうか?」
「冒険者なのに金蜘蛛を知らない?」
「いやや、あの、えー、そうですね……」
「知らない?知らないのにここへ?」
「彼は冒険者になってからまだ日が浅いのでご容赦ください。しかし、その実力は本物です。その任務は受けさせていただきます。羽山さん、貴方はこの任務向いてます」
「え、すー、ではよろしくお願いします。尽力させていただきます」
「私としては心臓さえ貰えればそれでいいからね。よろしく頼むよ」
「はい、お任せください」
説明されないまま、俺は金蜘蛛を倒す事になった。
こんなにお金を持っているなら買えばいいだろう。となると、もしかしてめちゃくちゃ高価な物なのか?
二人でカジノから出ていく。家からここまでは中々距離はあるが、タクシーを使……あそうだ。
「あの、転移の登録ってどうやってやるんですか?」
「それならスマホとかで出来ますよ。ここを登録するんですか?」
「まぁ、その方が便利かな、と」
「なるほど。現在位置を開いてください。そして、そこを長押ししているとその表示が出るはずです」
画面を長押ししてみると、『この場所を転移先として登録しますか?』という問いをされたので、その下にあった『はい』のボタン?画面を押す。
『登録が完了しました』とかいう怖い文章が出た。これで良いのだろうか?
「出来ましたか?」
「まぁ、おそらく」
「それではダンジョンに行きましょうか」
「アレですか?金蜘蛛ですか」
「はい。ですが安心してください、今から行くのは『始まりの場所』です」
一番最初のダンジョン。俺が冒険者になる前トリガーラッキーさん達に連れて行かれた場所。
「金蜘蛛は初期のダンジョンのレアモンスターです。しかも、《金蜘蛛の心臓》は、レアモンスターのレアドロップです。しかも超レアドロップです。分かりますか?」
「……まぁ、持久戦は得意ですよ。僕は」
「あまりにも時間がかかるようでしたら、もうお店で買ってしまいます。しかし高いので出来れば見つけてくださいね」
「ちなみにいくらぐらいするんですか?」
「20,000,000グル。二千万。無理だと思いますけど、金蜘蛛は戦うと称号が貰えるので、それだけでも取ってきてください」
「…………頑張ります」
俺の背中にいきなり乗っかってきた二千万。いや、これは分かった。これは、無理な事をお願いされてるんだ。
なるほどな、だからアーローさんはカジノ嫌いなんだな。
めちゃくちゃ吹っかけてくるじゃん。あの人。
やっぱりカジノのオーナーだけあって狡いなぁ。これって合法なのか?よく分からないけど。
めちゃくちゃなお願いをされた事と、この世界で金蜘蛛が特別な存在である理由を少し知った。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!
ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!