第23話 将来のS級冒険者が二人もいる事務所
はじめての任務を終えたお陰で、【初任務】とかいう称号をもらった。
それについていたスキルは【俊敏】というもので、数分間足が速くなるとかいう必要なのか要らないのかちょうどよく分からないスキルだ…………
そんな事を思っていたはずの数分前の自分に教えてやりたいが、【俊敏】は使えるスキルだぞ!
なぜなら俺は今、事務所に向かって全力で走っているからだ!!急げ!
「不幸中の幸いですよ!初任務で貰えるスキルがそれだったのは!!」
「すみませーん。申し訳ないです!」
「なんですかいきなりしおらしくなっちゃって!反省出来ましたか!?」
「しました!申し訳ない!!」
「ホントによく分からない人ですね!まぁ!それでこそ冒険者って言えるのかもしれないですけどね!!」
大分時間が経ってくれたお陰が、アーローさんは少し優しくなってくれた。
もし仮にあのままの空気がずっと続いていたら、俺は結構この冒険者という職業を嫌になっていたかもしれない。
考えてみたらこの職業に執着する事のない俺が、これを続ける為には快適な環境が必要だ。
その為には、やっぱり、俺も向こうに合わせる努力が必要になるだろう。
めんどい!!
「着きますよ!!もう『投影者』が待ちくたびれていると思うので、最初は謝罪から入ってください!!じゃないとスキャンダルとか追いかけられるようになってしまうので!」
「なるほどなるほど!土下座で良いですか!」
「やりすぎです!それはそれでスキャンダルになるじゃないですか!」
「これはスキャンダルじゃないんですか!?」
「これは!これは、これはスキャンダルですよ!!バカ!どうして当選会場に本人が居ないんですか!」
「でも、別に良くないですか!?なんか問題ってありますか!?」
「あぁーー!もう!!とにかく今は急ぎましょう!」
○○
本当に羨ましいくらい自由だな。
これが一流冒険者の条件ですか。私はまだ自分の自由を謳歌出来てない。どうしてそんな風に、自由に自分勝手に生きている方が成功出来るのか、その理由は分からないけど、良く良く考えてみたら、ダンジョンに行ってモンスターを倒すという行為自体にエゴイスティックな要素があるような気はしないでもない。
「あの、羽山健人さんが来るまでの間だけで宜しいので、取材をさせてもらう事って出来ますかね?」
「私ですか?どうして?」
「闘技場の王が冒険者事務所に所属したというのは十分大きなニュースでしたからね。その詳細を教えていただければ幸いです」
それはみんなにとっての大ニュースだ。私たち冒険者には確かに私生活という物は確保されている。
しかし、プライバシーに関して言えばあるのかないのか良く分からなくて、どうしてそんな事をみんなが知っているんだろう?みたいな情報が、いつのまにか街の常識みたいになったしまっていて、多少驚く時がある。
それは間違っている時もあるし、普通に正しい時もある。なんだったら正しい事の方が多い。
ある程度の行動であれば許可なしで発信しても良いという契約を結んでいるからそうなるんだけど、たまに忘れていると驚いてしまう。
私の影響もあったのだろうか?F級からE級への昇級なんかで十万票も集まったのは。
どれだけ私が苦労して票を集めたと思っているんだ。色々な所を駆けずり回……これはいらない感情か。
「それではですね。まず、この事務所を選んだ理由などを教えていただけますでしょうか?」
「はい!それはですね!……」
それは簡単だと。
それは簡単だと私は思う。その理由はとても簡単で、口には中々しづらいような理由でも、私はその事に付いて触れる。
「将来、必ずS級冒険者になる人がここには二人もいるので。私は、自分が得をする為にこの事務所を選びました」
「ほう……二人というと、トリガーラッキーさんと、チキンさんとかでしょうか?それとも」
「そうです。おそらく、その『それとも』に続く人が将来のS級冒険者です」
「す、すみませんでしたーーー!!!遅れましたーー!」
「羽山健人。面白い名前」
まともなのか、それともイカれちゃってるのか。どう考えてもまともではないし、イカれているというほど変な人でもない。
きっと、多くの人そういう人の事を好きなんだろうな、特別で特別じゃない人を、誰しもどこかで求めているはずだ。
○○
俺が戻った時、この事務所の周りには『投影者』やら、『記者』やらが集まりに集まっていた。
元々はそんなに注目される予定ではなかったが、なんかあーだこーだ色々あったからこうして多くの人の目に留めようとしている人達が集まったのだろう。ふむ。
その中へと駆けるように入っていく俺。無理やり、とはいえ安全に事務所へと入り込んだ俺は、出来る限り大きな声で謝っておいた。定石だね!
俺は中心に躍り出て、みんなからの質問を適当に受け答えておく。それと同時に事務所のスタッフからの万歳三唱がなる。バカが!!インタビューと同時に万歳するバカがどこにいるだ!バカたれ!!
俺は頭がおかしくなっていた。自分の身に起きている事があまりにも浮世離れしすぎている事がその理由なのか、それか、《リジェネ》を獲得したあの日から全く眠っていない、それが理由なのかは全く分からないが、とにかくバカになっていた。
「大変でしたね。ひとまずこれで取材は終わりました」
「はぁ……疲れてないのに疲れた。普通にダンジョンにいるよりダルいわ」
「それは、それも冒険者の仕事なので。どうでもいい仕事なのは間違いないですけどね」
「そうですね。まぁ、とりあえず俺は帰ろうかな」
「ちゃんとトレーニング続けてくださいよ?アレを続けていると、色々な称号が一気に解放されるので」
「へぇ」
「帰る前にサインをしていってください。厳密には貴方はまだF級冒険者なので、最後の手続きです」
俺は最後に謎の書類にサインをした。本当はちゃんと読んだ方が良いんだろうな、中身。
すると、ピコン。まただ。
『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
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【昇級!おめでとう!】の称号を得ました!
おめでとうございます!
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おめでたい称号が貰えた。これによってどんなスキルが貰えるのか、確かめるだけ確かめてみると、【《転移》】というスキルが貰えていた。これは、随分と便利なアレだ。
「これで貴方も半人前の冒険者ですね。転移は街中でも使えるので、遠慮する事なくドンドン使っちゃってください」
「コレってどういう条件で発動するんですか?」
「自分の転移したい場所を前もって登録する必要があります。でも、スマホの位置情報システムの中にそれは組み込まれてしまっているので、帰りながらでもしてください。普通に今日は送りますから」
「ありがとうございます。まぁ、アーローさんも大変ですね……」
その言葉を言った後に、俺のせいで大変になっているという事を思い出して笑いそうになってしまった。
トラブルの種がトラブル大変ですね、って言ってきたら人はどんな気持ちになるのでしょう?間違いなくいい気はしないだろうな。でも、しょうがない。シンプルに口が滑った。
「別に良いですよ。私はトリガーラッキーさんに憧れてここにいるんですよ?大変なのは覚悟しています」
「そう……まぁ、じゃあよろしくお願いします。車内でご飯も食べちゃいますね」
リーン、リーン。
事務所の外ではなんかの虫が鳴いている。今日も面白い一日だった。というか、今日の俺はなんか変だった。
見上げる月はまん丸だ。きっと、どこから見てもそうなんだろう。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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