第22話 アーローさん!貴方はそんな人じゃなかったはずだ!
メイルさんがウチの事務所に入りたいと言っている事を秘書のアーローさんに連絡したら、普通にオッケーだと言われたので、今は二人で事務所に向かっている。
どうやらメイルさんは有名な冒険者らしく、闘技場の王という呼称は、広く多くの場所で知られているものだったそうだ。
俺は、冒険者に対して浮世離れしている世間知らずの人達という印象を持った事がある。
しかし、本当に浮世離れしている世間知らずは俺だったのかもしれない。うん。
「聞きましたよ。メイルさんに勝ったそうですね。闘技場で」
「まぁ、一応」
「本当に貴方って普通じゃないんですね。それでこそ冒険者に向いてるって感じではありますけど」
「ははは……」
「まぁ別になんでも良いので。それではこちらにサインをお願いします。別の事務所には入ってないみたいですし」
「それじゃあ、私もここにお世話になる事になります。ははは」
また新しくウチの事務所に冒険者が増えたが、そもそも俺は一人で冒険しているので、ここの事務所の仲間たちと交流を持った事なんてない。
ここには数十人冒険者が登録されているようだが、チキンさんとトリガーラッキーさんしか知らない。
メイルさんが仲間になったところで、俺の冒険に何か関わりがある訳ではないだろうけど、事務所が大きくなっていくのは普通に喜ばしい事か。
それに、選挙の前にこんなニュースが出てくれれば、色々と俺にとっても得はありそうだ。
【翌日】。そんな感じで、翌日。選挙の当日はみんなで集まるらしく、交流を持った事もない冒険者の人が俺の周りにグルグルと集まる。
しかし、そこにはトリガーラッキーの姿はない。
最初の勧誘の時だけ親しげにビッって感じで近づいて来ていたけど、用が済んだらそこそこ冷たい。
なんかカメラの人も来ている。
あの人がこの事務所の人なのか、部外の人なのかは分からないが、俺はじっと半分眠りながら待っていた。
「退屈だな!!いつになったら結果が出るのだ!!」
「アレですよね?ここに居ないとダメなんですよね?」
「はい。冒険者は事務所で選挙の結果を待つのが一般的です。その方が誠実そうなので」
「へぇ……」
自由に見えていた冒険者にも色々なしがらみがあるらしい。
本当に自由な冒険者ってトリガーラッキーさんぐらいなのだろうな。なんとなくそんな気がしてきた。
俺は、俺はS級冒険者になろうとは思っているが、別に媚びを売ってまでそれになりたい訳じゃない。
なので、この場からどうやって抜け出すのか、それを考える事にした。
「ちょっと買い物とか行ってきても良いですかね」
「ちょっとだけなら良いですよ。コンビニですよね?」
「コンビニ……ですね」
「私も着いて行きましょうか?ついで用があるので」
「行ってきまーす」
そんな感じで俺はここから抜け出した。
どうせ俺が居なくても結果は出来るんだ。窮屈なあの場所に止まるくらいなら……いや、俺はどうしちゃったんだ?
元々の俺はそんな事をするような奴じゃなかったはずなのに、普通の人だったはずなのに、どうしてこんな。
冒険者になってからの自分は、それまでの自分と比べても明らかに変な気がする。
子供の頃はずっと冒険者の事を調べていた。それでも、健康を気にするようになってからは、健康以外は全部適当に、おざなりになっていた。
俺は、【健康第一】という目標を達成してしまったことで、どこかおかしくなってしまっている。
別に、本当はそんなのどうでもいいはずなのにS級冒険者を目指そうとしているし、冒険者として成功しようとしている。
昔の、健康に向かってただひたむきに直進していた頃の自分が懐かしい。というか、出来れば戻りたい。
ストレスとかもあったが、あの時の俺には生きている意味があった。うーん、どうすれば良いのかよく分からないな。
あの時と同じような気持ちでS級冒険者を目指せるのだろうか?
そうでないなら、新しい目標を見つける必要があるのかもしれない。
そんな事を思いながらダンジョンの中へ入っていくと、アーローさんから連絡が来た。
「あの!今なにしてるんですか!?なんか通知が来たんですけど!ダンジョン行ってますよね!?」
「あ、はい。分かるんですね」
「ちょっと!そんな、そんな無茶苦茶な事する人でしたか!?あの、えっと!どこですか!どのダンジョンですか!?」
「えーと……『深い森の奥の奥』って場所?」
「はぁ……私も向かいます。ボスとは戦わないでくださいよ?長いので」
「いや、任務でもやってみようかなぁ、とか思っちゃって、すみません」
「F級の任務なんて大した物ないんですから!てか!帰れるなれすぐにでも帰ってきてください!!ホントに!!」
思ったより怒られなかったな。
向こうもこの状況がいきなり過ぎてビックリしているのだろう。
ここのボスがどんな物なのかは確かに気になるが、今日の俺はスマホに知らぬ間に届いていた任務の中なら良さそうな物を適当に見繕っていただけだった。
ラードフォレストとかいう木の化け物のドロップ品に、《フォレストラード》という樹脂があるらしい。
俺はそれを十個納品するだけで良いそうだ。初めての任務にちょうどいい、片手間でも出来るような仕事。
これだけで10000グル。本当に貰いすぎ、冒険者。
ジャングルのように深い森の中を進んでいても、植物に覆われたぷよぷよのスライムにしか出会わない。
今のところ全てのダンジョンでスライムを見ているが、どこにでもいる奴なんだろうか?ご当地のスライム。
しばらく森の中を彷徨っていると、後からアーローさんが合流してきた。
どうやら怒っているようで、頬をプンプンと膨らませて……いや、今にも膨らませそうな程の感じでこっちに向かってきた。何事!
「あの!!良い加減にしてくださいよ!!もう結果出ちゃいましたよ!」
「へぇ……そうなんですね……」
「あのね!十万票ですよ!!!分かります!この意味が!F級冒険者の昇級で約十万票なんて、私今まで見た事ないですよ!本当に!!」
「あれ?2000で良いんじゃなかったの?」
「だ!か!ら!!だから異常だ!って言ってるじゃないですか!!アレですか!もしかして調子乗ってるんですか!?あまりにも強くなり過ぎて調子に乗ってるんですね!天狗にってるんですね!!」
俺は、アルダードみたいになっちゃったアーローさんの前で困惑を続けていた。
困惑ついでにラードフォレストがどこにいるのか聞いてみようかな。流石に怒られそうだけど、でもマジで今更過ぎるからな、そんな事を考えるの。
「あの、ラードフォレストってどこにいるか知ってる?」
「あああぁぁぁーーー!!!うわぁぁぁーー!!」
頭がおかしくなってしまった!
頭を抱えて、ジャングルの中で空に向かって吠えるアーローさん。そんな人じゃなかったはずなのに。一体なぜ?どうしてしまったんだ。
そんな日もあるのかもしれない。というか、俺はこの状況を面白いと思い始めて来てしまっていた。
「コッチです!!早く終わらせましょう!!討伐依頼ですよね!?」
「いや、なんかラードが……」
「なら私が持ってます!!あげるのでもう帰りましょう!!」
「わ、分かりました」
「本当に、さっきはムカつきましたよ!!そんなに破格な力を持っているくせになんでラードフォレストの事すら知らないんですか!誰でも通るはずなんです!!どんな人でも必要な過程なはずなんです!!これが普通なんです!!はぁーーー!もう、もう私にはよく分かりません!!」
俺も冒険者らしくなってきたという事だな。
家に無理やり押し入られた時の俺と同じような感じになっている。
トリガーラッキーさんの秘書だっていうからもっとこういう耐性あるのかと思ってたけど、案外気を付けないといけないみたいだな。
俺は、あまり自分勝手な事をするのは良くないという事を学習した。もうこんな事はないようにしよう。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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