第21話 白いワンピースを着た、水色の髪をしたモンスターと街中でぶつかった
「それでは!こちらが今回の報酬です!初陣ご苦労様でした!」
受付の人はテレビほど大きなタブレットにQRコードを載せた。
それをスマホで読み取ると、今回の報酬であると言われた50000グルが手に入った。
一勝するだけで50000。高い。やっぱり冒険者ってめちゃくちゃ恵まれた職業だ。
デリビーを倒した時は20000、アルダードを倒した時は……うーんと、確か40000?
お金の事だけを考えるなら、ダンジョンをフラフラしていた方が稼げるっぽい。
本当に戦うのが好きな人もいるんだろうけど、その人にとってみたら不健全な場所になってる訳だな。
そんな事を考えながら、メイルさんと待ち合わせをした店をフラフラと探していた。
その途中で闘技場初勝利の称号を解放していた。ここでも称号が貰えるんだな。
『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
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【剣闘士】の称号を得ました!
おめでとうございます!
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どんなスキルが貰えるんだろう。まぁ、一回だけなら大したもの貰えないだろうけど。
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〈ベーススキル《攻撃力増加》〉
[スキルを解放しますか?]
《はい/いいえ》
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今更攻撃力が微増加しても意味なんて無さそうだけど、とりあえず解放しておくか。
称号の解放も終わったので、スマホを見ながら目的地を目指していると、
ドン。
「あ、すみません」
「……こ、こちらこそす、すみません!!!」
水色の髪。
サラサラしていて、腰まで伸びていて。
作り物かと思うぐらいに綺麗な髪だ。そして、作り物みたいに綺麗な肌だ。
どこかの実験施設から抜け出したみたいな白のワンピース。
カッカッカッ、とアスファルト上を彼女は走っていく。その後ろ姿をひたすら見ていた。
「お前も分かったのか!?」
「ん?何が?」
「アイツはモンスターだ!」
「あ、ちょ、ちょっと街ではボリューム抑えて?大丈夫?」
「アイツはモンスターだ!」その声で多くの人がこちらの様子を見る。
元気なのは良いし、アルダードのそういう面には助けられてるんだけど、街の中ではちょっと控えてほしいかなぁ……出来ないなら良いけど。
「分かった。どうやってここまでやってきたのかは知らないが、抜け出してきたみたいだな」
「へぇ。そんな事もあるんだな」
「冒険者に使役されていたのか、それとも自力で逃げ出したのか、どちらにしてもシステムには必ず穴がある。もはやダンジョンをメンテナンスをしている者もAIだ」
「え?自分で自分の管理してんの?なら逃げられて当然じゃない?」
「もちろん逃げられないようにはなっているぞ。ただ、何事にも例外はあるからな」
逃げ出しちゃったんだ。
そんな事が出来て大丈夫なのか?冒険者は街の中でもスキルが使える。
なので、冒険者による事件というのも時たま起こってしまうのだ。
その理屈で言うと、モンスターも街の中でスキルを使えるはずなのだ。
モンスターが街の中でスキルを使って、住民のみんなが苦しむような事になったら大変なのだ!!
どうしたらいいのだ!!とか思いながら、本来の目的である待ち合わせ場所を探す。
『西今日喫茶』という名前の喫茶店。喫茶室になど入った事がない……しかし、これも大人への一歩だと考えればそれも良かろう。
「君!あの、羽山くんー!」
角を曲がった所で、人に話しかけられる。
その声の主はさっきも聞いたメイルさんだ。どうして俺よりも先に辿り着いているのだ。
「遅れたすみません。待たせちゃいましたね」
「君ってまだ転移覚えてないんでしょ?ならしょうがないね」
「転移ってそんなに便利なんですねー」
重たい鎧を脱いだメイルさんは、冒険者らしく目立つ格好をしていた。
お姫様か!といいたくなるほどにキラキラした真っ赤なドレスを着て街を歩く彼女は、社交会(俺は行ったことない)から街の中に転移してしまった人みたいだった。
まぁ、とにかく浮いていた。この場所に相応しくない格好だ。
てか、あの重装備を着ていた人がキラキラのドレスを着ているとは。闘技場の王ってこの姿も含めての王?
「それじゃあ行きましょう?私の行きつけの喫茶店です」
「あ、はい。すみませんありがとうございます」
「なんで謝るの?ハハ!」
「いやいや、ははは」
「明日選挙なんだっけ?忙しい時に呼び出しちゃってごめんね」
「僕がやる事は特にないみたいなので、全く問題ないですね」
さっきまでとはうって変わって明るい雰囲気のメイルさん。というかなんだ。この胸のトキメキは。女子と一緒に、ほぼ二人で一緒にデートしているような物だな。
ここに宇宙の存在を見つける。それは、僕の胸の鼓動の事だ。うるせー。
席に着いてから俺はオレンジジュースを頼んだ。その様子を見て少し意外そうにするメイルさん。
喫茶店に来ておいてなんだが、俺はコーヒーが好きじゃない。
もっと言えば俺はカフェインが好きじゃない。
自分の身体にカフェインが適していない事や、カフェインによって異常な状態になってしまう事を理解しているから、俺は健康の為にオレンジジュースを飲むのだった。
ただ、その習慣はもう辞めても良いのかもしれないな。まぁ、好きじゃないのは本当だから別に良いんだけど。
「うーん。なんで優れた冒険者って変わり者ばっかりなんだろうね。君ってトリガーラッキーちゃんの事務所でしょ?彼女と話した事はある?」
「あぁ、あります。逆にメイルさんは?」
「私はないよ。でも一応後輩だからさ。後、もう私は単なる傍観者でしかないから。もうスターを画面越しにただ見ているみたいな気持ちでしかないよね」
「へぇ……」
「で、君との相談?というか話はその事に付いてなんだけど大丈夫そ?」
俺はそれなりの返事をする。会ったこともないトリガーラッキーさんに関わる話でどんな相談が?まさか、サインか?
「私もその事務所に入れてくれない?ファンだからさ」
「…………」
頭がショート寸前だ。メイルさんの綺麗な金髪と、死んでいたはずの澄んだ瞳が自分の視界の中心にポツンと存在していたから?
それはやっぱり宇宙だ、そしてそれは運命だった。と、気色悪い僕は思いました。
○○
冒険者になってからA級までの道のりに一切の問題は無かった。
正確には違うけど、とにかく私はまるでロケットにでも乗っているみたいに簡単に空へと飛んだ。
しかし、S級冒険者。彼らにまともな人達は誰もいない。
常に五個しか用意されていないS級の椅子に座れる人間はみんな異常者だった。
召喚獣を数百も使役し、一度に数十も召喚する人。
睨むだけでモンスターを殺せる人。
ただひたすらに強い、身長が五メートルある化け物。
ありとあらゆるスキルが使用できる人。
身体を水や風に変えられる人。
化け物以外には強力なベーススキルがあった。それは、普通の人間じゃ取れないような異常な解放条件で得られる異常であるという称号。
そもそも勝てるはずがない。
どれだけ冒険者として強く、どれだけ冒険者として見込みがあったとしても、そもそもが普通の人間ならどうしようもない、そんな現実が辛くて、私は闘技場に逃げた。
ここには普通の人しかいない。
普通の人の中では一番強い私は、闘技場の王になった。
それにももう飽きたから、私はもう一度冒険者に戻ろう。
異常者達が、また新しい異常者に淘汰されるところを最前線で見に行こう。
私は彼らに何もされてないけど、私の憎しみはこのままじゃ晴れないから。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!
ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!よろしくお願いします!
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