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第20話 天才天才天才

 

 控え室に戻ると、みんなから変な目線を向けられる。

 どんな気持ちで俺を見ているんだろう。

 なんか、訝しげというか、眉をひそめるというか、睨んでいるというか、とにかくよく分からない表情を俺に向けている。


「ねぇ、君」


 話しかけられるなら前からだろうと思っていたが、俺は背後から話しかけられる。

 俺の後ろにいるのは、さっき戦ったメイルだ。


「はいはい」

「F級って嘘でしょ。だって、召喚獣を使役してるんだからさ」

「いや、本当にF級です。冒険者にもなったばかりで」

「そう。じゃあ、君にはこの場所は似合わないよ。だってね」


 メイルさんは兜を脱ぎながら、背後から俺の前へと歩いていく。

 まるで全員の、この場所にいる、闘技場にいる冒険者全員の思いを代わりに告げるかのような感じで、俺に向き直る。


「だってここは。夢に負けた人達が集まる場所なんだから」

「え?」

「これ以上成長する見込みのない冒険者達の集まり。私もそうだよ、落ちこぼれ」


 俺は、闘技場の事をよく知らない。

 だから、ここにいる冒険者がみんな落ちこぼれだ。という話は初めて聞いたし、そんな事を思う要素はない。

 あれだけの実力があって落ちこぼれか。なら、本当の落ちこぼれはどんな事を思えばいい?


「万年A級。万年B級。万年C級。そんな冒険者は自然とダンジョンに行く事をやめる。それでも人気がなくなっていくのは悲しいから、ここでささやかな歓声を浴びて、自分が冒険者であるという事を誇りに思う」

「そうだ!!お前みたいな天才が来ていい場所じゃないだ!!」

「私たちも分かってるのよ。老いていく身体と、ダメになっていく私と、新しく出てくる新星の冒険者。それは、私たちには考えもつかないような、信じられないような方法でドンドンと上へ上へと昇級していく」

「腐っていくみたいなんだ!ここは!ここにいると自堕落に、地獄に堕ちていくのが分かるんだ!」

「いつまでもこんな生活続くんだ。そんな事を思いながら生きているの」


 複雑だなぁ、とか思いつつも、そんな事を俺に言ってどうすんだという気持ちになる。

 そもそも論冒険者になれないのが当たり前なんだ。それがマジョリティとかいうやつなんや。

 さらにその中で優劣があり、出来ない奴が出来ないまま死んでいく。それは始まる前から分かっているはず。

 それなのにこんな所で管巻いて、ウダウダ言いながら生きているのは、自分の採寸を未だに間違えているからだろう。

 最初のダンジョンで適当にモンスター狩ってるだけで普通の人の給料以上は稼げるやん。なんやねんコイツら。

 健人は今までの自分の生活を思い出して謎の怒りが湧き出してくる。謎の関西弁も出てくる、関東出身なのに。


「あの、闘技場って闘うの一回だけですか?」

「え?今その話?」

「はい。僕はお邪魔みたいなので、もう無いなら帰った方が良いのかなぁって思いまして」

「……普通は連戦なんて出来ねーんだよ!!オマエ!また天才な所見せやがって!!」

「……」


 ダル。

 天才天才天才、天才にしか負けないと思ってるのか?

 凡人相手だったら楽勝だ、凡人相手だったら簡単に勝てると思い込んで、自分が敵わないものに天才とかいう謎の称号を付け、凡人ではなく天才に負けたと言い訳し続けるつもりか?

 というか、メイルさんはどこだメイルさんは。

 最初に話していたはずの相手の姿が見えなくなってしまっていて、今はこの場にいる全員対俺で会話をしている。


「あの、僕は天才じゃないですよ」

「は!?お前はどう考えても天才だろ!!」

「僕は、僕はただ」


 俺はなんだ?

 俺がどうしてこんなに冒険者に向いている理由はなんだ?

 一つ分かりやすいのは、健康である事。しかし、それすらも天才だと言われてしまうなら、何を持って自分を凡人だとすれば良いんだろうか。


「俺は、俺はただ運が良いだけですから」

「はぁ!?これ以上俺たちを煽ってどうするつもりだってんだよ!!」

「運命ですよ。その宿命みたいなものを、それぞれの人間がどうやって受け入れていくのかも含めて、きっと全部運命ですよ。なので」


 なので?

 俺は、なのでの後に何を言おうとしているんだ?

 大丈夫なのか?この場の空気に飲み込まれて適当な事を言っても。


「なので!なのでなんだよ!」

「全部運命なので、諦めて受け入れてください」


 なにトリガーラッキーみたいな事言ってんだろ。

 それを言った後、みんなの表情から力が抜けて、自分の無力さに打ちひしがれているようだった。

 もしかして問題か?俺って性格が悪いのかもしれん。

 いや、冒険者になると人は性格が悪くなるのか?どうでも良いが、自分に明らかな変化が起こっている事を理解する。

そんな事を言った後、メイルさんが現れ、俺に話しかける。


「ねぇ、この後時間はあるの?」

「あ、俺ですか?」

「試合中にも聞いたでしょ?二人でお茶行かない?予定がないならね」

「なるほど」


 試合を長引かせる為の作戦だ、ってアルダードは言っていたけど、本当にお茶に行きたかっただけだった可能性が出てきた。

 今日は一日闘技場で終わる予定だったから、幸いにも予定は普通に空いている。というか、それを理解して俺を誘っているんだろう。


「まぁ、僕も予定は無いんで。お茶ぐらいなら大丈夫だと思います」

「そう。なら、入り口でまた再開しましょ?みんなにも貴方の事を知ってもらう必要があるみたいだし」

「へ?」

「このまま険悪なままだと色々と面倒だろうからさ。本当にアンタがS級に成れるっていうなら、仲良くしといた方が得でしょ?」


 そういえば、メイルさんはアナウンスかなんかで闘技場の王みたいに言われていたような気がする。うん。

 うーーん、なんかもう考えるのは辞めよう。よくわからないし。

 そう思った俺はひとまずこの控え室から抜け出す。視線が痛い。はぁ、なんであんな上から目線的な事言っちゃったんだろ。

 誰かに影響されているのは間違いけど、影響されるほど一緒にいたような記憶はない。

 そもそもアーローさんがトリガーラッキーさんに影響されているみたいだし、俺はトリガーラッキーに影響されたのではなく、トリガーラッキーに影響されたアーローさんに影響されたのだろう。


 影響影響影響。

 どうでも良い事を考えながら、闘技場の廊下を歩いていた。


 ○○


 私がここに居た理由。

 退屈な日常と、悲惨な環境と、苦しむ対戦相手を許容して私がここに居た理由は、きっと誰かと一緒に居たかったからだ。

 将来有望な冒険者として有名になって、トントン拍子でA級まで進めた私の前にあった巨大すぎる壁。

 S級という壁を乗り越える事が出来なかった私の周りからは人がドンドンと居なくなっていった。

 疑心暗鬼になって、一緒にパーティーを組んでダンジョンに行ってくれていた仲間も信じられなくなって、それで、どこでも良いから冒険者として認めてほしくなった。


 その結果、闘技場に辿り着いて、ここで王って祭り上げられて、それで楽しかった。

 それでも良いんだと思う。そのままでも良かったんだと思う。だけど。

 私は他人が苦しんでいる姿が苦手だった。対戦相手に、闘技場のど真ん中で、惨めに命乞いをされると、その記憶が頭をリフレインして、何度も何度もグルグルと回って、眠れなくなって、でも、この生活を止めるのは辛くて。

 向いてなかったんだ。そもそも。


 無機質なモンスターを相手にする生活に戻ろう。そっちの方が、私は沢山のお金が稼げるだろうし、精神も安定するはずだ。


 冒険者としてダンジョンに戻ろう。




読んでいただきありがとうございました!!

何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!

ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!よろしくお願いします!


ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!

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