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第19話 持久戦してたら帰れコールされた

 

 コロッセオのような丸い形をした闘技場の真ん中。

 数千人、いや、もしかしたら数万人の観客の前。

 さっき鳴ったゴング。俺に向かって突き進んでくる『敵』

 戦闘が始まったと同時に俺はガードをする。

 そこに敵の鮮やかな剣の連撃が入った。

 俺の体力はほとんど減らないが、しかし、相手もMPなどを使っている様子はない。

 スキルとかではない剣技だ。


「最初は様子見?良いけど、そのままじゃジリ貧……リジェネか」

「そう。攻撃するなら勝手にして良いよ」

「面白い戦い方だね。いいね!」


 相手は懐に入り込んで、俺のハンマーを絡めとるように指に右手を触れてくる。

 それによって手からハンマーが落っこちてしまい、ガードの体制が崩れてしまった。


「【直撃(ストライク)】!」


 俺の喉を目掛けて放たれた全力の突きには疾風が纏われていて、その衝撃により後方へと吹き飛ばされた。

 スキルだ。相手にMPを使わせられたのは良かったが、あまりにも実力差がありすぎる。

 一気に3000も減った体力と、地味に動揺し始めた俺。

 これはやばいな。

 そんな事を思っている間にも、重装備に似合わないようなスピードで飛ばされた俺に向かって進んでくる。

 剣先は他でもない俺を突き刺している。

 ホントに刺されたら痛そうだ。

 はぁ、なるほどな。

 体制を整えた俺は、スキルを使った。


「【鉄人化(スティール)】!」


 すると全身が鉄のように、いや鉄以上に硬化して、全くの身動きが取れなくなる。真っ黒な肉体は、この場所でも全ての色を吸収した。

 ふぅ、とりあえず、体力が回復するまではこの状態を保つだけだ。


「なに!?」

「……」

「よく分からないけどガードはもう出来ないんでしょ!?【直撃する狼牙(ウルフストライク)】!」


 敵がそういうと、俺の目の前に狼の姿が飛び出してくる。それは、さっきの【直撃(ストライク)】と一緒になって俺を攻撃した。


 ガン!ガン!

 と中身の詰まった物に勢いよく攻撃した音が闘技場に聞こえる。狼とメイルの2回攻撃。

 だが、俺が喰らったダメージはゼロ。

 これはそういう能力だ。この状態の俺に勝つ事は出来ない。


「なにそれ……ふーん」


 そして、この状態の俺は喋れない。

 申し訳ないが、このままメイルが油断するまでこの状態を解除する事はないのだ。

 やっぱりクソ強いな、このスキル。


「面白いね。面白いけど!いつまで待たせるつもりなの!?体力はもう全部回復してるでしょ!?」


 会話とか出来たらもっと便利なんだけど、中々どうしてそれは上手くいかない。

 メイルさんは重装備に纏われていて顔が見えない。

 けれども、声の感じからして怒っているという事は分かる。はぁ……怖。

 終わってからこの業界を干されてしまうみたいな事もあり得るのだろうか?

 無駄だと理解しつつも、何度も剣を俺に打ち込んでくる。

 正気を失いつつある。このままいけば色々と俺が有利になるだけだ。

 しかし、いつまでも俺に対して関心を持っているせいで、まだまだこのスキルを、【鉄人化(スティール)】を解除する事は出来ない。

 しばらく、しばらくそんな時間が流れている。と、観客は退屈に思うのだろう。


「おい!!俺たちはなにを見せられてんだよ!!」

「ふざけんな!!早くスキルを解除しろ!!」


 観客からそんな声が上がってきた。

 その時に俺は、明日の選挙の事が頭をよぎった。

 ここで変なヘイトを貯めるのは得策ではないような気がする。だって、選挙って人気投票みたいなものだろうし。

 どうしようか少し考えたが、別に落選してもこっちの知ったこっちゃない。

 それよりかは目の前の勝負の方が個人的には大事だ。

 そもそも俺は冒険者になった事自体が本来無かったはずの出来事なんだから、その上で何をしようが俺の勝手……

 いやぁ、でも、一応S級冒険者を目指してもいる訳だからな。どうしよ。とりあえずもうちょっと我慢してみるか。


「おい!いい加減にしろ!」

「そんなにつまらない試合をするなら帰れ!失格にしろー!」

「そうだそうだ!帰れ!帰れ!」

「「帰れ!帰れ!」」


 ぐはっ!これは効く。ヤバい……今更解除もしづらくなってきちゃったよ。

 でも、このままで行く訳には……なんか、体調悪くなってきたな。ここで解除したら普通に負けちゃいそう。

 解除したい気持ちと、解除したくない気持ちが戦って、結果としてそのままの状況が続いている。

 メイルさんも攻撃を止め、ただただ俺を見ている。

 ここがチャンスだと思っているんだろう。ここで俺が【鉄人化(スティール)】を解除するのを待っている。

 帰れコールは止まない。うーん、やっぱり冒険者止めようかなぁ。でも、【健康第一】解放しちゃったから、他に人生の目標がない。


「黙れ!!!」


 何事!?

 この広い会場全体に響くほどの大声は、俺だけでなくてあらゆる人の時間を止めた。

 完全な空白と、立ち尽くす俺たち。

 この声は、アルダード?


「お前たちに一体何が分かると言うのだ!!この男、羽山健人は勝とうとしている!それの何が間違っているのだ!!」


 やっぱりアルダードだった。

 そして、沈黙の中でさらに言葉を続ける。みんなその声の主が分からなくて困惑している様子だ。

 俺は、ひとまず【鉄人化(スティール)】を解除した。

 そして、自分の鎧の中に入れておいたスマホを高く掲げる。


「彼は!この男は必ずS級冒険者となる!!今まで見た事があるか!?こんな男を!こんなに勝ちに貪欲な人間はこれまでこの会場に一人でも居たか!?」


 俺はスマホを掲げたまま、【召喚】を発動した。

 数十メートルの巨人が、犬の顔をして炎を全身に纏った巨人が闘技場に召喚される。

 観客はザワザワと騒ぎ始める。メイルさんですら、戦闘中であるにも関わらず、ただただその巨人を眺めていた。

 その隙に俺はハンマーを拾っておいた。もう離さないようにしないと。


「そして!この羽山健人!!彼には明日選挙がある!!まだF級冒険者であるにも関わらず!我を使役した羽山健人!普通ではない!理解出来ないかもしれないが!彼ならば必ず冒険者として大成する事が出来るはずだ!!」


 そう言い終わると、アルダードは上空に思いっきり火を噴き出した。

 それをやる意味は分からなかったが、それが終わると観客から大きな歓声が上がる。指笛のような、ヒューー!という音も聞こえてくる。


「ねぇ、いい加減にしてよ」

「え?」


 メイルさんが話しかけてくる。

 確かにこの状況はアレか。あまりにも意味が分からないか。

 きっと怒られるんだろうなぁ、とか思いながらその時を待っていると、思ったよりも軽い反応が来た。


「普通じゃなさすぎ。なにそれ」

「まぁ、すみませんね。全然ここの常識とか分からなくて」

「戦う気無くなっちゃった。でも、降参するのは癇に障るしさ」

「はいはい」

「これが終わったらお茶でも行かない?予定とかは?」

「さぁ」

「オイ!!我もずっとこうしていられる訳ではないのだ!相手の口車に乗せられるのは止めろ」

「……」

「そうやって我の召喚時間を無駄に使おうとしていたのだろう。だが、それは無駄だ。短時間で決めるぞ健人。二人なら余裕だ」


 時間を使う為の会話だったのか。

 それにしては堂々とした姿勢と発音だったけど、結局はよく分からんな。


「行くぞ!まずは我からだ!」


 アルダードが自らに纏っていた火を炎の棒に変化させる。そして、それを持って勢いよく突進して行った。

 なので、俺も遅れを取らないように敵の所へと走っていく。


 ガン!


 アルダードの重たい一撃をガードする事で精一杯のメイルに、思いっきりスキルを叩き込む。

 今ある最高火力。いうて大したもんじゃないけど。


「【破壊(デストロイ)】!!」


 俺は持っていたハンマーを空中にぶん投げる。

 ハンマーの大きさが数倍、五倍ほどに大きくなり、俺の手元へと戻ってくる。

 それを持って、思いっきりメイルに叩き付ける。スキルを発動すると、身体が勝手に動いた。


「そんなんで!!こんなんで終わると思って……」


 その隙に、アルダードは変な踊りをしていた。炎の棒をグルグルと回したり、ドスンドスンドタンドタンと音を立てながらステップを踏んだり。

 ダメージ的には大した事なかっただろうけど、相手の注目を集める事は出来た。

 大きなハンマーにしか目がいかなかったはずだ。


「喰らえ!灼き消せ!【地獄の業火(ファイヤーダンス)】!!」


 その言葉の後、アルダードの口から業火が吐き出される。

 それをモロに喰らったメイルさんは、鎧の中でホイル焼きになっていたのだ。生きてはいる。


「しょ、勝者!!羽山健人!!」


 闘技場に歓声が満ちる。

 さっきまでのアレはなんだったんだ。



読んでいただきありがとうございました!!

何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!

ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!よろしくお願いします!


ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!

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