第17話 カジノ協会
「我はアルダードだ!この羽山健人という男と死闘を繰り広げ!その実力の元に屈し!敬意を表し!こうして今はこの男の召喚獣として使役されている!それは我の誇りだ!彼は、羽山健人は必ず未来のこの国を引っ張っていく冒険者である!羽山健人!羽山健人だ!」
街頭演説と聞いて怖気付いていたが、アルダードが思ったよりも数倍上手く演説するのを聞いていて、逆に面白くなってきてしまった。
よく即興でそんな事を言えるもんだな。それとも、モンスターにはそういうプログラムも入ってるんだろうか?
だとしたらどんなプログラミングなんだ、とは思うけど。
俺は路上で変な台の上に立たされていた。しかし、ARでこの場に映し出される巨大なアルダードは過剰な身振り手振りと共に人を集める。
情熱の火属性。やっぱりこういうのは火属性が向いているのかもしれない。
俺は来てくれた人にぼんやりと手を振っている。
出来るだけ目を合わせるようにアーローさんにも言われたので、そこだけは注意しながら手を振っていた。
「今度のE級冒険者へ昇級する為の選挙では、羽山健人と投票していただきたい!我はイフリートのアルダードだ!」
「えー、アルダード様の応援演説でございましたー。それではご本人様から、意気込みの方をよろしくお願いします」
アルダードのせいで目の前には山のような聴衆が出来てしまった。はぁ、なんだこれ?何をしてるんだ俺は。
「えー、ご紹介預かりました羽山健人です」
「……もっと大きな声でお願いします……マイクがあっても聞き取れませんよ?」
「えー!!ご紹介預かりました!!羽山健人です!!」
そこからの記憶はない。
俺にしか聞こえない音が耳元で聞こえてくる。
俺は、それを思いっきり胸から出すような声で喋り続ける。
もうもはや恥ずかしいなんてレベルを超えて、顔面から火が吹き出していたが、全てを忘れて頑張りました。
俺の演説はそこそこ人の心を掴めたようで、周りに集まった聴衆から拍手が聞こえて来た時に、頭が真っ白になってビビった。
今まで【健康第一】を気にし続けてきたせいで、こういう精神的な動揺がありそうな出来事っていうのは気合いで避け続けてきたんだけど、やってみると案外気持ち良くて気持ち悪い。
もう二度とやりたくないな、そんな気持ちで車の中に戻る。
「意外とお上手でしたね」
「はぁ、これってみんなやってるの?」
「知らないんですか?駅前とかで良くやってるじゃないですか」
「いやぁ、選挙って言っても色々あるじゃん。どれがどれだか分からなくて」
「本当に興味無かったんですね。どうしてそんなに毛嫌いしてるんですか?冒険者を」
「いや、どうしてだろう?」
答えは簡単で、健康の為だった。
ああいうキラキラしている人を見ていると心が動揺して、憧れておかしな行動を取ったりする。
そうならないように平穏に暮らしてきた。
それは間違いなく正解だったが、これから先も正解であり続けるかどうかは分からない。
羽山健人の暮らしは平坦だった。
いつも刺激から逃げ、人付き合いから逃げ、不安定から逃げ、出来ない事から逃げ、色々な物事から逃げ。
逃げていた結果がこれであると考えれば、それは正解だったと言えるが、これから先も逃げ続けられるとは限らない。
健康で居続けられる状態になってしまった健人は、もう何からも逃げられないのであった。
「それにしても、本当に良かったんですかね?」
「え?」
「トリガーラッキーさん曰く、このままが良いらしかったのでそのままにしちゃいましたけど、今からでも考えますか?」
「え?何をですか?なんの話?」
「名前です。私たちの名前って分かりやすくなっているじゃないですか。それは、結局選挙の為なんですよ」
「あぁ……なるほど」
「羽山健人って書いてくれますかね?もっと誰にでも分かる、覚えやすくて、分かりやすくて、親しみが持てるような名前にした方が」
「アーローさんってなんでその名前なんですか?」
「私は……私は、ただ決められただけです。弓を使うからアローをもじった名前が分かりやすいだろうという事で、ただそれだけです」
「へぇ」
俺は、やっぱり俺はこの名前のままでもいいかな。別に自分の名前嫌いじゃないし、それに、もう自分の冒険者ネームは羽山健人であるという認識をしてしまっている。
「投票は来週なので、それまでは事務作業などしてましょう?休みも作らないといけないので」
「休み?あるんだ」
「私たちが怒られちゃいますからね。ただ、冒険者は休まないですけど」
「てことは俺も?」
「書類です。お疲れ様です」
そういえば転職した割に手続き少ないな、とは思ってたわ。
なるほどね。まだ全然終わってなかったのね?
やってすらなかったから少なかったのか。
「で、何をすれば良いんですか?」
「それは事務所で話します。お給料なども出ると思うので、そこは楽しみにしておいてください」
「あぁ、そっか。そろそろか」
「そうですね。忙しくて忘れてるかもしれませんが」
「冒険者って給料制なんだね」
「はい。ですが、冒険者で手に入れたお金はほとんど貴方の物ですよ。一部貰ってますけど」
「あ、後でどっかに振り込むって事?」
「いや、冒険で手に入れたお金の一部は自動的に事務所や国に引かれています。なので、そこに関してはご心配なく」
そうだったのか。
なんかよく分からないけど、よく分からないな。うん。
○○
「やめてください!!」
「おい!お嬢ちゃん!こっちおいでよ!」
目の前に繰り広げられているくだらないお芝居。
本当の苦痛はそんなもんじゃない。辛いっていうのはそんな表情をする事じゃない。
この生活に苦しめられている私は、どうしても全てが茶番にしか見えなかった。
はぁ、くだらないな。そんな事を思う事で、明日の試合に備えていた。
いつまでこんな生活を続けるつもりなんだろ。闘技場で戦い続けるこんな生活を。
○○
そこから俺は数日間、ただひたすらに書類を提出していた。もはやどこに提出しているのかも分からなかったが、とにかくそんな事をしていた。ちなみに一度も眠らなかった。
明後日は投票らしい。
その前日。つまりは明日。休みを貰えた俺は闘技場とやらに行く事にした。
というか行けと言われた。
変に選挙活動をするよりも、冒険者としての腕を見せた方がいい。らしい。
俺は、休みの日にも仕事をする事になってしまった。
そんな事を思いながら、目的地に辿り着いた俺は車から降りた。
「ちゃんと失礼のないようにお願いしますよ?」
「はい、カジノ協会の会長さんだっけ?」
「はい。名前はブラックです。ブラックジャックでボロ勝ちした事があるそうですよ」
「へぇ」
「という事は分かりますか?将来のトリガーラッキーさんです。なので最低限迷惑かけないようにしてくださいね」
「どうして?」
「カジノ協会の会長は、カジノで目覚ましい成果を上げた人が選ばれるんです。そういう事ですね」
俺がここに来ていた理由。それは、票をもらう為だった。
どうやらトリガーラッキーはカジノ協会との繋がりがあるらしく、協会員の票はこの事務所に投票されるとかなんとか。
政治のドロドロに巻き込まれている。ヤバい。
アーローさん曰くどの事務所もやっているそうだが、だとすると夢も希望も、ってやつだな。
「ようこそ、私のアジトへ」
そう言って出迎えてくれたのは、ディーラーの姿をした水色のサラサラの長い髪を持つ背が高くてスタイルの良い女性だった。足細。
顔立ちはキリッとしている。もしイカサマなんかしたら裏に連れて行かれて拷問されそうだ。怖い印象もある。
「とりあえず挨拶してください」
「あ、よろしくお願いします。羽山健人です」
「後は私たちが話しておきますから、横で邪魔せずに聞いててくださいね?」
「羽山健人。めずらしい名前だね」
ブラックさんは俺にウインクをしてきた。その時、恋しそうで危なかった。しなかったけど。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!
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