第14話 アルダード
思ったよりも夜空は綺麗だ。
抜け出した世界。囚われの身と、空洞のダンジョン。
忘れられていた遺跡に、一人のAI。
私の存在はまるでオモチャだ。ここでもそうだと思う。
王子様に見えたあの人は、きっと悪い人だと思う。
それでも私はあの人を信じる。自由になれたから。
水の心と同じ彼女の髪はヒラヒラ風に揺られた。
生きているという実感が彼女をバグらせた。
○○
アルダードとの戦いは、やっぱり思ったよりも長くなった。俺はただひたすらにガードを続けて、隙を見つけては攻撃をする。
その隙を見て、アルダードは持っている炎の棒を振り下ろしてくる。
しかし、その動作は単調で、決まったコマンドで動いているように見える。
見切ってしまえば、後はもう簡単だ。プログラムで決められた攻撃を避けるのは難しい事じゃない。
「このままだと勝利はお前の物となりそうだな」
「そうだね」
「それならば!少しだけ本気を出させてもらうとしようか!短期決戦とされてもらう!【焔】!」
アルダードはそういうと全身にまとっていた炎の勢いを強めた。まるで巨大な炎の巨人が歩いているみたいだ。
持っていた炎の棒は肉体と一体化する。それによって、羽衣のような火がアルダードの周りで浮かぶ。
「いいか!!行くぞ!」
「……申し訳ないけど、俺は健康が一番大事だからさ」
「は!?何を!」
明らかに今までよりも大量のMPを消費している。あの状態をずっと保っている事なんて出来るはずがない。
つまりは、時間が経てば勝手に終わる。
さっき手に入れたスキルでもう終わりだ。
「【鉄人化】!」
俺の肉体から自由が奪われていく。
まるで金縛りみたいに動けなくなった身体は、どこまでも真っ黒で、全ての色を吸収していた。あらゆる物を受け入れていた。
「お、お前!何だそれ!」
「……」
これ、コレ喋れもしないのかよ。
本当に俺以外の冒険者にとっては不要なスキルなんだろうな。うん。
そもそも、あんなにガードする人いないか。後で称号の欄から何時間ガードしてたのか確かめよ。
焔の巨人は、鉄人化した彼に拳を振り下ろした。しかし、ダメージは一切通らない。効かない。
「またか!オイ!なんとか言え!」
申し訳ないが、この状態だと喋れないんだ。
単なるおもちゃになってしまった俺は、この状態をただただ眺める事にした。
辛いが、別にさっきと変わらない。なんだったら、さっきの方が大変だった。いつ攻撃してくるか分からなかったし。
後はアルダードが纏っている炎が消えるのを待つだけ。消えたら俺は【鉄人化】を解いて、攻撃をするだけ。
それだけで、俺は絶対に勝てる。焦る必要はない。どうせコレが終わってもまた冒険だ。
「あぁぁ!!もう!!うざったいなぁ!お前は!!やっぱり辞めてやろうか!?それを辞めなければ召喚獣にならんぞ!良いのか!?」
「……」
「なんだ!喋れんのか!?喋れないのか!?聞こえてはいるのか!?どうだ!」
「……」
「なんなんだ!はあぁ!!ムカつく!」
喋れない。
なんだっけ?アトラス?それになった事によって、性格も激化していそうだ。
まぁ、イライラするのもしょうがない。そもそも俺は絶対に勝つ為にやってるんだから、妥協は許されない。
もしかしたら俺は冒険者に向いているのかもしれない。
だって、まだ初めてちょっとしか経ってないのに、謎のプロ意識と忍耐力を見せているわけだから。
「分かった。もう、もう辞めるから早く決着を付けてくれ」
根負けしたアルダードがアトラス状態から元々の姿に戻る。それを見た俺も【鉄人化】を解き、また攻撃をし始めた。
「あの状態の時喋れないみたいだ。無視したみたいで申し訳ないね」
「そんな事は気にしていない。むしろ、本当にお前に使役されて良いのかが不安になってしまった」
「というと?」
「これから先、お前のその茶番みたいな戦闘に付き合わなければならないというのは、中々不安だ」
どういう形で召喚獣になってくれるのか分からないけど、暇だろうなぁ。
横でただただ動かない俺と、それが終わるのを待つモンスター。
「どうやって使役すれば良い?」
「とりあえずお前が我を倒すのだ。その後に我の方からお前に仲間になりたいという意志を告げる。その時に仲間にしてくれれば、それでもう完了だ」
「意外と簡単」
もはや抵抗すらしてこなくなったアルダードに微妙な攻撃をビシビシと当てていく。
途中で業を煮やしたアルダードは、自分で自分を攻撃し始め、結果としてこの戦闘は終わった。
すると、スマホに連絡がやってくる。
『イフリートが仲間になりたい、と声を掛けてきました。モンスターを使役しますか?』
________________
[モンスターを仲間にしますか?]
《はい/いいえ》
________________
今更しない理由もないので、とりあえず《はい》を押してみる。
すると、さっきまで瀕死だったアルダードが立ち上がり
「ふん!我にどうしろと言うのだ!」
という言葉を吐き、青色の球体になって俺のスマホの中へと入ってきた。
さっきまでとちょっと雰囲気違うし、決められた台詞なのか?
『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
おそらく召喚獣にまつわる称号をもらって、また新しいスキルを手に入れる事が出来たみたいだ。
こんなに沢山の称号をもらえるのも、きっと今だけなんだろうな。
戦闘が終了して、大量の経験値と熟練度をもらう。
それによってレベルは3も上がり、新しいスキルも手に入れたが、攻撃スキルだったので使う機会はなさそうだ。
それに、《火神の杖》という謎のアイテムもドロップしていたので、それがなんなのか、効果などを確認しようとした時
ピコンッ!
スマホに連絡がきた。きっと、外で俺を待っているアーローさんとララーさんだろう。
流石に待たせすぎた。まぁ、仕方がないが。
そうだと勝手に思い込んで、アプリを開くと
『おい。成功したぞ。どうだ?様子は』
その連絡はアルダードから来ていた。え、あぁ、そういう感じか。
召喚獣っていうから、俺が召喚したい時にだけ現れるのかと思ったら、俺のスマホの中に入り込むって事か?
これってそれだけなのか?なんかいきなりすぎて色々と整理できてない。
『これから頼む。健人』
あぁ、ボーッとしてる場合じゃない。連絡返さないと。
『こちらこそよろしくお願いします』
……いやぁ、これめんどくさいぞー。これから定期的に連絡が来るのか?その度に俺は返さないといけないんだろうか?
色々と確認しないといけない事が沢山ありすぎる。
もしかしたら明日も俺は冒険に出る予定があるのかもしれないけど、今日も多分寝れないな。
俺が手に入れた称号の事、召喚獣の事、他にも細々とした冒険者にまつわる色々な事。
どうしたら良いのかは分からないけど、ひとまず帰ろうかな。
『おい、通話モードに変えてくれ!』
『え?』
『文字を打つよりも喋った方がお前にとって楽だろう』
そう言われたのでアルダードとの会話を通話に切り替える。
「よし、このまま行こうか」
「え?通話にしたまま?」
「その方が話しやすいだろ」
もうなんでも良いわ!
そんな思いを抱えたままボスの部屋から抜け出す。扉の前に二人は居なかった。
もう帰ってしまっている。だから、俺は自力で帰らないといけない。
ここから転移の間までどれくらいの距離があるのかは分からないが、とにかくもう疲れた。
肉体じゃなくて心が疲れた。
羽山健人は、今日という日がいつ終わったのかも理解していないまま一人で歩く。
道中の敵であっても油断する事なく、ガードをしながら戦う事を忘れていなかった。
まだまだ疲れていない。
リジェネによって疲れなくなった。
例え冒険者でなかったとしても、何をやっても成功していただろう。健康であり続ける以上に大事な事はない。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!
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