第12話 “世界はダンジョンと共に”
うーん。この世界って本当に退屈だ。
冒険なんて単なるプログラムでしかないし、心が湧くような出来事も無くなってしまった。
ここでは次に目指すべき目標がないし、だからといって今から別の仕事をする訳にもいかない。
そう考えてみると、人生とはなんぞや?
プログラムのモンスターが、野生で、自由に生きていたり、無残に死体になったりする世界は、もしかしたら面白いかもしれない。
誰かが作ったプログラムの自然なモンスター達を、僕たちがいる人工の社会に放り込めば、それは僕たちが一番最初に冒険に抱いた湧き上がるような『楽しさ』を誰しもがもう一度抱ける世界になるだろう。
どこまでも広い部屋の中で、空虚な飾りに作られた雰囲気に浸った冒険者は、世界に革命を起こす事を考えていた。
今の冒険は積極的で能動的な人の娯楽だ。
明日が不安で苦しい生活であれば、どれだけ消極的で受動的な人であったとしても冒険を楽しめる。
あらゆる人を巻き込んだ混乱の渦ーー
さて、今日もプログラムのモンスターと戦いますか。
○○
スマホから、ピコンッ!という音が聞こえてくる。なんだ?また新しい称号が解放されたのか?
『スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
そんな音声は、イフリートにも聞こえたようで、ガードをし続けている俺と、俺に飽きて自分の作業を始めていたアイツの二人の空間に少しのザワつきが生まれる。
「ん?何事だ?」
「称号獲得?なんだろ?」
「まさか、貴様、確認するつもりじゃないだろうな。おい」
「ガードしないとだからなぁ」
「というか、一体いつになったらお前は攻撃してくるのだ。さっきからチョコチョコ隙を見せてやってるのに」
「うーん、やっぱり炎があるから」
「そんな事を言ってられるのも今のうちにだぞ。なぜなら、お前の額に付いているソレ。ソレはもうすぐ効果がなくなるはずだ」
あぁ、そっか。
そういえばコレが付いているお陰で地面からのダメージを受けなくても済んでるんだった。
いつまでも自分から動かずに、健康の事だけを気にしていたが、そんな事を言っていられるようでもなくなって来た。
地面に脈のように、ドクドクと蠢いているマグマ。
扉の中は人工の自然のようになっており、ミニチュアの火山もそこにはある。しかし、室内だ。
明かりは床や壁を流れるマグマ。それによって照らされるこの空間には癒されるような空気も流れている。
石の天井にはイフリートが描いた下手くそな落書き。おそらく自画像だが、立体感がなくて子供みたいな絵。
さっきまで持っていた炎の棒も、今では地上に横たわるような感じになっている。お互いがこの戦闘にまともに向き合う事を辞めてしまっている。
「……あれ?なんで教えてくれたの?」
「なんだ?」
「この額の。言わない方が有利だったはずだけど」
「それはだな……交渉がしたいんだが、一つ、話を聞いて貰えるか?」
「え?」
いきなりイフリートから現実的な話をされて困る。
交渉ってなんだ?確かにこのままこの状況で居続けるのはお互いにとってどう考えても良くない。
俺はリジェネがあるから疲れる事なんてない。
しかし、コイツにとってこの空間は家みたいな物だ。そう考えると、リラックスをする事はそこまで難しくないはず。
家に害虫が入ってきた程度に思っているかもしれない。最初はビビったけど、見逃しちゃって諦める。
この空間の考察が出来るほど、俺は癒されている。リラックスしている。心は落ち着いている。平穏、平安。
「お前、俺を召喚獣にしないか?」
「え?なにそれ?」
「知らないのか?ん?お前、冒険者……あぁ、そうか。三日目とか言っていたか?」
「なんかすみません。で、なんですか?召喚獣って」
「お前が俺を使役する。すると、本来は死ぬはずだった俺がお前の元で生き続けられるという事だ」
「ふーん」
「俺が死んでも新たなイフリートがこの場所で、俺みたいな口調でまた現れる。それはプログラムによって設計されているんだ」
プログラム?プログラミング?
何かそういうゲームのようなシステムによって、このモンスター達は生活をしているのだろうか。
生まれた時からずっとこんな世界だったから当たり前に思っていたけど、冷静に考えると無限にモンスターが出てくるのっておかしいよな。
「あの、正直あんまりこの世界の事詳しくないんだけど、どうしてモンスターっているの?」
「教えてやろう。それはこの世界の暗闇だ。少なくとも、我らにとっては地獄の闇だ」
○○
この世界にダンジョンがある理由。それは、誰かがダンジョンをプログラミングで作ったから。
そして、その中で生きているみたいに動いているモンスター達は、もはや生き物と大差ないAl。
仮想世界における建物を、現実世界にもそっくりそのまま建てられる技術が生まれた事によって、建築や設計は非常に簡単になった。
そんな中でとある小さな小さな企業が自分達の私有地にゲームのような世界を作り、そこで遊べるサービスを開始させた。
最初は小さかったその企業も、段々と大きくなっていく。それによって、ダンジョンもどんどんと数を増やしていき、広さもどんどんと大きくなっていった。
技術は一方通行。
生まれたダンジョンを壊す為の技術もないままに、数だけ沢山量産してしまった事により、広い世界自体がゲームのようになってしまい、結果、冒険者という職業が生まれた。
世界はそれに合わせて作り替えられる。割れた鏡が戻らないように、世界はダンジョンと共に。
○○
「というわけだ」
「なんでそんなに詳しいの?誰に教わった?」
「元々はアトラクションだったからな。初期設定にガイドの機能が付いている。それに、我々のような上級モンスターは一部の情報へアクセス出来るようになっているのだ」
「へぇ、そうだったんだ」
「お前達は教わってないのか」
そんなの初めて聞いたな。
ダンジョンは元々この世界にずっとあって、スキルとかステータスとかも当たり前にあったから、特に違和感なく受け入れてた。
「スキルとかステータスもサービスの一環?」
「世界がダンジョンに飲み込まれたんだ。あくまでもダンジョンの中だけのスキルやステータスが、外の世界まで漏れ出してしまった」
「へぇ」
「仮想世界の物を現実に移せた事によって、現実世界にはない物を仮想の世界で作り、その技術で現実に移していく事も出来るようになった。お前達もモンスターの肉を食べるだろう?アレは元々は単なるデータだ」
「そうなの?それにしては随分美味しいけど」
「単なるタンパク質」
それって健康的にどうなんだろう。
こんな時にも健康の事を考え始めた健人にとって、未だに一番大事なのは健康だ。
彼がこの事を知らなかったのは、この世界がこの形に変化したのが数十年も前の事だったから。
取り返しのつかない失敗は、もはや失敗ではない。なぜなら、それが標準になっていくから。
「AIって事は、俺ってロボットと話してるの?」
「AIにも生命は宿る」
「そうなんだ。そういえばそんなニュースやってたな」
「死ぬまでここから出られない。しかし、もしお前が我を使役してくれるのであれば、我はここから抜け出す事が出来る」
「ふーん、でもなぁ」
「そんな事を言っていられるのは今の内だ」
その言葉の意味が分からなくて困惑していると、地面がいきなり熱くなって、体力が削られてしまうようになった。
なるほど、もう本当に効果が切れちゃったんだな。
となると、今まで通りずっとガードしてれば良いってわけでもなさそうだ。
「どうする!!イフリートと!我を召喚獣として迎える気はあるか!!」
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!
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(今のところ設定だけしか書けてないですが、もう一つ作品を更新しています……もしよろしければ作者マイページの方から調べてみてください……)