第11話 【健康第一】
さてさて。私は私で忙しいので。
落第冒険者の死体を持ち帰り、彼らにかかっていた懸賞金を頂く。
普通にモンスターを狩るよりも、こうした冒険者を報告して行った方が信頼が高まるので、これが一番効率的です。
S級冒険者に必要なものは実力だけではない。国から正式に承認を受ける必要と、国民から支持を受ける必要がある。
そんな彼らの椅子は常に五人分と決まっている。誰かが死んだら誰かをその椅子に座らせなければならない。
どうでしょうかね、あの子は。
どうしてだが分かりませんが、私の人生にとって、冒険者を極める道の上に必要なのは分かりましたが、どうして必要なのかは私にも分かりません。
複雑なスキルですね。《運命》。
○○
目の前にいた巨大な巨大な人間は全身に火を纏っていた。数十メートルはあんのかな?
顔が犬みたいになってるけど、体毛がなくて目がギョロ付いている。なんか怖め。
本当に勝てるのか、実際の敵を目の当たりにすると少し不安は増したが、さっきの冒険中に新しく覚えたスキル。
それを使えばこんな戦闘はなんとでもなりそうだ。
「何者だお前は!」
「あぁ、羽山です。はじめまして」
「そういう事を聞きたいのではない!分かれ!」
「あの、すみません、良いですか?」
そう言って俺はハンマーを構えた。こういうボス級のモンスターって普通に喋ってくるから、早いとこ倒しちゃった方が色々と楽だ。
「なんだなんだ!いきなり戦闘か!」
「よろしくお願いします」
「それなら良いだろう!私も本気を出そう!」
目の前の巨人は自らにまとわせていた火の一部を変化させて、右手でそれを握った。炎の棒だ。
コレを喰らったらひとたまりも無さそうだな。
一応、俺も戦術的な事は考えている。まずは相手がどのような攻撃をしてくるのかを見る為に全ての攻撃をガードで耐える。
この部屋に入った時にMPは全回復している。
相手の攻撃が一通り終わった後にコッチも反撃体制に入らせてもらう。
「なんだ!いきなりガードか!臆病者め!」
そう言って振り下ろしてきた炎の棒をデカゴブリンの時と同じようにガードする。
ダメージはリジェネの回復数を少しだけ上回ったが、連続で攻撃をしてくる様子もないので、俺が不利になる事はおそらくない。
しかし、スキルの威力が見れるまでは油断出来ない。なにがあるか分からない。
「おいおい!なんだその回復能力は!なら、オマエに業火をお見舞いしてやる!」
「どうも」
さて。どれだけの威力があるのか見ものだな。まぁ、ガードもしているし一度で死ぬ事はないだろう。
それからイフリートは俺の前で変な踊りを踊り始めた。
炎の棒を身体の横やら上やらでグルグル回したり、床をドスンドスンドスンと鳴らしてステップを踏んだり。
南国のファイヤーダンスみたいになってるな。それやんないと発動出来ないの?
「喰らえ!【地獄の業火】!」
踊りが一通り終わると、イフリートは口から思いっきり俺に向かって火を噴き始めた。それは確かに俺にまで届き、焼けるような熱さに包まれる。
「あっつ!!ガード意味ねーじゃん!」
「どうだ!喰らったか!」
「喰らった!」
喰らってしまった。そうだ。
考えてみれば当たり前だ。ガードの体制を取ってみたところで、炎の熱さは防げない。
思いっきりダメージを喰らってしまった……と思い込んでいたが、体力は2000しか減っていない。
それに、もう既に《リジェネ》は始まっている、体力はドンドン回復していく。
健人にとって痛みはまだ慣れていない物だった。だから、軽減されていたダメージにも過剰に反応してしまったのだ。
「ごめん、やっぱ喰らってないわ」
「なに!?」
「もうすぐ全快するよ」
「や、火傷はどうした!火傷にはならなかったのか!?」
敵なのに心配してくれている。もしかして、コイツ、良い奴か?
「心配ありがとう。でも、火傷にもなってない」
「なんだと!ファイヤーダンスを喰らって火傷を負わないだなんて……」
「えー……あ、そういえば俺《状態異常耐性》付いてたな」
「な、なんだって!」
目を広げて大きなリアクションをするイフリート。どっちにしろ良い奴っぽい。
しかし、使えないと思っていた《状態異常耐性》がこんな形で役に立つとは。
そりゃそうか、冒険者としては喉から手が出るほど欲しいようなスキルか。
「またガードか!良い加減攻撃して来い!お前の実力を見せてみろ!」
「ふーん」
「冒険者としてのプライドはないのか!血がタギル、肉がオドル、骨がフルエル!!それが真剣勝負だろ!そうだろう!?」
「俺は冒険者になってまだ三日ぐらいだからさ。そういう矜持みたいなのって分からないんだよ」
「み、三日!?それは流石に盛ってるだろ!?」
「それぐらいだけどね。本当に」
「三日……三日で我の所まできた馬鹿は今までいないぞ!なんだ?遅咲きなのか?ずっと訓練はしてたけど事情があって冒険者資格を取るのが遅れたとかなのか?」
「いやいや、そうじゃないけど」
「なに!!?じゃあ、天才?」
「天才でもない」
「じゃあなんだ!お前はなんなんだ!」
モンスターってこんなに喋る?デリビーも良く喋ってたけど、ここまでスラスラ喋ってはなかったような気がする。
情が移るからやめてほしい。モンスターって生き物?
でも、もう一回ここに来たら、もう一回このイフリートに会えるはずだし、もう一回あの洞窟に行けば、もう一回デリビーに会えるはず。
それとも、あの時のあのデカゴブリンとは違う、別のデリビーに会う事になるのかしら?
「なんなんだ!って聞いているだろう!なんだ!」
「攻撃してこないの?ガードしてるんだけど」
「良いから答えろ!天才じゃないならなんだ!」
俺は天才じゃない。ただ、ただ単純に健康なだけ。
そっか、戦場に於いて健康であるって事は、すなわち無敵って事か。
「俺は、ただただ健康なだけだよ」
「なんだそりゃ!」
両手を上げて、空を見上げながらツッコミをするイフリート。ほとんど人間だな。人間よりも人間だな。
モンスターには意識があり、それぞれが色々な事を考えながら生きている。
用意されたみたいに、必ず同じ場所で、同じボスとして振る舞う彼らにも、少しの、一メートルとちょっとの魂があった。
それを理解出来る者でなければ冒険者には向いてない。そういう意味で言うと、羽山健人は誰よりも冒険者に向いている。
常識よりも自分の価値観を優先する彼は、自分の物差しで世界を測る。
「良いから攻撃してこい!来なければこちらからもしないぞ!?」
「良いよ。根比べは得意だし」
「良いのか?三日でも四日でも待つぞ!?」
「良いよ」
「良いわけあるか!!!そんな事やってられるか!!」
やっぱり火属性だけあって情熱的で元気だな。逆に言うとちょっとウザい。
めちゃくちゃ大きな事を言ってみたけど、でも、ホントの事を言うと数日間も戦いたくない。早いとこ終わらせない。
今日も寝てない。寝てなくても大丈夫だけど、でもなんとなく寝て起きたい。
一度寝て、朝になったらまた起きたい。そんな日常はもう帰ってこないのか?
ガードの最中は相手の攻撃を待つだけだ。なので、自然と暇になり色々な事を考えるようになる。
それほど片手間であっても、自分よりも数段格上の相手と戦える。
冒険者にとって一番大事なのは、健康である事。
【健康第一】を大事にしてきた彼にとって、冒険者とは簡単な仕事だった。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!
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