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第10話 イフリート

 

 家に帰った時はもう朝だった。

 ダンジョンの外に出てきた時には夜明けが来ていて、長い戦闘があったんだなぁ、と思った。

 秘書のアーローさんは終わっても連絡をしてこない。こちらから連絡しようか迷ったが、また面倒事に付き合わされると面倒なのでやめた。

 しかし疲れてはなかったので、昨日だから一昨日だかに渡されたトレーニングメニューをこなしてから布団に入った。やれって言われた事はやるタイプだ。

 そう思いながら布団の中でスマホをいじっていると、アーローさんから連絡がきてしまった。

 なんなんだ、一体。面倒だと思いながら電話を取る。


「おはようございます。今日もまた冒険です」

「……あの、今日寝れてないんですけど」

「大丈夫ですよ。リジェネがあるんで」

「いや、でも」

「じゃあ、体調はどうなんですか?悪いんですか?」


 ……体調は悪くないような気がしたが、一応念の為【自己診断(メンテナンス)】のスキルを使ってみる。

 すると…………どこにも悪い所はなかった。普段なら徹夜とかすると疲労困憊という表示が出るのに、それすら出ていない。

 ヤバいスキルだ。ずっと回復し続けるって事は、疲れないって事なのか?


「まぁ、一応、元気です」

「なら良かったですけど……そもそも、どうして私に連絡してくれなかったんですか?ちゃんと事務所に連絡してくれないと、事後処理が面倒なんですけど」

「あぁ、それは、そっか。すみません」

「まぁ、あの規模であれば無かった事にしても良いので、問題はないんですけどね」

「えぇー。報告は?」

「バレなきゃ良いんです」


 本当にまともな仕事じゃないんだなぁ、冒険者って。


「今日も今日とて冒険ですね。他にするべき事もないでしょう?」

「というか、前の仕事ってどうなってるんですかね?まだ引き継ぎの為の作業とかしてないんですけど」

「私達の事務所の方で代わりの人間を送っております。そちらの心配はいりませんよ?」


 社長からも、柏木からも全然連絡が来なかったので、仕事をサボっても問題がないのは分かっていた。

 でも、そんな事やっぱりいきなり過ぎて全てがよくわからない。なんなんだ一体。


「とりあえず今向かってるので。身だしなみでも整えておいてください。あ、朝ご飯は私が持っていく物を食べてもらうので勝手には食べないでくださいよ?」

「いやぁ、でも、賞味期限とか……」

「代わりに食べときます。それでは少々お待ちを」


 今日も冒険かぁ。

 別に疲れてないのに行きたくないと思うこの気持ちはなんだ?

 それにしてもリジェネって恐ろしい能力なんだなぁ。俺ってこれから先一切眠らなくても良いのかな?

 そんな話聞いた事ないけどな。だって、ずっと回復してもらってたら似たような事出来るはずだ。

 それならどっかのブラック企業が社員を回復させ続けて無理やり働かせる、みたいなのが問題になっていてもおかしくない。

 なんなんだろ?リジェネって。


 リジェネは数値が出るステータスだけでなく、潜在的なステータスすらも回復させている。

 それによって疲れを知る事もなく、いつまでも動き続ける事が出来る。

 誰もが羨むのにはそのような事情もあった。


 それから身だしなみを整えていると、玄関がまたピンポンと鳴った。

 そこまで向かうと、そこには前と同じアーローさんと、仕立て屋のララーさんがいた。

 前と同じようにウェイターのような格好をしている。なんか仕事着ってええな。


「おはようございます。それでは行きましょうか」

「え、や」

「知ってますー。聞きたいんですね〜?私がここに居るり・ゆ・う?」

「は、はぁ」


 り・ゆ・う?だってさ。そんな風に言う人初めて見たわ。

 流石に浮世離れしすぎじゃないか?冒険者界隈。どうなっとんねん。

 いつか俺もこんな風になるのか凄く心配だった。社会人経験がないとやっぱおかしくなるんすかね。


「それではですね。【転移(テレポート)】!」


 さてさて、次はどんな……あっついな、なんか、暑くない?暑い、暑い、熱い!!


 健人が辿り着いた場所は、灼熱の火山だった。今もなお噴火している山が遠くの方にいくつも見える。

 この場所の気温は50を簡単に超えてしまっていて、地獄のように暑い、熱い。

 地面に毛細血管のように伸びているマグマの道。それらは避けようにも避けられない。


「いや!あの!熱いんですけど!」

「回復してるから良いじゃないですか。ちゃんとバランス取れてますよ?」

「いや!なんでそんな平気そうなんですか?なんかあります!?対策!?」

「はい」


 対策があるなら先に言ってくれ!回復しているとはいえ熱いもんは熱いんだ!

 出来るだけ地面に足を付けないようにバタバタしていると、アーローさんがカバンからアイテムを取り出した。なんだろ?貼るタイプのカイロみたいな、やつ。

 というか、風邪引いた時に額に付けるやつ。


「コレを額に貼ってください。すると大丈夫になります」

「なんですかコレ」

「ヒンヤリーンです。付けると冷えます」


 変な名前のそれを額にピタッみたいな感じで貼り付けると、頭の先から足の先まで全身がヒンヤリとしてきた。

 謎の技術だ。さっきまで熱い熱いと思っていたマグマの上でも何一つ問題なく歩けている。


「今回のボスは火属性のモンスターです。知ってます?イフリートって」

「あ、名前だけ」

「そうですか。全身に灼熱を纏っているのでこんなもんじゃ効かないと思いますし、火傷状態になっちゃうとリジェネも打ち消されちゃうと思うんですけど、それでも頑張ってやってみてください」


 なんだか他人事だ。

 健人は道中のマグマみたいなスライムとかを倒しながら、噴火してマグマが垂れてきている火山を登っていく。

 その道中仕立て屋のララーは『ハンマー使い』という役職の戦闘方法を興味深い目で見ていた。

 こんなにマイナーな職業を選ぶ冒険者などいないので、見る機会が中々なかった。


「あ、そういえば」

「はい?」

「アーローさんって職業なんなんですか?」

「私は『射貫く者(ロックオン)』です」

「なんか、聞いた事ないですね」

「上位職なので」

「弓の?」

「はい」


 ふーん、なんか、今更だけど俺ってあんまり冒険者に興味なかったんだな。

 小学生ぐらいの時は見てたけど、受験やらやらやら健康やらの事が気になり出してからは外界との接触をなるだけ絶っていたような記憶がある。

 テレビとか動画とかって面白くて眠れなくなる事もあるからって避けて生きていたけど、でも、それももう終わりだ。

 風邪のスキル解放には次がないし、あとはどれだけ不健康に生きていたとしてもなんでも良い。てか、なんなら風邪引いてみたい。


「本当に冒険者興味無かったんですね。なるのを渋ってるって聞いて驚いたんですけど、それだけ無関心なら仕方ないですね」

「まぁ、色々捨ててきたんで」

「はい?」

「あぁ〜見てくださ〜い。もうこの先はボスですよ〜」

「え?はや」


 そう言われて正面を見てみると、火山には似つかわしくないような人工の大きな石の扉がそこにあって、俺たちの侵入をなにかが拒もうとしている。

 それにしてもリジェネがあると冒険が楽ちんだな。

 レベルも上がりっぱなしだし、体力が増える度に回復量は増えるし、そもそも一度のレベルアップで体力が200とか一気に増えるのヤバい。それ以外はほとんど上がらないけど。

 ついさっきも《体力増加・改》みたいなベーススキルとったし、体力どうなったんだろ?見てみるか。


 ________________


【体力:7050/7050】

【魔力:120/300】

【状態:リジェネ】

 ________________


 もう七千も体力あるよ。一回で百とか回復するから増えてるのは知ってたんだけど、こんなにとは。

 それに、一秒に二回ぐらい能力が発動するからじっとしてれば直ぐに全快する。ヤバい。


「それでは行ってらっしゃいませ〜。私たちは画面で見てますよ〜」

「あ、一人で」

「もちろんです。行ってらっしゃいませ」


 そうして俺は石の扉に手をかけた。後ろから、アーローさんの「長くなるのかなぁ」という声とため息をつく音聞こえてきた。

 ホントだよ。長くなるのかなぁ。

 急にめんどくさくなってきたが、扉を両手で押してその先へと向かった。


読んでいただきありがとうございました!!

何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!

ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!よろしくお願いします!

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