第9話 友情
友情。今、俺とこのデカゴブリンの間に芽生え始めているそれの名前は、友情だ。
「お前、名前は何だ?」
「俺?俺は健人。羽山健人」
「そうか、面倒な名前だな」
「じゃあお前の名前は?」
「デリビーだ。覚えておいてくれ」
戦い過ぎて頭がバカになりそうな気持ち。
ダンジョンのボスや、ある程度能力のあるモンスターが喋る事は知っていたが、こんなにちゃんと喋ってくれるとは思ってなかった。
ここまできたら倒さない、って選択肢はないんだろうけど、うーん、こんなに良いやつって知ってたら倒しに来なかったんだけどな。
でも、ここまでやって経験値ももらえないまま帰るわけにはいかないし、相手はどうせモンスターだ。
「家族が居るんだよ。その為に戦わないといけないんだ」
「……」
「関係ない話だったな。オマエとオレは敵同士だ」
そんな話をされて、俺はどんな事を思えばいいんだ。
面倒だ。
普通に理性なんてない化け物っていう訳ではないんだな、ボスクラスになると。
思いっきり振りかざした棍棒と、その言葉で、終わりは近いと分かった。MPはまだ回復しない。俺は慣れてきたハンマーを持ちながら懐に入り込み、数発デリビーに叩き込んだ。
思った通り、今までのような反応ではなく、デリビーは後ろへとのけぞりながら倒れた。
「あ、ありがとな」
感謝をされた。俺はその言葉を噛み締めるように聞いた。
戦闘終了を告げるように、俺のレベルがグングンと上がる。戦うまで5レベルだった俺は、今では10。
これだけの経験値を貰えたのは、デカゴブリンが戦闘中に強くなってくれたからだろう。ありがたや。
それに、ゴブリンが持ってたお金も俺の元にやってきた。20000グルぐらいはありそうだ。コレで美味しい物でも食べよう。
とりあえずは電子マネー化しちゃった方が楽かな?
お金をカメラで撮影して、電子マネーに変換する。18600グルも貰えた。
さっきまでの冒険の分も合わせると、日給23000グルぐらいだ。
普通に貰いすぎだ。まだ最初のダンジョンなのに。
「ん?何だコレ」
俺の目の前にはデリビーが持っていた棍棒が落ちていた。それを拾い上げて、アイテム確認をすると、なんとハンマーに分類されるドロップ品である事が分かった。
《デカゴブリンの棍棒》
今の、どこからか出てきたのか分からないハンマーよりも数倍強いので、それを持つ事にする。まぁ、形見だしちゃんと使ってあげよう。
一人でダンジョンから出て行く。その道中で、彼は自らが冒険者になったという事を自覚し始めた。
スマホに移された現金を眺めながら歩く彼の頭の片隅には、デリビーと名乗ったデカゴブリンの事があった。
(家族かぁ。俺には彼女とか居ないからよく分かんねーや)そんな風に、考えながら、今回の旅は終わった。
○○
アルミアさまは歩いていく。その行先は分からない。
俺はただただ着いていく事しか出来ないんだ。もうお腹が空いて倒れそうだ。
「アルミアさま、どうしましょうか……これから」
「どこかに冒険者でも居ないかしら?カツアゲしてご飯でも巻き上げたいね」
「もう夜中ですよ?」
「バカ。カツアゲなんてしないよ。そこにツッコミなさいよ」
「すみません……」
深夜の森の中をコソコソ歩いている。俺の名前は、ルルミド。そして、俺の後ろを歩くのはシシル。
俺たちが落第冒険者になってしまった理由は非常に簡単で、本来討伐してはいけないモンスターをミスって討伐してしまった事が理由だ。
この世界には再出現しないモンスターがいるなんて知らなかった。そんな事を言われた記憶がない。
捕まりたくないという一心で、こんな生活をしているが、こんな事になるぐらいだったら最初の方に捕まっておけば良かった。
ホントにカツアゲでもしてやりたいな。それぐらいじゃないと生活が最悪なんだけど、アルミアさまはそれを許してくれない。
「お、あそこに冒険者が居るよ?見てみなよ」
「ん?本当ですね、アルミアさま」
「物々交換出来るかもしれないから、話しかけてみようか」
「ですね」
こうして、ダンジョンにいる冒険者に無作為に話しかけて、お金やアイテムと引き換えにご飯を貰うような生活をずっと続けている。たまにバレて怒られる事もあるが、なんとか普通に生活していた。
「一人で何してんだろうね。なんだかややこしい服を着ているけど」
「なんか、アレですね。スチームパンクみたいな格好の」
「拳銃を持ってるって事はアレだね。金持ちだね」
「それに、凄い巨乳……」
「バカタレ!そんなバカみたいな事言ってんじゃないよ!」
アルミアさまも巨乳だけど、あの子も巨乳だ。話しかけるのが楽しみになってきたな、あわよくば仲良くな……
パン。
パン?その音が聞こえたと思ったら、俺の後ろに居たシシルが頭から血を流して倒れた。おそらく死んでいる。
「シシル!おい!どうしちまったんだい!」
「あの、アイツです!あの子!」
その次にパン。
するとアルミアさんが苦しそうにしながら、紫に変色しながら倒れてしまった。
……俺は逃げる事に決めた。俺たちはバレてる。それで、なぜか殺されそうになっている。
しかし、逃げ出そうとした俺に向かってアイツは話しかけてくる。冷や汗が止まらない。
「落第冒険者なので。残念でしたね」
「お、おい!やめろ!」
「犯罪じゃないので。S級になる為には必要な犠牲なんですよね〜」
突きつけられた拳銃に思考が止まる。その引き金を引く瞬間が、俺にはスローモーションに見えた。
「運命ですね。それ以外にないので」
白くなる視界の中で、そんな声が聞こえてきた。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!