第8話 戦い方
私も忙しいので。
空中にいる大きなコウモリに対して発砲をし続けながら、スマホで秘書のアーローと連絡を取る。どうして私は一人なんでしょうね。
『勝てそうですよ。ただ、長いです』
『しょうがないので。だってそういう運命ですので』
『それにしても長いです。もう手伝っちゃってもいいですかね?』
『どうせしませんよ。そういう運命なので』
「オイオーーイ!俺は片手間で十分ってか!?ちゃんと戦え!」
面倒ですねー。
尽きる運命であるならば、黙って散ってほしいのですが、ダメなんですかね?
「もうすぐ終わるので」
「先にお前が終わる……【吸血
パンッ。
トリガーラッキーは懐からまた別の銃を引っ張り出す。
マグナムのような見た目の割にはオモチャの音が聞こえた。その銃の弾が当たったコウモリは、雄叫びを上げながら紫に変色していく。
「【毒弾】」
地上へと落ちてジタバタとするコウモリ。やっぱりすぐに終わったので。
先に進みながら連絡を続ける。アーローもアーローで堪え性がない人ですねー。
誰も知らないみたいですけど、この先にある巨大な宝石を持って帰ればS級に近づくようなので、さっさと取って帰る事にしますかね。
○○
いつまで経ってもデカゴブリンの体力は無くならない。もう何回殴ったのか覚えてないわ。
もはやスキルを使う気力もなく、ただただハンマーを振り下ろして打ちつけるだけの攻撃をし続けている。
【重装備】を使うほどのMPもないけど、これだけ長時間戦闘していると、相手の攻撃パターンは大体分かる。
ゴブリンなんて単細胞なんだから、振り下ろすか、横に殴りつける以外の攻撃がない。それをただ避けるだけ。
「もう諦めてくれ……」
「諦めるかー!オマエこそ諦めろ!」
「はぁ……疲れてないはずなのにスゲェ疲れた」
疲労は片っ端から取り除かれていき、疲れはどこかへと吹っ飛んでしまっている。非常に元気で健康体だ。
それなのに、同じような作業を続ける事に対しての飽き、で心が疲れてしまっている。終わりはいつかはあるんだろうけど、一体いつになるんだ。
デカゴブリンはこんな身なりの癖に、自分で自分を回復する魔法を覚えている。MPが尽きるのはいつになるんだろうか?
「まだMPある?もうない?」
「……」
「無さそう?ならやっぱり諦めてよぉ……」
「諦めるかー!」
そのひたむきさは別の用途に使ってくれ。こんなくだらない戦闘で発揮するような物じゃない。
冒険者になって初めての戦闘だったいうのに、もうすでにこの仕事に飽き飽きしている。
「まだ終わりそうにないでしょうか?」
「ないですねー。もし、気になるなら手伝います?」
「いや良いです」
何度も何度も見た振り下ろす攻撃をヒラリと避けながら、慣れないハンマーで反撃する。
それは芯の部分に当たるような事もないまま、グニャグニャの攻撃で小突かれたほどの痛みしか与えていない。
コレを何度も繰り返していたせいで、ハンマーの熟練度がドンドンと上がっているのを感じる。
冒険者には、武器や魔法を使うと上昇する熟練度という値がある。
それによってベーススキルが解放されたり、攻撃スキルが解放される事などもあるが、一番の目的は上位職への移行だ。
『ハンマー使い』の上位職はまだ知られていない。なぜなら、子供の頃からの夢を『ハンマー使い』とかいうよく分からない職業に託すような人はいないからだ。
仕立て屋でも、『ハンマー使い』が適してるという判断は中々出ない。出たとしてもそれを避けてしまう人は非常に多い。
同じようにまた振り下ろされた棍棒を、前と同じように避け……ドガンッ!
さっきまでは避けられていた攻撃が避けられなくなってしまった。一体なんだ?随分と早く見えたけど、何かあったか?
「ウォー!強くなった気がするぞ!」
「……確かに」
「何度も何度もやってたら上手くなってきた!」
意外とヤバいのかもしれない。そっか、あまりにも長く戦い過ぎると、相手が強くなるみたいな事もあり得るんだ。
俺はこれ以上のダメージを防ぐ為に、もう一度ガードをする。コレはいつになったら終わるんだろうか?
「あの!私もう帰りますから!死んだら連絡がくるように設定しておくので!」
「え!帰っちゃうんですか!?」
「瀕死になったらまた戻ってきます!勝ったら一人で帰って来れますよね?」
「まぁ、えでも……」
「余所見すんな!」
ガードをしているところにデカゴブリンの攻撃が襲い掛かる。喰らったダメージは数秒で直ぐに回復した。
どうやっても俺の勝ちは決まっているような物だけど、いきなり強くなっちゃったりとかしたらどうするか。
うーん、デカい一撃をバーンッとやっちゃいたいんだけど、そんな技は覚えてないし、MPもほとんどない。
こうし続けるしかないかなぁ。ダルいなぁ。
秘書のアーローはもう帰ってしまった。デカゴブリンは自らの限界を超えて、新しい力を手に入れた。健人はいつまでもリジェネをし続ける。
アリのようだった。潰しても潰してもいくらでも巣穴から出てくるアリを相手にしているようだった。
攻撃はちゃんと届いている。ただ、届いても無意味だった。
「まだやるの?どうなの?」
「強くなったからな。行けるぞ」
「そっか」
はぁ……もう体力は全快した。
どれだけ長くなるのかは分からないけど、どうせ勝てるんなら勝つまで頑張るか。
MP回復する薬でも買ってきてくれてたらもっと簡単だったのに。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!