第5話 仕立て屋のララー
仕立て屋に行くと、中からメガネをかけたウェイターのような格好をしたお姉さんが居た。
水色のシャツと黄色の制服で目立つような格好をしたこの人は、人懐っこいような印象を覚える。
「いらっしゃいませ〜」
「こんにちは、今日はこの人の仕立てをお願いしたいのですよろしいでしょうか?手続きはもうしてあると思うのですが」
「もちろんですよ〜、それじゃあキミ?コッチに来てね〜」
「あ、はい。それでは、よろしくお願いします」
「私はララーで〜す。アナタは?」
「私の名前は羽山健人です。あの、いちお、名刺とか」
「いらないですね〜」
なんだか緩い雰囲気の人だな。
仕立て屋の内装は照明でキラキラしていて、お洒落な空気が漂っている。
俺には馴染めなさそうな場所だ……こういう都会の都会っぽい場所はストレスを感じるから苦手だ。
こういう場所って俺じゃないんだよな。俺である必要がない感じがして気まずい。
「緊張しないでくださ〜い。見れば分かりますよ〜」
「あ、分かりますか?」
「試着室に入りましょ?」
そう言われたので俺は試着室に入る。二人でも入れるほどのスペースはあるが、それでもほとんど密室のこの場所で女性と一緒にいるのは、ヤバイ。
「分かりますよ〜。それでは、身体の『サイズ』を測らせていただきますね〜」
そういった彼女の身体が俺に触れる。うわぁ、ちょっといきなりなんだ?いきなり緊張してきた、別の意味でこの場所にストレスを感じるようになった。
「服、肌着だけになれます〜?出来れば下着だけの姿で〜」
「あ、……はい、分かりました」
下着だけってズボンも脱ぐって事?採寸するのにそれって必要なのか?
俺は二人だけの空間で下着だけになるのを躊躇っていたが、もう分かったと言ってしまったので、そうした。
恥ずかしい……マズイ、心拍数がおかしくなりそうだ。
このままじゃおかしくなる、けど、でも、健康関係のスキルってあれで打ち止めだし、別にそれでも良いのか?うーん……いや、でも、健康第一だ。
「私の事はお気になさらず〜」
うん。めちゃくちゃ当たっとるけどあんまり気にしないようにしよう。悟りを開かないと色々と不味い。
そんな不味い状況を汗だくになりながらやり過ごすと、タオルを渡されて、試着室に一人残された。
いやぁ、本当にダメだ。健康に良くない、風邪引いちゃいそうだ。
全身の汗をタオルで拭きながら、さっきの経験を噛み締める。うーん、こういうのも久しぶりだな、ドキドキしないように生きてたからこんな気持ちも新鮮だ。
「どうも。お疲れ様でした」
「あ、まだ居てくれたんですね」
「はい、秘書なので」
「秘書、え、ラッキーさんの秘書じゃないんですか?」
「兼務です。ただ、貴方のサポートに専念出来るような体制にする為、トリガーラッキーさんの秘書は辞める事になると思います。そこは大丈夫なので」
秘書って、いつのまに秘書になったんだ?
冒険者になってまだ全然経ってないのに、こんなに早く秘書が付く事になるなんて凄いな。
行動力というか、色々と決断するのが早いな。そもそも俺がリジェネを手に入れてから一週間も経ってなくないか?
どんな人生だ。どうなっちゃうんだこれから。
「それではこちらへどうぞ〜」
採寸はもうしたけど、これから先何をされるんだろう?そもそも勢いで来ただけで何をするのかが分からん。
仕立て屋って名前は聞いた事あるけど、冒険者の為のお店だから縁がないんだよな。聞いてみようか。
「あの、すみません」
「はい〜」
「僕あんまり知らずに来てしまったんですけど、仕立て屋とはどのようなお店なんですか?」
「はい〜。仕立て屋とはですね」
前を向いて歩いていた彼女……名前聞いてないじゃん。その人が俺の顔に顔を近づける。やっぱりヤバい、マズイ、てか、普通に好きになっちゃいそう。近すぎて好き。
好きだ……はぁ、どうしよ。
この動揺はどうしてか?俺はこれまで健康第一でした。それが答えです。
「アナタの職業を探す場所ですね〜。それに適した武具防具もですね」
「へぇー、今ので分かるんですか?」
「はい、分かりましたので、こちらをご覧ください」
そう言って彼女が指差したのは、お店に飾ってある大きなディスプレイだった。
そこに載っているのは、俺の体格や身長や所持スキルなどなど。《リジェネ》という文字。謎に俺を惹きつける。
「リジェネ〜?凄いですね〜」
「あ、ありがとうございます」
「このスキルは体力の数パーセントを乱数で回復する能力なので、体力が増える職業がいいですね〜」
「なるほど」
「タンクですかね?でも、戦闘経験もないんですね」
昔の昔にお遊びでした事はあるけど、そんなの経験に入れたらいけないんだろうな。誰でもやってるし。
「戦闘経験がないなら〜、いっそ誰もやってない職業にしてみます?」
「え?」
「アナタが一番適してると出ているのは『ハンマー使い』です。なのでそれが一番適してるみたいですね」
「『ハンマー使い』?」
「でも、誰も使ってないので上位も解放されてないんですよ。これはただただ体力が増えるだけの職業なので」
ハンマー?今までそんな武器使ってる冒険者見た事ないけど、そんな武器で戦えるのかな?
「それでお願いします。私は秘書です」
「え?勝手に!?俺の意志は!?」
「それでは分かりました〜。アナタの職業を『ハンマー使い』にしますね〜」
そう言われた俺はララーさんに謎の部屋へと連れてかれる。その部屋は、全面ガラス張りになっていて、中から外にいるアーローとララーが見える。なんだ?
それからしばらく待っていると、青白い光に包まれて、さっきまで着ていた服が光となって消えていった。
「あ、あの!これ服は?!」
向こうにいるララーさんは片手でオッケーサインを作っている。大丈夫なのか?
心配になりながらもしばらく待っていると、全身にズシっと重たい感覚がのし掛かる。いきなりだったので倒れてしまいそうになったが、グッと堪える。ふぅー!重い!
「お疲れ様で〜す。それではこちらにどうぞ〜」
「……重たい、いきなりだ。全部いきなり」
「ん?なんでしょうか?」
「いえ!なんでもないです!」
鎧を着る事になるなら最初っからそう言ってくれ。
あまりにも重たすぎるので自分をもう少し確かめてみると、背中に大きなハンマーを背負っていた。いやぁ、これを使って戦うのかぁ。
「ステータス見てみます?体力が増えてるはずなんですけど」
「はぁ、はぁ」
「こちらのディスプレイにある通りですね〜」
ディスプレイを見てみると、そこには俺の新しいステータスが載っていた。
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【体力:4260/4260】
【魔力:230/230】
【状態:リジェネ】
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体力めっちゃ増えてるやん。確か2000台ぐらいだったはずなんだけど、二千も増えてる。ただ、『ハンマー使い』とやらになっただけなのに。
「ちなみに、貴方の冒険者ネームは『羽山健人』です。よろしくお願いします」
「え?本名?大丈夫なんですか?」
「とにかく、貴方の名前は羽山健人ですね。よろしくお願いします、羽山健人さん」
「……羽山健人」
「羽山健人」
「本名……本名かぁ」
俺もなんかよく分からんけどカッコいい名前が良かった。なんだ、なんだ?なんだ!なんなんだ羽山健人って!
こうして俺は『ハンマー使い』となった。まぁ、やるからにはS級冒険者でも目指してみるか、リジェネもあるし。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!