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第4話 秘書

 


 ピンポーン。


 冒険者になると決めた夜、朝と同じようにチャイムが鳴った。

 使者とやらが来たみたいだな。

 今度はチェーンとかもかけずに、普通に出迎える。

 今度はまともな人だと良いんだけど、どうだろ?


 健人が扉を開けると、そこには黒髪ボブの眼鏡をかけた厳しそうな女性がいた。雰囲気は真面目だ。しかし、どこかに一般社会とは違う空気を纏っている。

 手には黒い紙袋。有名デパート内にある高級店の紙袋だ。


「あの、どちら様でしょうか?」

「トリガーラッキーの秘書であります。アーローと申します。以後お見知りおきを」

「……ははは、よろしくお願いいたします……ははは」


 またまた変な人が来た。いや、これぐらいならまだ普通か?少なくともトリガーラッキーとかいう人よりはまともそうだ。


「それでは早速中に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「え?ていうか、そもそもなんでウチに来る必要があったんですか?」

「冒険者にとって必要なのは、イレギュラーに対応する能力です。私というイレギュラーに対してアナタがどう対処するのか、それすらも最早トレーニングの一環なのですね」

「はい?」

「想定外でしたよね?はい」


 まともじゃないね。

 はぁ、冒険者ってこんな変な人達の集まりだったなんて知らなかったなぁ。変わった人もいるとは認識していたけど、ここまで変なのばっかりとは思わなかった。

 俺たちとは違い世界で生きてるみたいだ。断絶された世界の住人。


「私が来た理由は明確です。アナタに課したトレーニングをお教えする為です」

「トレーニング?」

「今日からは、毎日筋トレです。ランニングです。これがそれ用のお洋服です」


 さっきから持っていたブランドの紙袋から、動きやすそうなジャージなどが出される。色は青。なんか、ちょっとダサい……というか、学生が着るヤツみたいだ。


 アーローが玄関で大きく服を広げる。それにはトリガーラッキーが所属している企業のロゴと、トリガーラッキー自身をデフォルメしたキャラクターが刺繍されていた。


「これは、我が社の特注品です。それも、ラッキーさん直属の冒険者にしか渡しません。ちなみに、フリーマーケットで売れば数百です」

「数百万?」

「はい。オークションでも良いんですけどね」

「へぇ……そんなに……」

「売らないでくださいよ?その時は法的な手段を取る事になるかもしれません」

「なるほど、まぁ、売りはしません」


 そりゃあんだけ尊大にもなるわ。

 こんなダサいジャージが数百万?そんな世界があるんだな。

 なんとなく冒険者界隈をバカにしつつ、そのジャージを受け取る。てか、ランニングしろって言ってなかった?


「それでは着替えてください」

「え、これからですか?」

「はい。ランニングです」

「えー……今から?」

「はい。限界までやってもらいます。それも、科学的な根拠のある限界です。本当の限界」

「え?」

「こちらの腕時計を見れば限界が分かります」


 なんだか凄く怖い事を言われた。

 今更やっぱり辞めるっていうのはあり得ないのか?

 運動は昔から得意じゃない。得意だったら、冒険者をあんなに早く諦めなかった。


 健人には健康体だ。ただ、根気や根性はカケラもなかった。なので、こういったストイックな運動というものからはあらゆる手段を使って逃げてきた。仮病で、怪我で、泣き落としで、時にはお金で。

 冒険者という職業が一般的で、なおかつそれが一番大きな産業である事から、ハードな体育がこの世界では行われていた。


「さあさあ。中で待ってますよ?」

「はは……まぁ、分かりました……」


 着替えたそのジャージのサイズはぴったりだった。いつ調べ上げたんだ。分からん。

 うーん、でも、なんか、ダサいなぁ。これで外をランニングすんのかぁ、嫌だなぁ、普通に走りたくもないしなぁ。


 今の健人は学生にしか見えなかった。しかも、かなり老けた学生。


「あはは、お似合いですね」

「……はぁ、ありがとうございます……」

「本気ですよ。てか、名誉ですよ」

「ははは……」


 まだよく分からんけど、トリガーラッキーって人とこの人はほとんど同じような性格をしているみたいだ。語尾が違うだけで、あとはちょっとまともなだけで、方向性は一緒の人。

 面倒だったが、外に出て行く事にした。はぁ、走りたくないー。


 ○○


 はぁ……よく寝た。

 昨日の夜は数十キロ走った。それによって、今日の夜は夢とかを見る事もなく、グッスリ眠れた。

 腕立て伏せも数千回したし、腹筋も寝る直前までやってた。てか、やらされてた。

 久しぶりに体を動かしたのにリジェネのお陰でほとんど疲れることもなく、ただひたすらトレーニングをする事が出来た。

 もしかしたら、めちゃくちゃイージーなゲームなんじゃないか?だって、飽きなければ一生トレーニング出来るわけだし、疲れないから。

 それでも、それでもやっぱり布団から出るのは辛い。なんなんだ?これは。


 健人は溜息をつきながら、連絡を確認する。そこには今日は休むようにという会社からの業務連絡があった。トリガーラッキーから送られた、仕立て屋の地図もある。


 本気で行くのかよぉ。

 気が重いなぁ。昨日みたいに迎えに来てくれたほうが、いや、そっちの方がめんどくさいな。

 昨日みたいにゴチャゴチャ玄関でやられた方が……


 ピンポーン。


 来た?マジで?

 えー、地図もらったって事は自分で行くもんだと思ってたんだけど、そうじゃないのか?はぁ……なんか、大変だ。

 玄関の扉を開けたところにいたのは、秘書のアーローさんだ。料理が上手なアーローさん。


 トレーニングの最中、栄養補給の為にアーローはこの家のキッチンを借りて、漬物やサラダなどの副菜と、サンマの塩焼きを作り、健人に振る舞った。

 当たり前のように美味しかったそれは、久々に手料理を食べた健人にとって彼女に対する一番の印象となった。


「あ、どうもぉ。こんな朝早くから申し訳ありませんね?」

「いやいや、昨日はどうも」

「どうですか?調子は」

「調子ですか?まぁ、そうですね……普通です」

「流石ですね」


 普通で「流石ですね」ってなに?

 なんか気付かないようにバカにするゲームをされてる?そんなわけないか。


「どういう意味でしょうか?」

「筋肉痛もないんですよね?あんなに走ったのに」

「あぁ、そっか。確かに……普通だったなぁ……」


 結構、つうか死ぬほど走ったのに、その後遺症が一切無いっていうのはヤバい。これってちゃんと筋トレになってんのかな? そう不安になるくらいに、何にもなかった。


 後でちゃんとステータス確認するか。筋力とかスタミナとか上がってるか気になるし。

 この世界は不思議といえば不思議だ。

 まるでゲームみたいに俺たちは自分のステータスを見ることが出来る。国がそういうサービスを提供してくれているらしいけど、どうやってるんだろう?


「それでは早速、仕立て屋さんに行きましょう」

「仕立て屋?」

「アナタに最適な職場を探す為のお店です。ささ、こちらへ」


 また強引だ。

 俺はただただ引っ張られるようにして家を出ていった。


読んでいただきありがとうございました!!

何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、どうか次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定です!

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