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最終話 始まりは一緒

 

『『始まりの大地』に来てほしいので。よろしくなので』


 人前に出たり、政治家と会ったりしていた日々の中で、今日は珍しく休みだった。なのにトリガーラッキーさんに呼ばれてしまった。せっかく家でゆったりしていたのに……まぁ、しょうがないし、誘われる事なんて滅多にないし、行ってみるか。


「あの、これからトリガーラッキーさんの所に行くんだけど着いてくる?」

「キシシ!俺たちがゲームしてるのが見えねーのか!?邪魔すんな!」

「そうだよー!今大変なんだから!」

「我らの連携を舐めるな!なぁ!ローズ」

「え、まぁ、うん」


 ゴーパーとストーム、アルダードとローズの2人に分かれて家族でやるようなパーティーゲームをしていた。

 作って貰った専用のコントローラーを持って、みんなは楽しそうにゲームをしている。まあ、俺1人で行こうかな、楽しそうだし。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「お土産待ってるぜ!キシシ!」

「オーケー」

「いってらっしゃい」

「いってきまーす」


 部屋の外に出て、『始まりの大地』へ向かって転移(テレポート)をする。

 ここにトリガーラッキーさんが居るみたいだけど、なんだか昔を思い出して懐かしい。

 しかし、その姿は見えないので、どこに居るんだろう?と思い、連絡をしても応答はない。どういう事だ?自分で探せって事?

 散歩ついでにちょっと歩こう。そんな気持ちでラッキーさんの捜索を始めた。


 懐かしいなぁ。等間隔に流れていく雲。今ならもっと実感出来るけど、やっぱりこの空間はプログラムで出来たゲームの世界なんだ。

 草原もいつもみたいに青々しいし、俺が空けた穴も塞がってるし、休みなのに……とかもちょっと思ってたけど、今度の休みにみんなでピクニックにでも来ようかな、ここに。

 ピコン!そんな長閑(のどか)な事を考えていると、メッセージが来た。トリガーラッキーさんかな?


『川の下流の方に居ますので。お花畑です』


 川の下流のお花畑ね?了解です。

 トリガーラッキーさんに言われた通り、川の下流までやってくると、そこには綺麗な、太陽みたいな黄色をした向日葵のお花畑があった。

 前にゴーパーを探していた時にもここら辺を通った記憶はあるが、キラキラ輝いて見えるほど綺麗な場所だという認識はなかった。天気も良いし、ここでおにぎりでも食べようかなぁ、みんなで。


「あ!こっちこっちー!」

「へ?」


 遠くの方から大きく手を振って俺を出迎えてくれたのは、白いワンピースを着た麦わら帽子の女性だった。向日葵畑!っていう感じの服装をしていて、この場所に馴染んでいる。

 人違いか?と思って後ろを振り返っても誰もいない。俺?あれ?トリガーラッキーさん??へ??


「あれ?やっぱりトリガーラッキーさん?」

「そうだよ。羽山健人くん」

「へ?ん?なに?何が起こって……」


 今までの、スチームパンク的な服装を着ていた、奇天烈なトリガーラッキーさんはここにはいない。今目の前にいるのは、普通の人だ。至って普通の女の人。


「君をここに呼んだのには理由があるの。聞いてくれる?」

「え?まぁ、聞きます」

「まずは本当にありがとう。君のお陰で私は大丈夫そうだよ」

「大丈夫?」


 振り回されているこの感覚は、間違いなくラッキーさんと接している時の感覚だ。なのに、姿形が全く違うから脳味噌がエラーを起こしている。大丈夫?逆に大丈夫ですか?何かあった?


「思考実験でもしようか。もし仮に、君に未来が見えたらどうする?」

「俺に?うーん、未来かぁ……」

「条件を付け加えるよ。もし仮に、悪い未来が見えたらどうする?」

「悪い未来……それなら変えようと努力するんじゃないですか?変えられるのか分からないですけど」

「そう。私もそうなの」

「え?」


 まぁ、もし仮に自分が死ぬと分かってたら死なないように未来を変えようと頑張るよな。ある意味当たり前の話だ。


「私には未来がいくつも見えているんです。そして、その内から1番良い未来を選ぶ。ただ、ここに問題がありますので」

「問題?」

「その未来を歩むのは私なんです。私が努力をして、私が辛い思いをして、私が痛い目をみた先に1番良い未来があるんです」


 最終的に1番幸せになれる選択であったとしても、その道中には様々面倒な事があるって感じか?

 ラッキーさんがこんなに人間味ある人だとは思わなかった。単なる合理主義の人かと。


「私は努力から逃げちゃいました。他にも色んな辛そうな事から逃げてたら、いつのまにか死の未来しか見えなくなっちゃったんです。私が死ぬ未来しか」

「死ぬ未来?」

「怖くなって、どうしたら良いのか分からなくなって……そんな中で見えた、唯一良かった未来が、私が生きている未来が、この運命なんです」


 ラッキーさんは麦わら帽子の影に顔を隠す。もしかしたら泣いているのかもしれない。そりゃ、みんなあるよなぁ、色々抱えながら生きてんだ。


「みんなに感謝してるので。貴方にも感謝してます」

「俺もトリガーラッキーさんには感謝してます。ありがとうございます」

「私は本当にラッキーです。だって」


 少し震えた声になったからか、言葉が出てこなくなった。


「私の未来には明るい未来が増えてきたんです。幸せな未来が沢山見えて、今はとっても幸せなんです」

「……」

「貴方が居なかったら死んでいたので。ありがとうございます」


 麦わら帽子が外れてしまいそうなほど深く頭を下げて感謝してくれる。この方は本当にトリガーラッキー様ですか?あの?本当に?


「認めるしかないんです。自分の弱さや自分の敗北を。受け入れ難い全てを受け入れないと未来は良くならないんです」

「……」

「努力したり嫌な事をしたり失礼な事をしたり変な事をしたり……それが私の運命だ、って受け入れるしかないので。全てを受け入れるしかないので」


 トリガーラッキーは涙目で俺を見つめた。なんか逆に困っちゃうなぁ。このままだと俺まで感動しちゃいそう、何故か。


「ふぅ……まぁ、俺に出来る事ならいくらでも協力しますよ。頑張れるだけ頑張ります」

「ありがとうございます。でも!貴方はすぐに冒険者を辞めてしまうので」

「え!?そんな未来が?」

「これは私が選ぶ未来なので貴方にとって運命です。貴方は冒険者を辞めて山でちょっとした農家をやりながらスローライフを送りますので」

「ちょっとした農家……確かに」


 確かに俺には『ファーマー』で得たスキルを使って農業を始めるという計画があったが、まさか本当に実行するのか?俺は。


「え、ど、どうして俺は冒険者辞めちゃうんですか?」

「それはですね」

「それは?」

「それは」

「それは?」


 向日葵畑に風が吹く。すると、お花の香りが鼻までやってきて、なんだか嬉しい気持ちになる。

 謎だ。どうして俺は冒険者を辞めてしまうのだ?それに、どうしてトリガーラッキーさんはこんなにも次の言葉を貯めるんだ?

 しばらく待っていたが、トリガーラッキーさんは麦わらの帽子をどこかに放り投げ、いつもみたいな雰囲気に戻ってこう言った。


「貴方は約束を守る人なので」


 白いワンピースを着たトリガーラッキーさんがこの場から去っていく。きっと、次会う時にはまたあのスチームパンクの目立つ服装に変わっているんだろう。

 約束を守る?つまりは、俺はみんなを人間みたいに、そして、ローズさんを幸せに出来るという事なのだろうか?


 俺は余韻に浸っていた。その言葉の意味をちゃんと噛み締めていた。

 この世界はダンジョンと共にある。それは言い換えると、モンスターと共にあるという事でもある。

 俺の人生にローズやアルダードやゴーパーやストームが居てくれて良かった。これからも、みんなと一緒に、この世界でそこそこ頑張って生きていこうかな?


 『始まりの大地』。ここは冒険者が1番最初にやってくる場所。どんな冒険者でも、始まりは一緒だった。

 そこからどういう風に変わっていくのか、それは運命でしかない。

 運命が人をどこまでも運ぶ。いつか命が消えるその時まで。


「帰るかぁ……」


 俺はみんなの元へと帰る。それが俺の運命だ。


最終話です!

ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!

いいねも本当にありがとうございます!!

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