第99話 誓い
SSS級冒険者になってからちょっと経った日。ゆったりする事が全然出来ていなかった俺だったが、今日はもう家でソファーに横たわりながら晴れている窓の外を眺めていた。
高いから景色が綺麗。ここが俺の家だなんて信じられない。
「はぁぁぁ……終わったぁ」
「キシシ!中々苦戦してたな!選挙権」
「苦戦したけどなんとか出来ました。これでみんなも投票出来るらしいね」
「投票ってどうやってやるのー!やり方分かんなーい」
「うーん、俺も正直詳しくないんだよなぁ……あ、まだ時間的に投票出来ないらしい。もうちょい待ってて」
F級からE級へ昇級する為の選挙に付いてスマホで調べてみた。すると、まだ受付が開始しておらずもう数十分待つ必要があると分かった。
みんなの協力、特にアーローさんの協力があったお陰でなんとか成立させる事が出来たこの案。
SSS級の肩書きと昇級の勢いでゴリ押したところが沢山あるので、おそらく色々と不備はあるだろうが、ひとまず投票自体は出来るようになったみたいだ。
「まさか我らに人間らしい権利が与えられるようになるとはな!!お前に付いてきて本当に良かった!羽山健人!!」
「いや、まだまだ先は長いよぉ。多分」
「これだけで我らはみな十分なのだ!!お前がやっている事は本当に凄い!!」
「そう?ははは」
褒められると照れますね。頑張った甲斐がありましたよ。
つい最近まで普通に会社員やってたなんて信じられないな。こんなに猛スピードで全てが変わっていってしまうなんて思ってもみなかった。それもこれも全てリジェネのお陰だ。
そして、トリガーラッキー様のお陰だぁ。あのまま仕事してたらどうなってたんだろ?それはそれで成功してそうだけど。
「そういえば、アーローさんとの会食どうだった?」
「キシシ!中々悪くなかったぜ?中華美味かったしな!」
「みんなも食べたの?」
「食べたぞ!美味かった!」
「ね!エビチリばっかり食べちゃった!」
どんな話をしたのかよく分からないけど、みんなが幸せそうならそれで良かった!
まだまだ全然終わりじゃない。まだまだみんなとの約束は守れてない。頑張らないと。
「ローズ。あの俺は」
「まだまだ頑張れそう?」
「全然頑張れるよ。だってめちゃくちゃ健康だし」
「それなら良かった。健人」
今も近くにいるローズさんは俺を信頼してくれている気がする。信頼されてるかどうかって分かりづらいけど、なんとなくそんな気がしているのであった。
「お!もう投票出来るみたいだぜ?」
「なになにー!なんか色々人がいるねー?」
「調べればどんな人が出て来るぞ!しかし新入りだからか情報は少ない!!」
「キシシ!お前は誰に投票するんだ?」
「俺?俺は……」
スマホを適当に持ちながら、昇級する為に選挙に出た冒険者達の顔をズラーッ眺める。俺は正直選挙とか全く興味ないんだよなぁ。
「俺は良いかなぁ。面倒だし」
「そうなのー?良いのー?」
「みんなで投票したい人に投票しちゃって」
実力がある人は俺が何かしなくても勝手に昇級していくだろう。みんなは、誰に投票するのかを自分のタブレット端末を見ながら悩んでいた。最近あげたタブレット。
邪魔はしたくないので、俺は外へ散歩に行ってくる。アーローさんに地図を貰ったので、自分の土地を確かめに歩いても良いかもな。湖があるらしいのでそこを目的地にしよう。
「健人」
「あれ?良いの?」
「私も興味ないから」
「そう。なら一緒に散歩する?」
「うん」
確かにこういうの興味無さそうだね。ローズが言っている人間みたいに生きたいって、もっと浮世じみた話だろうからこういう形式的な物には興味がないんだろう。
「めんどくさいなぁ」
「どうしたの?」
「何が面倒なのかはよく分からないけど、とにかく面倒。俺はこのままこうして自然の中で歩いていたい。森と同化したい」
「それはそれで退屈だよ。私のダンジョンは田舎の方だったし、人も来なかったし」
「そっかぁ。まぁ、それもそうか」
なんでもない会話をローズさんとしながら、グダグダとうだつの上がらないような事を言いながら、地図に書かれていた小さな湖に到着する。ここには何があるんだ?
「綺麗な水だね。飲めるのかな……ていうかローズさんって味覚ある?」
「あるにはあるよ」
「へぇ」
「私たちを作ってくれた人達は、モンスターを生き物みたいにしたいと思ってたらしいから、私たちには生き物にあるような物が大体備わってるの。強弱はあるけど」
「そっかぁ」
ゲームの制作者達は何を考えていたんだろう。新しい生物を作ろうとしていたのか、それとも単純に面白いゲームを作りたかったのか。
「おりゃ」
「うわっ!」
そんな事を思っていた俺は背後にいたローズさんに湖へと突き落とされた。なので、全身がびちゃびちゃになる。あと普通にちょっと冷たい。
後ろでローズさんは俺の事を笑って見ていた。そういえば意外と大胆なんだった、この人。
「ローズさんもおいで」
「私も?」
「うん」
彼女は静かに水面に足を下ろす。人形みたいに綺麗な足だけど、ちゃんとした生き物だ。
俺もローズさんも全身ずぶ濡れになって、湖で水をかけたり、かけられたりみたいな、ホントに恋人がやるような事をしていた。まさか俺がこんな事をする事になるとはな。
湖で出来るような事を大概し終わった俺達は、水にプカプカと浮かんで小さな湖を漂っていた。プカー。
「服濡れちゃったね。健人」
「確かに」
「もうちょっとここに居ようよ」
「そうだね」
陸に上がってお互いを見てみると、ローズさんの服が水に濡れた事によって身体に引っ付いていて、人間としかいえないような肉体が露わになっていた。彼女の瞳は俺の目を見ている。
お互いに服がびしょ濡れになっていた。『黒魔術師』の時に習得した、火を起こすスキルでその辺に焚き火を起こす。
2人とも服を脱ぎ、火の近くに服を置いておき、乾くのを待つ。
それが乾くのにかかった時間は、数秒や数分では無かったが、ローズさんと2人だったので、待っている間は暇ではなかった。
「それじゃあ戻ろうか」
「……うん」
服が乾いたので、それを着て、来た道を戻る。みんなの投票も終わっている頃だろう。
「健人?」
「ん?何?」
ローズさんに道中話しかけられる。なんの話をされるんだろう。もはや何の話をしてきたとしても驚かないけど、流石に身構えてしまう。
「私、人間みたいにならなくても良いかも」
「え?そうなの?」
「うん。だって」
だって、と言ったローズさんは立ち止まる。俺たちは仲良く横に並んで歩いていたから、その変化にすぐに気付く事が出来た。
人間みたいにならなくても良い。俺はたまにローズさんからそういう事を聞く。ソルドと戦った辺りから、そういう事を言われるようになった。
俺としてはやっぱり約束だし、そうなる事でローズさんの人生は良くなるだろうと思っているから、その方向へ進んでいくのは決めている。嫌って言われない限りは続けようと思う。
「人間って思ったよりも動物なのかも」
「……」
「それに……私は私だし、私はエテルだから」
「そう。なら、これからはローズを幸せにする為に頑張るよ」
「それなら……また約束しよ?」
「良いよ。俺はローズを幸せにする事を約束する」
「誓って?」
「誓う」
俺はローズさんの唇にキスをする。柔らかい。
言葉にはしてないけど、俺は今、多分、ローズさんと結婚したんだと思う。
誓うってそういう事だ。その後キスをするってのもそういう事だ。お互いがそれを口にするのはまだ怖いけど、これはそういう事だ。
「ありがとう。健人」
「……ありがとう。ローズ」
はぁ……これから先も大変だ。でも、その大変さを乗り越えるだけの価値がある。覚悟決めてこう。やれる事はなんでもやってやる!
生きている意味やらなんやらは分からんが、少なくとも今の俺はローズさんの為に生きている。間違いなくそうだ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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