第98話 S級冒険者会議
政治家さんとの話し合いの中でも、トリガーラッキーさんは自分の言いたい事をズバズバと言っていた。
さっき聞いたばかりの通貨の話を持ち出したり、俺が提出しようとしている案の根回しをしたり、意外と政治が得意なのかもしれない。うん。
そして、この後の予定はまだある。大きなのが後一つある。
「S級冒険者で集まる。そこで俺がSSS級に?」
「はい。そうなりますので。運命に身を任せてくれれば大丈夫ですので」
「いやぁ、今日ホントに色々ありすぎ」
パンパンに詰まった1日だ。詰まりすぎてお腹いっぱいだよぉ。
ただ、こういう普通の生活においてもリジェネは有効なので、なんだかんだ疲れはない。ただ、背負う物が増えに増えていて未来が恐ろしいだけだ。
車は道をひたすら走る。そして、止まった。目的地はなんでもない普通の高層ビルだった。
「最上階ですので」
「権威的ですね」
「キングの所有するビルですので。まぁ、近い将来に売る事になりますがね」
「みんな居るんですかね。キングもジャックもコッパーも」
「行けば分かるので。アーロー、待て」
「はい。分かりました」
どうやら2人分しか席は用意されていないようだ。秘書すら入れないとか相当秘密の場所だな。
受付に尋ねると、顔パスで最上階まで案内される。なんとなく気まずい密室。なんか、話すか。
「トリガーラッキーさんは来た事あります?」
「私は何度か。案の提出の相談などもありましたので」
「そうですか……」
話す事はないままエレベーターは進む。そして、最上階へ到着。ここまで案内してくれた受付の人は1人で帰っていく。
壁には漆喰みたいに高そうなコーティングがされていて、鳳凰だとか龍だとかが金箔かなんかで形作られている。意味分からんほど豪華絢爛。
シンプルで高級感溢れる木材で作られた扉をラッキーさんが開けると、中で円卓を囲む見知った3人がいた。
「あら?ようこそ?」
「あ、コッパーさん。お久しぶりです」
「おめでとう。やっぱり昇級したな」
「ジャックさんもお久しぶりで」
「我も歓迎する。羽山健人」
「キング、これからよろしく」
みんなに一通り挨拶をすると、空いていた2つの椅子に2人とも座る。隣はコッパーさんと、ジャックさん。思ったよりも知り合いだな、S級冒険者。
「会議を始める前に、まずは今回の一連の騒動。そして、ハットの不正や悪事に加担していた事を謝らせてもらう。本当に済まなかった!!」
机に打ちつけるほどの勢いで謝罪をしてくる。俺的にはもう解決した問題だけど、もう一回ちゃんと謝っといた方がみんな的にも丸いな。
「実は、俺もその儀式に参加した事があるんだ。俺にも責任がある。申し訳ない」
「あらら?そうだったの?」
隣のジャックさんも謝る。ここは本当にS級冒険者が集まっている空間なんだろうか。懺悔室じゃないよな?
「そして、その贖罪として、我は羽山健人の案を全面的に支持する事を決めた。みんなはどうだ」
「私も賛成?」
「賛成なので」
「俺も悪くないと思うよ。賛成だ」
「それならばこれは全会一致で賛成とさせて貰う」
トリガーラッキーさんの案はクインとキングが反対してたんだっけ?キングは憑き物が取れて自由になれたんだね。いや、俺という新しい生霊が取り憑いているのか。
「私に提案があるので」
「なんですか?ラッキーさん?」
「私たちはみんなS級冒険者ではありますが、その中でも羽山健人は特出して国民の支持を得ていますので。なので、彼を特別な冒険者に認定するというのは如何でしょうか?S級冒険者のよりも上の冒険者ですので」
「あらら?良いですねー」
「何を言ってるんだ?トリガーラッキー」
本当に強引な人だなぁ。この中では1番まともなジャックさんがその意見に反発する。しかし、コッパーもキングも、もちろん俺もそれに反対する事はない。
キングは分かるけど、コッパーさんはなんで?器がデカすぎるのか?
「そんな事をしたら独裁のようになってしまうはずだ。俺達は平等であるからこそ」
「さっきまで会議を仕切っていたのは誰なので?」
「仕切っていた?仕切っていたのは……」
そういえば、いつのまにかキングさんが会議を始めたり、賛成か反対の意見を集めたりしてたよな。きっとそういう才能があるんだろうな、人を従える才能。
「今の流れを見ても分かる通り、今までの制度で会議を進めていると、この場を支配していくのは自然とキングになるので。貴方は、ジャックはそれについてどう思いますので?」
それを言われちゃったらジャックさんは弱いんじゃない?
俺に協力してくれてたのも、キングが一強みたいになっている状態を危惧していたからって話してたし、実際にキングに仕切られてたし、やっぱりキングにはカリスマ性があるしで、ぐぬぬ……って感じじゃないの?
「それでも、それだと今度は羽山健人に意見を言えなくなるだけだろう。どうして権力を集中する必要がある」
「言えなくなると思いますか?羽山健人の人間性は貴方も知っているはずなので」
「制度や立場は人を変える物だ。特別な地位になってしまった羽山健人は、今までと同じ人でいられると思うか?そうならない為に俺たちは平等な権利を持って」
「ジャック!!我の目を見てくれ!」
「き、キング……どうしたんだ」
「我は羽山健人を信じる!!お前はどうだ!!お前は人を信じるのか!それとも信じないのか!我に教えてくれ!!!」
怖いほど真っ直ぐだぁ。これは懐柔されちゃうんだろうなぁ。ジャックさんこういう真っ直ぐな熱血好きでしょ?ブラックだから。
「…………は、話だけなら聞いてやっても良い……キングに力が集まりがちなのは否めないから……」
「それなら貴方も一言よろしくなので」
「俺?まぁ、俺が選ばれるなら頑張ります。俺に着いてきてくれるとありがたいです」
「よろしくね?うふふ」
「我もお前の力になるぞ。羽山健人」
「前にも言ったが、俺は権力が集中する事に違和感を覚えている。お前がこの場所で威張るようなら、その時は分かるな?」
「……気を付けます……」
成り行きで決まってしまった。これで噂のSSS級冒険者になれるのだろうか?別に要らないっちゃ要らない称号だな。なんか責任重大っぽいし。
というか、キングは俺に負い目があるし、コッパーさんはなんでも受け止めるし、トリガーラッキーさんは同じ事務所だしで、俺の権力はもう既に相当集中している気がするけど良いんですかね?
キングよりはマシって思われてるだけなのか、俺なら色々言っても大丈夫だと思われているのか……なんでも良いか!
「呼称はSSS級冒険者ですので」
「いいんじゃないかしら?」
「……我も従わざるを得ない」
「呼称なんかなんでも良い。勝手にしろ」
自分で提案するんかい。自分で言うからSSS級冒険者になるって言うのはマッチポンプみたいでアレだな。
自分自身で提案するから、羽山健人はSSS級冒険者になる運命が見えた、という事か?ならどんな風に運命が見えてんだろ。てか、このスキルなに?考えれば考えるほど意味分からん。
「それでは今回の会議は終わりなので。よろしくお願いします」
「さて、帰りますので」
「これで良かったんですか?」
「問題ないので。運命なので」
「羽山健人!!1つだけ!我から言いたい事がある!!」
キングが大きな声を張り上げて、席を立った俺を呼び止めた。何事?
「我は心を入れ替えた!!これからは!国民の為に生きる事を決めた!!」
「……それなら有り難いです。俺は、自分の為に生きてるので」
そう言って部屋から出て行き、エレベーターに乗る。
こんな立場だけど、俺が1番大事なのは俺が決めた事を守るという事だ。つまり、今の俺にとって大事なのは約束を守るという事だけであって、他の事は割りかしどうでも良いのであった。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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