第96話 任せろゴブ!
事務所はいつの間にはパーティー会場になっていた。誰かが持ってきたシャンパンのせいでびしょ濡れになった部屋から気合いで抜け出し、今はアーローさんが運転する車の後部座席で身を隠している。
狂騒だ。トリガーラッキーさんもS級に昇級したんだからそんなに騒ぐな!
「いやいや、大騒ぎでしたので。収まるまではここに居ましょうか」
「ありがとうございます……」
「もう少し進んだら顔上げてもよいので。あ、その間にあの、サインを」
「昇級のですか?」
「そうなので」
これで昇級のサインをするのも最後ですね……そういえばさっきの集まりって俺の最後の昇級祝いだったのか……いや、そんな事もないんだっけ?
トリガーラッキーさんの言っていたSSS級冒険者の正体はマジで全然分からないが、言ってる事が正しいなら俺はまだ昇級を控えている。その時にはどんな騒ぎになってしまうんだ?怖い、今から。
『称号を獲得しました!スキルを解放する為にメールを開き、添付されたURLのサイトにアクセスしてください!』
いつものように称号を獲得する。SSS級冒険者にも称号ってあるのかな?有るとしたらとんでもないスキルが貰えそうだけど、どうなんだろ。
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【最果ての冒険者】の称号を得ました!
おめでとうございます!
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名前から推察すると、どう考えてもここが冒険者の終わりだ。まぁ、それはさておきどんなスキルが貰えるんでしょうか?
そこそこ楽しみに待っていると、《冒険者》というベーススキルが手に入る。なんかこれだけではよく分からんスキル……聞くか。
「このスキルって」
「お守りだそうですので」
「え?お守り?」
「スキル説明のところには良い事を呼び寄せると書いてありますが、それによってラックが上昇する事もないので、単なるお飾りのお守りスキルです」
「へ、へぇ……最後なのに」
「最後だからじゃないですか?そこまで来た人が必要とするのは実力よりも運なので」
なるほど。お守りか……
お守りを貰えたのはちょっと嬉しいが、俺が知ってるS級冒険者はほとんどが不幸そうだったので、これには多分あんまり効果がない。ジャックとコッパーとトリガーラッキーさんぐらいか?幸せそうなの。なら結構いるか。
「はぁ……これで一段落って感じかぁ。これからも大変だろうけど」
「あ、そういえば、貴方とトリガーラッキーさんの秘書を兼任する事になったので」
「マジですか?大変ですね」
「問題ないので。安心してください」
ホントに大変な人だねぇ。アーローさんってねぇ。というか、S級冒険者2人の秘書をしているって肩書き最強秘書じゃん。実際アーローさん凄いし。
最強秘書が自動運転する車は、人が比較的少ない場所まで移動してきた。ここは、ソルドの被害を受けた場所だ。
「おりゃぁー!任せろゴブ!」
「あんまり大きな声を出さない!怖がる人がいるでしょ!」
「ごめんゴブよぉー」
信号を待っていると、窓の外で普通のゴブリンと冒険者が話している姿が見られた。もう既にラッキーさんの案が実施されているようだ。
今のやり取りだけ聞くと、俺の理想はそう遠くない場所にあるように思えてしまう。アレだけ人間みたいなんだから、やがて人間みたいに生きられるはずだ。
「あ、あの……」
「え?何かありました?」
「……今度皆さんとお話しさせていただく機会を設けてほしいので。出来れば貴方抜きで」
「え?あぁ、約束?」
「なので。その後色々決めます」
試合前にしたあの約束。ちゃんと覚えてくれていたんだね。俺は忘れてたのに。
召喚獣のみんなにも説明する。すると、普通にアーローさんとの会食?を直ぐに了解してくれたので、どこかでその会が開かれる事が決まった。うーん、まぁ、みんなも聞いてただろうしな。
そんな会話をした後の車内は沈黙。気不味いのでしょう。多分。
「……えっと、俺のこの後の予定ってなんですか?決まってます?」
「このままブラックさんの所へ行きます。その後、政治家の方とお話しですね」
「それ嫌だなぁ……大丈夫な人だよね?」
「理想の為に頑張ってくださいよ。貴方の夢の話なので」
「頑張りますけどもねー。まぁ、頑張ります」
ブラックさんの所に行くのは全然問題ないけど、その後の政治家に会いに行くって予定が不穏だねぇ。説得されちゃったらどうしよう?そんな案よりももっと良いのがあるよ?みたいな感じで。
窓から見える景色には時々召喚獣が見える。目標は近付いているんだから、ちょっとぐらい嫌な事もするか。嫌いな事するの嫌いだけど。
「あれ?なんかカジノ人だかり……」
「トリガーラッキーさんも来られてるそうなので。ファンの方たちじゃないですか?」
「なるほど」
俺っていつからトリガーラッキーさんに会ってないんだっけ?あんまり詳しい事は覚えてないけど、少なくとも戦いが終わってからは始めましてかな。
俺が車から降りると混乱は更に大きくなる……俺ってまさかどこに行っても騒がれる人になったの?ヤバい。
「トリガーラッキーさん。お久しぶりです」
「おめでとうなので。まずは私に着いて来てくださいなので」
「分かりました」
人混みを掻き分けながら、とは言ってもそこまでの集団ではないが、群れから離れる為にズイズイと進んでいく。目的地は豪華なカジノの中だった。ブラックさんの事務所じゃないの?
「ルーレットをするので」
「へ?」
「貴方が選んだ数字に貴方の全財産を賭けてください。当たるので」
「え!?全部ですか!?」
「山と家の分なので。どうぞ」
ルーレットの前まで来た俺は、トリガーラッキーさんにそんな事を言われる。えー、意味分からない……えー、全財産を賭けるの?
ラッキーが言うなら多分当たるんだろうけど、流石に不安に思ってしまうな。ゴーパーにでも聞いて
「貴方が選ぶので。貴方1人でですので」
退路がぁ……まぁ、いいか。外れたとしても何かしらやってくれるだろうし、それに、このカジノはブラックさんがオーナーだから返金とか……してもらえんのかな?
なるようになるだろ。闘技場の問題を解決するのにお金も必要だし、もし当たったら俺の勝ちだ。やったー、で終わりだ。
それに、トリガーラッキーさんの言う事には従った方が良い。うん。
「ようこそルーレットへ。コインはお持ちですか?」
「持ってないです…………あの、なので、今俺が持っている全財産をコインにしてください」
「「「えぇーー!!!」」」
周りで見ていた人はみんな大声を上げる。もう今更こんなんでひよってたまるか!こっちは何度も死にかけたんだぞ!!
スマホを謎のタブレットにかざし、震える手で俺が持っている約5000万グルぐらいの全財産をコインに変換する。馬鹿。俺の馬鹿!
「こちらになります」
「き、金のコイン……」
「それ一つで1000万の価値ですので」
「ぐはぁ……マジかぁ」
今更だ!今更過ぎるからもう気にするのは辞めよう!俺ならまた稼げるはずだ!うん!
「今回のゲームに参加されますか?」
「はい。よろしくお願いします」
「それでは、ルーレットを回します!!」
ディーラーはルーレットの上にあるつまみみたいなヤツを摘んでグルグルとそれを回す。自分で決めろって言われたって分からんなぁ。うーん、まぁ、でも、何だろ。なんでもいっか!どうせ当たるんだし!!
楽観的になり過ぎた俺は、なんとなく光って見えた『21』に持っているコインを全ベットする。理由はないし、数字と俺には関係もないけど、とりあえずそうしてみた。どうせ当たる……当たる……俺にはトリガーラッキー様が付いてる……大丈夫!大丈夫!!
久々に味わうカジノの興奮にゴボゴボしていると、ディーラーはそろそろ締め切ります的な事を言いながらルーレットの中に球を放り投げる。意味分からん!グラグラするわ、頭が。
「締め切ります。よろしいですね」
「もちろん」
「当たったらなんか奢ってくれ!」
「縁起が良い日だぁ!きっといけるぞ!」
「かみさまぁ!お願いしますぅ!」
みんなも応援してくれてるなぁ。そうか。騒がれるだけじゃないのか。
どこに行っても騒がれるような生活が待っているのは間違いないんだろうけど、それは、みんなが俺の事を応援してくれているからかもしれない。
そう考えると中々ラッキーな人だ、俺は。だから、だからだからだから!!当たってくれ!頼む!!
みんなの思いを乗せて球はグルグル回る。俺の脳内もグラグラ揺れているのだぁぁ。どーぱみーん。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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