〈蠍座〜あるサソリのもとに届いた一枚の手紙〜〉
歩いていると毛皮も乾いてきた。
というか、温度がどんどん上がって行き砂漠の様な地帯へ着いた。
川で半分溺れる様に水を飲みすぎたムートンは不幸中の幸いで、砂漠を歩くだけの体力を持っていたし、毛皮も水に濡れているお陰で焼けずに済んでいた。
「こんなところにヘレもゼウスも居るわけ無いメァ〝」
さっさとこの暑い砂漠を抜け出して、天界の街へ向かいたかった。
そこへ、目の前から鋭い目つきのサソリが歩いてくる。
テュポーンを凝縮した様な禍々しいオーラを放ち、あたり一帯が冷え込んでいる。
どうみても危険だが、道は途中で合流しそうだし、あのサソリもどうみても街へ向かって歩いている。
方向が一緒だが、サソリの前を歩くなんて怖くて無理だった。
後ろから常に刃物を突きつけられて歩くようなものだ。ムートンは歩くペースを落としサソリの後ろをゆっくり歩く事にした。
しかし、それが仇となってしまった。そう、サソリはバックステップが速い。
背後の気配に気付いたサソリは一瞬でムートンの隣に現れ、両手のハサミでツノを抑え、尻尾の針を顔に向けた。
サソリはカバンを2つ持ち、どちらのカバンも大きく膨らんでいた。
「俺は殺し屋さ、左のカバンには依頼書、右の鞄には心臓を入れてあるんだぜ。別に意味の無い殺しはしないが、依頼がきたら誰でもこの毒針で秒殺さ。お前はなんで俺のあとをつけてんだ?返答によっちゃ、お前の命も刈り取るぜ?俺だって、いつ誰に狙われてもおかしくねぇからな。」(こ、、こいつも充分ヤバいメァ″ね...)
「たまたま方向が一緒なだけメァ〝!刈り取るなら毛皮だけにするメァ〝〜〜ァ〝!!」
「なんだ、それならそうと早く言え、こんな所を羊が歩いてるなんておかしいだろうがよ、ラクダじゃねんだからよ」
サソリはムートンを離し、また街へと向かう。ムートンはサソリの持っている殺しの依頼書が気になっていた、もしあのリストにヘレの名前があったら、サソリを説得しないといけないと考えた。
倒すという思考は浮かびもしなかった。
「サソリさん、僕、妹を探してるメァ〝、その依頼書見せて欲しいメァ〝。もし妹の名前があったら代わりに僕を殺すメァ〝〝」
これがムートンの思いつく唯一の説得だった。説得というよりもただの懇願に等しい。
「おっ、そりゃ楽でいいや、なんていうか、オメェは命の重さをわかってんのか、俺がお前を殺った後に妹さんを殺らねぇ保証があんのかい?」
「それはサソリさんを信じるメァ〝よ」
「馬鹿なヤロウだ、馬鹿羊野朗だな、まぁ見てみろよ、俺の記憶にはこのリストに羊はいねぇ。いいか、天界には信じれる事なんてなんも無ェんだ。どんなことをしてでも偉くなった奴が偉い世界なんだからな。ホラよ。」
ムートンは依頼書を見せてもらい、そこに妹ヘレの名前が無い事を確認した。
ちらりと見えたリストには知っている神々の名前ばかりであった。地上に流れてくるニュースの事件の殆どはこのサソリの所業であった事に気付き、最早芸能人に出くわしたような気持ちになってきた。
「ここ天界には正義も悪もねぇんだぜ、何てったって、善悪を作る場所だからなァ。俺はその為の法なんだよ。」
サソリはただの殺し屋ではなかった。乱暴な物言いの奥には正義を感じる強い使命感があった。
天界の無法地帯に居る、ゼウス意外にも唯一の裁きを与えられるサソリであったし、ムートンは思ったよりも怖くないサソリに着いて行く事にした。
彼といれば身の安全が守られる様な気がしたし、禍々しいと思っていたオーラは普段見慣れないだけの、強い情熱だったようだ。
サソリが次に狙っていたのはなんと英雄ヘラクレスであった。
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付随音楽〈蠍座〜あるサソリのもとに届いた一枚の手紙〜〉