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第八話


ピンポーン。


家のインターホンが鳴る。時刻は夜の十時過ぎ、こんな時間に一体誰だろう。ちょっと早いけれど明日の一限からの講義のため、こっちはもう寝る気満々だというのに。

ドアの覗き穴から見ると女性の後姿が見える。…もしかして玲花か?


ドアを開けると、そこにいたのは予想通り玲花だった。玲花はドアを開けた俺を押しのけるようにして、ずんずんと玄関へ入ってくる。何か様子がおかしい…って、酒くさ!


酔っ払いらしく陽気に「ただいまー」と言う玲花。しかもそれを俺の方ではなく、部屋の方に向かって言っている。


「…お帰り、ってここ俺の家だけど」


「はい、お土産」


「おお。何だかよく分からないけどサンキュー」


玲花がずい、と差し出した紙袋を受け取る。その間とにかくニコニコしている玲花。


そうだ、今日はサークルの新歓コンパがあるって言ってたな。大分飲んだんだろう、顔がほんのり赤い。この酔っ払いめ。

前もそうだったけど、飲むとこうなるんだな。楽しそうにしている分には怒ったり泣いたりするような面倒臭いヤツよりはずっといいか。


「はー」


玲花は深い溜め息を一つつくと、何のためらいも無くブーツを脱ぎ捨てる。そして先に玄関から部屋へ戻った俺の横をすり抜け、吸い込まれるようにベッドへダイブする。もちろんそれは俺のベッド。


「おいおい、自分とこで寝ろよ」


うーん、と返事?をして上半身を起こす。そして一言、


「水」


はいはい、もう何も言わないよ。


玲花に水を渡した後、さっき受け取った紙袋を見るとサンマルクカフェと書いてある。玲花がお気に入りのチョコクロワッサンを売っているカフェだ。開けてみると中身は予想通りチョコクロワッサン…でも数は三つ。

何故チョコクロ?そして何故三つ?


理由を聞こうと振り返ると、ってちょっと!


「布団にもぐるな!ちょっと、玲花さーん?」


俺の呼びかけに反応して、ムスっとした顔を布団から出す。


「うるさい。もう寝る」


「なら自分の部屋に帰れ。そこは俺が寝るとこだ」


俺の言葉を聞いてか分からないが、玲花はもぞもぞと動き奥にずれてスペースをつくる。


「おやすみ」


「ちょっと、そうじゃなくて」


仕方なく掛け布団を引っぺがして起こそうとするも、玲花に腕を掴まれる。そしてそのまま引っ張られて俺はうつ伏せの状態でベッドへ突っ込んでしまった。

玲花は俺のことなどお構い無しに、掛け布団を元に戻す。


「何すんだよ」


反応なし。

はは。もういいや、好きにして。ベッドのレンタル料は後で何かの形で支払わせてやる。


諦めてベッドから出ようと体をひねり、玲花に背中を向ける形になる。


「お…」


ベッドから出ようとするが、玲花に背中を向けた体勢から体が動かない。

気付くと腹に手を回されて、後ろから抱き付かれている。


これは…背中に…柔らかい…。


「……」


普段はベッドに入れば全く眠くなくても直ぐに寝れるくらい寝付きが良いのに、この日だけは一時間かけても全く眠くならなかった。


結局眠くなったのは、頭の中で入来君が人生のサクセスストーリを歩む入来ストーリーを考え出したあたりから。社員30名くらいのベンチャー企業社長になったあたりで意識が飛んだ。ありがとう入来君。





ゴツン!という衝撃音が頭に響き目が覚めた。


「う…」


体にはひんやりとしたフローリングの感触があり、そのフローリングに触れている右半身が痛い。そして正面に見えるはベッドの脚。

…ベッドから落ちたのか?


体をさすりながら起き上がる。外はもう明るいんだろう、カーテンの隙間から光がさしている。

ふと気づけば、ベッドの上から俺を見下ろす玲花。

そうか。昨日は玲花が強引に俺のベッドで寝て、巻き込まれる形で俺も寝たんだ。


「何で私、喬生の部屋で寝てるの…」


寝惚けてるのか昨日の記憶がないのか、驚いた顔の玲花。俺は溜め息を一つつく。


「昨日酔っ払って俺の部屋に来て、勝手に寝たんだろうが。あー、さっき俺のこと突き落としな」


「だって、びっくりしたから」


「…ちなみにお前が勝手に俺のベッドで寝て、起こそうとした俺を引きずり込んだんだぞ」


「ウソ!?」


「記憶に無い方がお前のためだと思う」


「…忘れて」


恥ずかしそうに髪をくしゃくしゃ、とする。そして溜め息をついてベッドから降りる。

溜め息をつきたいのは俺なんだけど。


「喬生、今日一限じゃなかったっけ?」


「ああ、そうだよ。とっとと準備して…」


玲花が無言でベッドの脇にある目覚まし時計を指差す。


八時五十五分。


講義の開始時間は九時。そしてウチから大学までは上手く行っても三十分はかかる。準備を入れれば約一時間。着いてもすぐ講義終了だな…。


「遅刻…」


うな垂れていると、枕元にある携帯が鳴る。メールだ。

送信元は幸治から。


『どこに座ってる?教場変更あった?』


一限の講義は学部が同じ幸治と一緒に受けている。多分俺の姿が見当たらなくてメールを送ってきたんだろう。


いま起きて家にいる、とメールを送ると、幸治からは件名ナシで『笑』とだけ返ってきた。


「く…」


続いてもう一通幸治からメールが。


『出席カードを書いておくので学籍番号を教えてくれ』


お前を誤解してた、友よ!

幸治に感謝しながら素早くメールを送信。


と、また直ぐに返信が。


『代わりに今日の昼はお前のオ・ゴ・リ』


最後に絵文字のハートマーク付きだった。これほど絵文字のハートマークが憎くらしく見えたのは生まれて初めてだ。


「幸治に出席頼んだから大丈夫。二限から出るよ」


「…何のための大学なんだか」


くそう。

正論だけど、ちょっとはお前にも責任はあるんだぞ。


「朝食べるでしょ。パンでもいいなら準備するよ?」


「…食べる。どういう風の吹き回しで?」


「一応、昨日迷惑かけたみたいだから」


食べ物に釣られた訳では決してない!決してないが、その真摯な態度に免じて昨日の暴挙は許そう。


その後は玲花の用意したトーストとスクランブルエッグを食べた後、昨日の『お土産』チョコクロも食した。

何故チョコクロを買ってきたのか、そして何故三つだけなのかは本人も分からないとのこと。ただ財布に入ってたレシートを確認したら『チョコクロワッサン六個』と書いてあったそうな。


それってどんなミステリー?


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幼馴染
ほのぼの
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