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第六話

宅飲みの翌日。

俺はマンションにある玲花の家の前にいた。夕方までのバイトから上がり、時刻は夕方の6時50分を回ったところ。

日曜日なのでいつもよりピークの混雑が酷かったけれども、無事時間通り帰ることができた。日曜だというのにバイトしかすることの無い俺バンザイ。


今日は玲花のところで晩飯を食べる予定だ。最近お互い自炊するには食べてくれる人がいれば頑張れるという結論に達し、予定が合う日はどちらかが作り一緒に食べようということになった。

それで今日は俺が七時頃にバイトが終わるので、それに合わせて玲花が晩飯を作るという話をしていた。ところが、さっきバイト先を出る前に携帯へ電話したけども返事なし。


それでハラペコの俺は仕方なく直接部屋へ行き、チャイムを鳴らしたという訳だ。


「おかしいな」


出てくる気配が無く、急用で出かけたんだろうかと思ったその時。

がちゃり、とカギを開ける音がしてドアが開く。


「ごめん…」


中から出てきた玲花はバツの悪そうな顔をして開口一番に謝る。


「いや、いいよ。寝てた?」


「うん…電話もらった時に起きた」


玲花にしては珍しく、寝巻きの高校ジャージのままだ。髪も寝癖が隠し切れていない。

だらしない生活が嫌いだと言う玲花は、家から出ない日でもほぼ必ず着替えている。その玲花が夕方過ぎても寝巻きとは…もしかして二日酔いで寝てたかな。


「二日酔い?」


「違う。あ、上がって」


「うい」


いつもの見慣れた部屋だけど、心なしか散らかってるような。さては昨日の吉田さん来襲で部屋を荒らされたか。

あまりジロジロ見る気は無いけど何となく……あ。


ベッドの脚元に転がった、女の子っぽくない玲花の部屋には不似合いなヌイグルミを手に取る。


「これ…」


それは30センチくらいある、ちょっと大き目のライオンのヌイグルミ。可愛くデフォルメされた造形はたてがみが無ければネコにしか見えない。こいつは見覚えがある、間違いない。


「わ!」


玲花は驚きの声をあげて俺からひったくるようにヌイグルミを奪うと、ベッドの下にある引き出しに仕舞う。


「持ってきてたのか」


「…一応」


「そっか」


そのヌイグルミは俺が高校一年の時に玲花への誕生日プレゼントとして贈ったものだ。その頃はお互いアクセサリーやらには興味も無くて、結局地元の雑貨店で玲花が気に入ったそのヌイグルミを買うことにした。当時から玲花と女の子らしい可愛いものとが結びつかなかった俺は、かなり意外だった記憶がある。そして本気で怒られる程からかい倒した。

そう言えば玲花の実家で見たことも無かったし(と言っても玲花の部屋に上がる機会はそんなにないけど)、勿論こっちに来てからも見ていなかったのですっかり忘れていた。まだ持ってたんだな。


「ヌイグルミの話しは置いといて」


「ん?」


「実はさっき起きたばかりだから、ご飯作ってないんだ」


「ああ…そっか。こんな時間まで寝るなんて珍しいな」


「昨日二人で話してたら、結局朝になっちゃって」


「うえ、よくやるよ。それでさっきまで寝てた訳か」


よく朝までなんて話ができるもんだ。でも納得。

とは言え今からメシ作っても仕方ないよな。


「何か買ってこようか」


「お願い」


玲花は両手を合わせてお願いします、のポーズをする。

でも表情は申し訳ない…というよりは、ラッキー!って気持ちがにじみ出てるような。


「食欲は?二日酔いでは無いんだっけか」


「うん。ハラペコです」


「あいよ。適当に弁当買ってくる」





近くにある弁当屋で食糧を調達し、早速晩飯にすることにした。

俺が弁当屋に行っている間に着替えたらしく、戻ったら玲花は寝巻き姿からスウェット+パーカーになっていた。正直そんなに変わらないと思うけど。


ちなみに俺がカツ丼とカツカレーを買って帰ったら、チョイスが気に入らなかったようで文句を言われた。さっきまで寝てたくせに。カツの何が気に入らないのか、全く。


しかも文句言った割りにカツ丼を美味そうに食べてるし。


「そうそう、サークル決めたよ」


静かにテレビを見ながら食べていたところで、玲花が話を振ってきた。


「おお。何にした?」


「弓道サークル。見学も行って来たんだ」


「弓道?」


これはまた意外な。もっと運動系ならもっとアクティブなものにすると思ってた。

でも…袴姿はいいかも。高校に弓道部はなかったので、ぼんやりとしたイメージだけだけど。


「喬生も行ってみる?」


「いや、俺もうサークル入ってるから」


「結構かけもちしてる人も多いみたいだよ」


「そっか…って、行かないけどな。でも何でまた弓道?」


「見学行ったら楽しそうだったから。それに教えてくれる人がちゃんといるしね」


「へえ、じゃあ弓とか袴も買うのか。よく分からないけど、結構するんじゃないか?」


「最初は貸してくれるんだって。負担にならないように順番に揃えればいいから、って」


その後一通り見学した感想やら何やらを披露された。

道場は貸しきりじゃないからお爺ちゃんも一緒にやっていたとか、メガネ率が高いこと。あと手に着けるカケとか言う道具は鹿皮だとか、意外なことにアーチェリーみたいな点数制じゃなかった…などなど。


二人とも晩飯を平らげ、サークル話も一段落したところで、話は昨日の飲み会に戻っていた。

俺はベッドに腰掛け、玲花はフローリングの上に置いたクッションに座り、ベッドにもたれている。テレビを見ながらなので顔は見えない。


「そう言えば。一晩中話してたって、どんなこと話したんだ?」


「うーん…大学のこととか、高校の時の話とかかな。でも実はあんまり覚えてない」


「ひでえ」


「仕方ないじゃない。酔ってたし」


「でも吉田さんと二人で話してくれてて助かったよ」


テレビの方を向いたままだった玲花が顔をこっちに向ける。


「え?」


「だって俺たちの事からかう気満々だっただろ。昔付き合ってたこととか知ったら直ぐに広まるぞ」


「あー…そういう意味ではからかわれたかな」


少し声のトーンが下がり、表情も少し不機嫌に。そしてまた顔をテレビの方へ向ける。

ああ、いつもそうだ。昔付き合っていた頃の話をすると機嫌が悪くなる。


「だ…だろ」


「何で一緒のマンションにしたのとか、色々。…でも、私たち幼馴染だしね」


「ん?ああ」


そしてこれもいつものパターン。付き合う云々という話で機嫌が悪くなると、最後は「幼馴染だし」というところで落ち着く。

家族や友達からは玲花の機嫌が悪いと大抵俺のせいにされてしまうので、いつもこれで丸くおさめている。


「悪くないよね」


「そうだな……便利だし」


「何よそれ」



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幼馴染
ほのぼの
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