第三話
「もうカリキュラム組んだ?受講表の提出期限そろそろだけど」
「まだ。玲花は?」
大学へ向かう電車の中。今日は俺も玲花も一限から講義に出るので、同じ電車の吊革につかまって大学に向かっている。朝はいつも混んでいるので二人とも立つことになるけど、酷い混雑じゃないのが救いか。
隣に立つ玲花の格好は黒のストレッチジーンズにくしゃくしゃした?白シャツ、モスグリーンのジャケット。左手には革のトートバッグ。正直ユニクロやコムサで買ったものだけでもそれなりに見えるのは羨ましい限り。
「私もちょっと考え中。ほとんどは決めたんだけどね」
「サークルの先輩にでも聞いてみようかな」
「え!もうサークル決めたの?」
「入学式の後に勧誘されて試しに見に行ったら、同じ見学者と気が合っちゃってさ。結局そこに決めた」
「そっか…」
「玲花は?入学式の後本がつくれそうなくらいチラシ持って帰ってきてたけど」
入学式の日の帰り道で玲花とばったり会ったときの、大学の紙袋一杯に入ったサークルの勧誘チラシ量を思い出す。取り合えず渡された分は全て貰ってきたんだろうけど、かなりの量だった。
もうあれから一週間か。
既に大学は始まっているけど、今はまだカリキュラムを決めるために設けられた仮講義期間中。この一週間で好きな講義に出て自分の受けたい講義を決め、受講表に書いて提出しなければいけない。
「何かピンと来るところが無くてさ」
「じゃあやっぱり陸上か?」
「本格的にやるつもりはない、かな。喬生のサークルはどんなとこ?」
玲花が質問するのとほぼ同時に急行の停車するターミナル駅に止まる。車内アナウンスと共にどっと人が流れるが、残念ながら前に座る人たちは動かない。
どうせあと二つで大学のある駅だけど。
「ウチは…飲みサークルかな」
「ふーん」
「何だ飲みサークルかよ、って反応だな」
「そんなことないよ。私はどうしよっかな…」
▼
「何読んでるの?」
さっきまでテレビを見ていた玲花がいつの間にか目の前に立って、不思議そうにこっちを見ている。
今日はウチで夕飯を食べた後、玲花が俺の部屋に居座ってずっと特番のドラマを見ていた。夕飯を食べているときからやっていたので、戻るのが面倒とのことで。
そしてテレビを占領された俺は、友達から借りた滅多に読まない小説を読んでいた。
「東野圭吾の、『どちらかが彼女を殺した』」
「ふーん、小説なんて読むんだ。」
「教科書除いたらほとんど初めてだよ。これも借り物。」
そう。今まで殆ど小説を読んだことが無かったけど、電車や暇な時間を潰すために友達のイケメン入来君に薦められて(次の日わざわざ持ってきてくれたので)借りることにした。彼はイケメンな上に文学青年で大人っぽい。そしてサークル内で既にモテている。
って、それは関係ないか。
「おもしろい?」
「うん。意外にも読み出したら止まらない」
「へー、今度私も読んでみようかな」
俺は後ろにある自分のバッグから、友達から借りたもう一冊の文庫本を取り出す。
「別のだけど一冊あるよ。映画になったヤツの原作だけど、読む?」
「読む!」
ひったくるように文庫本を取ると、一番後ろのページあたりをペラペラと捲りだす。
え…最後から読むの?
「最後から読むの?」
「そんな訳ないでしょ。巻末の解説見たかったの」
ああ、そうですか。
しかし小説なんて慣れないものを読むと疲れるな。内容は面白いんだけど、活字をずっと連続で読むと頭に入りきらない感じがする。
キリのいいところで終わらせておこう。でないと寝てしまいそうだ。