「逃げ水」
蜃気楼は、
地表近くの空気の温度のちがいで光が屈折し、
地上のものが浮いて見えたり
遠くのものが近くに見えたりする現象。
水があるように見えるのに、
近づくと消えてしまう逃げ水も
蜃気楼のひとつ。
「ねぇ~♡」
「あ”ッ!?(怒)」
「ちょっと、休まない?」
「………………。」
「もお疲れちゃったあ~」「足、痛い~」「マメできちゃったし~」「血もでてる~、、」「も、あたしいっぽも歩けない~」「ああ”ーーっもお!」「バンドエイドあったかな~」
(疲れてるのはお互いさまだぞ、)
(………っていうか荷物全部持たされて疲れてるの、俺の方だし。)
歩道にぺたんとだらしなくしゃがみこみ絆創膏を探す女。
女が無造作に放り出したカバンの中身を見ながら思う。
(あーっ、暑っち~なあ、、、)
(お前ってそういやあ何処でも平気で座るよな)
(この間もどっかの犬が小便したかわかんねぇとこで弁当食おうって、)
(一瞬、固まったぜ、正直なとこ、)
(弁当っていうんはちゃんとランチマット敷いて、食うもんだぜ?)
(って、思ったけど付き合い始めたばっかで言えなかったけど、)
(違うやろ!?って、突っ込めばよかったんだわ、あんとき。)
(そうすりゃあ、今 こんな思いしなくて済んだかもしんねぇと思うと、マジ自分に腹立つわ、)
(ああ~パンツ見えてっけどちっとも色気ねぇなあ)
(ババくせぇ~、)
(まだ、みつかんねぇのかよ?)
(いっつも、なんでもかんでも突っ込んで重てぇカバン俺に持たせて)
(絆創膏の1枚くらいスッと出ねぇのかよ?スッと、)
(あ”?中身全部ださなきゃ見つかんねぇの!?)
(嘘だろ!?)
(そのケチャップついてるティッシュ、ゴミじゃね?)
(使ったテッシュまで持って歩いてんのかよ、お前、)
(汚ったねぇ女だなあ~)
(だいたいからカバンの中ゴチャゴチャ整理できねぇのってどうかと思うぜ?)
(整理整頓は、暮らしの基本だって母ちゃん言ってたもんなあ。)
(家の母ちゃんの鞄なんか、上から見れば一目瞭然だったし)
(ハンカチにまで香水つけてやさしい匂いがしてたもんなあ。)
(そう言えば、お前って化粧や洋服は真剣だけど、部屋ぐっちゃぐちゃだし、)
(飲めば飲みっぱなしだし、洗いもんも貯めても平気だし)
(床、歩けばなんとなくベチャ~っとしてて気持ち悪かったし、)
(ヤリタカッタから我慢したけどシーツなんて、いつ洗濯したんかOZ)
(ヒェ~、、、(汗)))、)
(ああ”~!!!)
(ちくしょおおおおおお---っ!)
___容赦なくジリジリ照り続ける太陽が男の心を焼く。
……………暑っつう~
俺、この女のどこ、好きだったっけ?
「んあ?、どの口がそんなこと言ってやがんだ?」「誰のせいでこうなったと思ってるんだ、」「ふざけんじゃねぇぞ、」「いっつもそうだ、てめぇは行き当たりばったりで計画性ってもんがねぇんだ。」「こりねぇ奴だぜ、マジうぜぇ。」
(ああ~足、痛い………ってさっきから聞こえるように言ってんのに無視かあ?)
(普通、大丈夫?って心配するわよね?)
(そりゃあ、少しはあたしも悪かったかもしれないけど、優しくないのよねえ…)
(俺サマなとこeなあ~って最初 思ったけど、)
(顔も好みだったけど、)
(こういう時って、やっぱり本性でるっていうか~)
(さっきから、グチグチグチグチ煩いったらありゃしない。)
(理屈っぽい男って中身ないのよねえ)
(笑)
(この計画だってTV観ててeねえって、軽く言っただけなんに本気にして)
(やろうやろうって、自分だって乗り気だったジャン。)
(それなのに都合が悪くなるとアタシのせいって、)
(男らしくないーっ!(怒))
(そう言えば変なとこ細かくて)
(ナン、ナイフとフォークで食べてたのイメージダウンだったかも~)
(何かと云えば、家の母ちゃんがって、)
(あたしと自分の母親 比べて文句言うとこあるし~)
(ひょっとしてマザコンじゃないの?)
(キモッ!)
(ああ~、足、痛あ~い)
(可愛いのが好きだって言うから、こんなサンダル履いて来て、)
(あたしってバカみたい、、、)
………グスン(涙)
絆創膏ないや~
ツバ付けとこ、
___ジリジリ 照りつける太陽が女の心を焦がす。
……………暑っつう~
あたし、この男のどこ、好きだったっけ?
「だいたい俺が車で来ようって言ったんに、いうこときかねぇで、」
「TVみたいに路線バスもイイじゃないって言うてめぇの提案を聞いてやったんが大間違いだったんだ」
「………………。」
「だいたいからTVなんてな、ヤラセなんだぞ?」
「ほんとに4人だけで歩いてっと思うか?」
「デレクターがいてよお、照明がいて、カメラがいて、、最低でもちゃんとライトバンがいつでも乗れるようについて回ってるんだ、どうせ」
「その上、この僻地に来るんにその靴は自殺行為だろ?」
「ちったあ、生きてるうちに頭使えッて、言うの!」
「はん!」
「だって、まさかバスが1日に4本だなんて思わなかったんだもん」
「eねイイね言ったの真也じゃない。」
「なんでもかんでも あたしのせいにばっかにしないでよ!」
「真也だって、確かめてくれれば良かったじゃない、」
「なんでもあたし任せにして、上手く行かなけりゃ人のせいって、」
「………………………マジ、うざっ”」
男
(帰ったら別れる、ぜってぇ~)
(女はやっぱ、母ちゃんみたいなんが理想だよな)
女
(こんどは顔で選ぶのやめよ~)
(男はやっぱ、やさしくなくっちゃねぇ)
陽炎の仄めく影を見てしより
誰とも知らぬ恋もするかな
詠み人知らず『古今和歌六帖』