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第二話三節 そばにいすぎて

「さて、君は私に言うことがあるはずだ」

 エイサムとの通信が終わった彼女が指令室で意味深長にコバライネンに笑いかける。

「何も。何か思い違いをされているようです」

「彼らの旅立ちの時、死にに行くようなものだ、と言っていたのは他でもない君だったな」

コバライネンはふむ、と少し思案する。

 今ある結果と彼女の思惑を混ぜて見た時、彼は渋い顔をした。

「第2先遣偵察分隊の仕事は終わったのでは?」

「まださ。逃げたということはこちらが追う好機じゃないか?」

 コバライネンの言葉は当たっていた。

 彼と彼女はチラリと統合戦術パネルに表示されている戦域地図を見る。

「しかし、誘い込むというのも兵法の常道ではあります」

「兵法か。相手が無視しているルールにこちらが則る必要はないだろう?」

「敵の所在も分からないのに部隊を動かすのは同意しかねます。特にそれが敵の勢力圏内ならば」

 エイサム達はつい先日まで敵がいたところに単独で侵攻しているのだ。

 周囲に目立った友軍も居なければ、情報も不足している。

 コバライネンは首を振るばかりだった。

「私もそう考えていたんだがね」

 そんなコバライネンを見て彼女もふう、と一つ息を入れた。

「……それはどういう」

「エイサム自身がな。彼は稀有な軍人で本部支援中隊にオペレーター以外がいることも知っているようだった」

「……GITですか」

 統合戦術情報チーム。彼らの仕事ができれば、確かに敵の所在は分かるだろう。

「GITは今、第3中隊の支援だったな」

「ええ、稼働率20%を維持しています」

「……『BEVIES』の充填率と大隊クラウド占有率は?」

「詳しい数字は分かりませんが、問題は無いでしょう」

 コバライネンはこの件で初めて乗り気でない彼女を見ていた。

 彼女はコバライネンの言葉を噛みしめながら、袖を直している。

「やらせたくなければやらせなければいいのです。それを決めるのは貴方でしょう」

 それは彼女の良く口にする言葉だった。

 彼女はしばし、コバライネンを見た後、同意するように少しだけ頷く。

「……ふむ。しかしだ。エイサム達が見つけた基地にいかほどの情報が残っている?」

「調査隊を組みましょう」

「研究施設があそこのみだったら? 稼働率が安定しない兵器を前線に送るか?」

 それは先ほどの通信でエイサムが言っていたことを彼女が繰り返したに過ぎない。

 このまま、4次TMはこの世の闇に葬られる、ともエイサムは言っていた。

 彼女が気に食わなかったのはエイサムが自分の知っていること以上のことを知っていることもそうだったが、何より『ヤル気』のエイサムそのものだった。

「隠し事はこの世の常だが……隠そうとしないというのもまた気味が悪いな」

「RI12ですか」

「そうとも言えるな。あの隊でエイサムに反旗を翻す輩はいまい」

「面倒なことになったと?」

 コバライネンは少し弱っている彼女に追い打ちをかけるようにそう言った。

 彼女は少しだけ苦笑して、手を振る。

「面倒ごとを背負ったのは彼らだろう。私は関係ない。だが、今、そのことそのものが私の問題でもある」

 思案する彼女の背中は実に影が差していた。

 その影がコバライネンを覆おうとした時、コバライネンの口からぽろりと言葉が漏れる。

「ギャンブルなんでしょう?」

「……!」

 驚いた彼女の背中から影が消える。

「は、ははっ……ふふふ。君がそんなことを言うとは」

 彼女は笑っていた。

「いつの間にか……私は冷やかす聴衆から人生を賭けた博徒に落ちてしまったようだ」

 彼女が笑うのは自分か、それとも。

「チップは私達であることをお忘れ無きよう」

 コバライネンはちくりと彼女にいつものように釘を差す。

「話を聞いてなかったのか? 私もまた、人生を賭けているのだ」

 そんな釘を片手で払いのけ、彼女は更なるチップをつぎ込んでいく。

「GITを出せ。師団からの補給は私が話をつける。今後の作戦に影響が出ないようにな」

「承りました。手配します」

 モニターの光に照らされながら彼女達は不敵に笑う。




「了解。共有準備を進める」

 エイサムはそれっきり音がしなくなった通信機を座席の横に置いた。

 詳細な場所は分からずとも大体の位置は分かっている。

 エイサム達はいまだ見えぬ幻影を追って移動中だった。

「…………」

 あの研究施設から北北西に進むこと72km。

 いい加減、全く予定と違う行軍を続けているせいで飯が少しだけ心もとなくなってきたが、水もあるし、フレーバーもあるし、エイサムに不満は無かった。

 そんなエイサムがダラダラと自動運転に揺られているとおもむろに前を行くエリザベス機のハッチが開くのが見える。

「ん?」

 するりと中から出てきたのは二つの人影。

 エイサムはため息を吐きながらトレーラーのドアロックを解除する。

 無人になった鋼鉄の塊は綺麗にそのさけた体躯を再び閉じながら、そのまま前進を続けた。

「全く……」

 機体を下りた双子がぽつりと月面に佇む。

 月面の雰囲気に飲まれないよう強く立つその影に迫ったエイサムはトレーラーを止めるわけでもなく、おもむろにドアを蹴り開け、左手を伸ばした。

「よっ……」

 その手にしっかりと掴まった双子が走り続けるトレーラーに引き上げられる。

 器用にドアを閉めたのはエリザベスだった。

「ミューオンが無くなってね」

 言い訳をするようにイザベラが呟く。

 おそらくミューオンが無くなったと言っても急を要するような事態ではないだろう、とエイサムは思った。

 しかし、エイサムは特にそのことについてとやかく言うつもりは無かった。

「そうかよ」

「全く誰かが休息の時間もくれないから」

「大隊長様か? 全くその通りだ」

 探り合い、というよりはエイサムは彼女達の口からどんなことが飛び出してくるのかを待っていた。

 話さなければならないことがあるのも分かっていたし、彼女達にそれを聞く権利があるのも分かっていた。

 しかし、だからといってエイサムが自ら話すつもりもない。

「予備のミューオンパックはどこ?」

「2番コンテナだな」

「私が取ってくるわ」

 イザベラが後部座席から繋がるトレーラー後部に足を向ける。

 手持ち無沙汰になったエリザベスがエイサムを見た。

「何か……食べ物は?」

「極上の固形食なら座席の下にある」

「美味しいヤツ」

「美味しいだろ」

 エイサムはそう言って座席下の箱から固形食を二つ取り出し、封を開け、片方をエリザベスに手渡した。

 エリザベスは少し顔をしかめたが、開けてしまった以上無駄にするわけにもいかず、それを口に運ぶ。

 口の中で砂が崩れていくような触感にまた顔をしかめた。

「食感は砂。味はしない。日持ちだけは良い。合理性の塊」

「栄養素の塊でもある」

「人間味が無い」

「美味いモン食うだけが人間味じゃないだろ? 泥を啜って生きていくのもまた人間だろうが」

 エイサムの言葉にエリザベスは驚いたような顔をした。

「……! 美味しいから食べているんだと思った」

「いや、普通に美味いけどな」

「じゃあ――」

「さっきのは……言葉の綾ってヤツだな。だって、お前らにとっては美味くないんだろ?」

 ああ言えばこう言うエイサムの性格はエリザベスも重々承知の上だ。

 それでもさっきの言葉はエイサムのそういった重みの無い反論とは趣が違う、とエリザベスは感じていた。

「イズが隊長はオブジェクシャルだと言ってた」

「アイツ……」

「固形食に欲情したりする?」

 素っ頓狂なエリザベスの言葉にエイサムは呆れ果てて首を振った。

「あのな……一つ。俺はオブジェクシャルじゃない。二つ、固形食に欲情はしない」

 ヘルメットの給水チューブから水を一口飲んで最後に一言。

「三つ。イズの言うことは信頼できない」

「誰の何が信頼できないって?」

 イザベラがミューオン缶を抱えて戻ってきた。

「ウチの隊にあることないこと言う奴が居るらしい。心当たりはあるか?」

「無いわね。全く」

 いつもの軽口の叩き合いだった。

 イザベラはその軽い缶を足元に下ろす。

 缶の向こう側に見えたのは固形食を食べる二人の実に珍妙な姿だった。

「そんなもの食べてたの?」

「いつもだろ」

「エイサムには言ってない」

「隊長が開けたから」

 食べるかと言わんばかりにエリザベスが突き出したのをやんわりとイザベラは拒否した。

 エリザベスは落胆してまたそれを口に運ぶ。

「それで……説明して欲しいんだけど」

 イザベラのその言葉に固形食を齧ったエリザベスもエイサムを見る。

 さて、何を聞かれるやら、とエイサムは悠然と構えた。

「私達はこれから何と戦うの?」

 ふむ、とエイサムは少しだけ押し黙った。

 その質問には色々な答えがある。

 国家集団軍。撤退しつつある敵。殿部隊。最新鋭機……そして、エイサムの過去。

 適切な答えを選ぶと言うのは実に難しい話だった。

「そうだな……何が聞きたい?」

 だから、エイサムは逆に尋ねる。

 妙なごまかしをするつもりも無かったし、そうした方がスマートだと思ったからだった。

「それが分からないから聞いているの」

 確かにそれはそうだ、とエイサムも納得した。

 恐らく、正しい質問が投げられるまで受け答えをしなければならないだろう、とも。

「敵の最新鋭機を擁した殿部隊」

 エイサムの無愛想なその答えに双子は顔を一瞬見合わせる。

「最新鋭機の説明をして欲しい」

「ベティはイズから何も聞かなかったのか? 4次TMっていう凄いTMシリンダパッケージを使った石器時代のHAIVだ」

「石器時代?」

「ソフトウェア……ヴェトロニクスが後進的なんだと」

 そう聞いても驚かないのはエリザベスの無表情が為せる技か、それとも、すでにイザベラから話を聞いていたか。

 恐らく後者だろう。

「ドライバーは?」

 ほら、とエイサムは思った。

 話を聞いていなければそんな質問が出てくるわけもない。

「ドライバーは……」

 エイサムは心でも正しい答えを探して思考の波の中を彷徨う。

 しかし、それもまた意味の無いことだと思った時にするりと言葉が零れた。

「奴は……奴はな。最強のHAIV乗りだよ」

 エイサムにはそう形容する他なかった。

 おおよそエイサムが口にするとは思えないその実にあいまいな言葉に双子は当惑する。

「最強?」

「……人の改造には色々ある。AHIMEって奴だな。分かるだろ?」

 エイサムが口にした単語に双子はドキリとした。

 彼女らSCUもまたAHIME(応用人類改善工学)の産物であったからだった。

「お前らSCUは宇宙での宇宙の船外活動で通信に問題が起きても良いように生まれた。人体の正常な改造の範囲だ。人工臓器を移植するのと何ら変わることは無い」

「まさか……」

 エイサムとL2Mの会話を間近で聞いていたイザベラの中で色々な情報が線で結ばれていく。

 その様子を見てエイサムは面白くもなさそうに続けた。

「奴は出生の段階で遺伝子操作によって戦争に最適化された体で生まれてきた。人体のつくりから違う」

「つまり?」

 いまいち要領を得ないエイサムの説明にエリザベスが首を傾げるが、エイサムは難しそうな顔をするだけだった。

「俺は学者じゃないから分からないが、例えば奴は骨折をしないらしい。骨の構造も組成の……成分? 分子?が違うらしいし、破骨細胞が無いから骨粗しょう症にもならないと」

「それだけ?」

「それだけじゃないだろうな。……ただ、奴が強い所以はそこじゃないんだ」

 そこでエイサムの顔は一層険しくなった。

 たぶん、何かを思い出したのだろう、と双子は思った。

 だが、一度聞き始めた以上ここで止まるわけにはいかない。

「…………」

 黙ったのは何もエイサムだけではない。

 イザベラもエリザベスも今のエイサムにかける言葉は無い。

 黙って待つ二人の傍でエイサムはため息を一つ吐いて、ポーチからフレーバーを取り出した。

「奴はアップグレードができる。そう。いつだって兵器に必要なのはアップグレードだ」

 L2Mの言葉だった。

 得意げでも無く、ただ淡々とエイサムにそう言ったのは誰でもない、L2Mだった。

「例えば、6本指のHAIVは強いだろうか? 足回りの操作系を足の神経と繋いだら強いだろうか? 脳にそもそも戦闘用神経回路を作り出したら強いだろうか?」

 エイサムが差したフレーバーカートリッジはスーツの呼吸循環系を巡ってエイサムに紫煙を届ける。

 その紫煙を燻らせながらエイサムは色々なことを思い出す。

「指を増やす。神経を導線で繋ぐ。脳を培養液につける。その全てを遺伝子の書き換えと手術で可能にするのが奴だ」

 あの日のL2Mが薄暗い部屋で横たわるロジーを背にエイサムに語りかける。

「常に戦場に最適化する。テロメアを伸ばし続ける限り、遺伝子に限界は無い。書き換えができないなら継ぎ足せば良い。上手くいかなければ、ダウングレードするだけ」

 あのL2Mの言葉に倫理や正義は無かった。

 しかし、同時に一蹴できるような非道も悪徳も無かった。

 ただ、L2Mは彼女のことが大事で、ただ、彼女の存在に一番戸惑っていた。

「偶然の産物。執念が生み出した怪物と言っても良い」

 そう。L2Mはただ自嘲気味にそう言って彼女の死んだような寝顔を見るだけだった。

 そして、こう続けたのだ。

「『酷い話だと思うか?』」

 その簡潔な質問はあの日からずっとエイサムを縛っていたのかもしれない。

 些細なことだ。そんなことよりも目の前の敵を、任務をどうにかすることに頭を使っていた時の方が多かっただろう。

 それでも、ふと空白ができた時にエイサムの中に湧いて出る、そんな質問だった。

「…………奴らは連盟軍を追われた。理由は色々……でも、本当の所は分からない。ただ、追われた奴らが向かったのは敵だった」

 エイサムの中で紫煙と思考が混ざり合う。

 その瞬間だけ、全てが分からなくなって全てから解放されるようなそんな気がしてエイサムはこのフレーバーを止められない。

「俺は……」

 義憤に駆られてあの日に彼女らを殺してしまえば良かったのか?

 今、こうなってしまったことは不幸なのか?

 俺は何ができるんだ?

 エイサムは何も分からなかった。

「私は酷いとは思わない」

 だから、エイサムはそのイザベラの言葉だけを聞いても信じる気にはならなかった。

 気休めやとりあえずの返事、そんなものの類だと思った。

 しかし、イザベラとエリザベスの目は違った。

「なにを……」

「ベティはどう思う?」

「何も」

「お前ら……!」

 二人から降り注ぐ静かな視線にエイサムは本能的に抵抗していた。

 返す視線は受け入れたくないモノを貫通するような鋭さを持っていた。

 それでも、双子は少しの動揺を見せない強さでエイサムを見る。

「それが、今の私達となんの関係があるの?」

「それは…………」

「隊長は私達が『酷い』と言えば納得する?」

「…………!」

 その沈黙が全てだった。

 イザベラが言っていることも、エリザベスが言っていることも、正しい。

 エイサムにはそれが意外なほど素直に理解できたし、そして、理解できたからといって納得できるものでもなかった。

「だが……それでどうなった? 今、俺達は何をしている? 奴は何をしている?」

 エイサムが納得できないのはただあの時、何か答えを出さなければならなかったという強迫観念が消えずにいたからだった。

 そして、それは単純にエイサムだけの問題に留まらないということが最大の原因だった。

「L2Mは死んだ。俺は仲間を巻き込んで奴を殺しに行く。奴は……殺される。本当にこれで良かったのかと思うのは……間違っているのか?」

 エイサムの目は純粋に濁り切っていた。

 その前の見えない目の前で双子は顔を見合わせる。

「らしくないのね」

「どういう……」

「『そういうことだろ?』。隊長はいつもそう言ってた」

 はた、とエイサムの視界から紫煙が途切れる。

 途端に息苦しくなったと思った時、優しくイザベラの左手がエイサムのヘルメットに触れた。

 遅れて漏れてきた紫煙が宙をゆらめく。

「間違っているかどうかは関係ないんじゃない?」

「誰もそのことに答えなんて出せない」

 紫煙の向こう側は意外と近かった。

 すぐ傍に双子は立っていた。

 エイサムはそれに気が付けなかった。

「誰がいつも正しいことをアンタに求めたの? 誰がいつも幸せにしてくれってアンタに言ったの?」

「自分で決められること、決められないこと。向き合うこと、向き合わないこと。隊長は自分の中で分かっているはず」

 どうやったって埋まらない距離はある。

 双子とエイサムは同じ人間ではないし、双子だって同じ人間ではない。

 どうやったって双子にエイサムの過去は関係がない。

 それでも、同じ時間を生きて、同じ方向を向ける。

「俺は……しょうがない奴だな」

 埋まらない距離、関係の中でお互いに生きていく。

 たとえ、それがどれだけ近づこうと、離れようと、それは変わらない。

 分かっていることだった。

 それが分かっていても、エイサムはロジーただ一人に関してそうであると考えたくなかっただけだった。

「今更? しょうがない人なのはずっと前からでしょ?」

「……そうかもな」

「そして、それはお互いさま」

「それも……そうだな」

 今度こそ、紫煙が失せる。

 宙にかすかに残った紫煙もいずれは交じり、その色を失う。

「ふう……もう、戻れよ」

 力の抜けたエイサムが前を走るHAIVを指さした。

 誰に操られているわけでもないその鋼鉄の塊はただ黙々と忠実に与えられた行動をこなしていた。

 少しだけ、エイサムはそれをうらやましいと思う。

「そうね。しょうがない隊長様の愚痴も聞けたし」

「結局、今回の任務が難しいのも隊長のせい」

「違うな。俺は関係ない。そうだろ?」

 エリザベスがHAIVの遠隔コンソールを弄ると『雪だるま』だけが隊列を離れる様に減速する。

 それを見たエリザベスがいつものようにうそぶくエイサムの口に固形食をねじ込んだ。

「やっぱり、私は美味しいモノを食べて生きていたい」

「それと、フレーバー。臭いし、空気の無駄だし、辞めたら?」

「ほっとけ」




「稼働申請50%」

『申請許可』

「確認。中尉、『BEVEIS』の展開状況は?」

「第1群がE65DBを通過中だ」

「了解。クラウドの稼働が間に合いましたね」

「第1群の情報を捌く位なら20%段階でもなんとかはなるが」

「マンパワーになるでしょう? ウチのセクションは実働7人ですよ」

「分かっている。が、大隊長がやれというのだから……」

「しかも、こんな敵地の深くをね」

「来たぞ、情報だ」

「意外と……対空が散漫ですね」

「対空車両はいないだろうな。HAIVと……いや、HAIVだけか?」

「……! 中尉、これ……」

「第4中隊がやられた奴だな。遂に『BEVEIS』にかかったぞ……!」

「しかし、これ、TM反応が尋常じゃない……通常レーダー波や、熱源なんかじゃ普通――いや、少し小さいくらいなのに、TMの量が!」

「寝ている……? いや、立っているのかも……」

「くそ! 第1群通過!」

「第2群はまだか!?」

「推定到着時刻……90秒!」

「この情報、すぐにRI12に渡しますか?」

「いや……」

「中尉! RI12です!」

『――、……IT1、RI12。GIT1、RI12。『BEVEIS』の第一群通過を確認。情報は?』

「RI12、GIT1。……いま、クラウドで処理中だ。しばし、待て」

『……GIT1。何か、見たか?』

「……確認中だ」

『第一群のデータだけでもリンクしてくれ』

「……できない。私の仕事は正確な情報を渡すことだ」

『情報は得られなかったということか?』

「第2群が通過中!」

「第1群のデータは誤観測じゃない……!」

『第2群が見える。こちらも偵察隊だ。情報が無ければ、このまま進撃するが?』

「止めろ! 何を相手にするのか分かっているのか?」

『見えたんだな。情報を求める』

「…………! 何か知っているのか?」

『それが重要か? 情報を』

「……中尉、第3群78秒」

「…………情報をリンクする。データリンクローテーションY、ナンバーH5W」

『データリンクローテーションY、ナンバーH5W、了解。感謝する』

「……出ました。HAIV7機、随伴歩兵10、移動レーダー車1、補給車1。未確認機……1」

「地形情報マッピング済み。周辺に別動隊あり。別動隊、E89FCの20km北西の方向。時速60kmで北北西に移動中」

「クラウドAIは?」

「別動隊は撤退中である可能性が高い、と」

「敵も友軍も、お互いが分かっている……?」

「RI12はなんと?」

「彼らは……我々の情報などいらないような口ぶりだったよ」

「それは……!」

「敵が待ち伏せているのも、未確認機がいるのも、彼らは知っていた」

「その未確認機を調べるのが我々の仕事です!」

「…………」

「中尉!」

「……彼らも何か別の仕事があったのかもしれない。それを調べるのは我々の仕事か?」

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