もったいないと思ったので。
ノリだけで書いたのでいまいち自分でもよくわからない。
この間、訪れた街の話だ……
港町だったさ。小汚い連中ばかりの集まるね。
崩れそうな市なのか出店なのかよくわからん奴らが軒を連ねていたよ。
それから一本うち通りに入れば売春宿が並んでいる。
これもまた、小汚い、どうにも磯臭いやつらがね。
その中の一つに、占い師がいるという噂だったのさ、そうでもなければそんな場所に行きはしない、誓ってもいい。ご存知の通り、探し物で旅をしている。それで少しばかり寄ったんだ。
薄暗がりの中妙に色っぽい、だが艶のない手や声に溢れた路地を抜けていった。
なんのことはない、普通の、汚らしい店だった。
ただ――――そういった店にありがちな、いや、そうだな、その時少しばかり、街の内側に入り込みすぎたことに気が付いた。
ゆるりと紫煙が重たくほんのちょっぴり開いた窓から流れ落ちていた。こんな煙が出るのは、ああ、頭が、目が回りそうだった。
それでも思い切って店の扉をたたいてみた。
やはり思った通り、中では薬も売っていた。うつろな目をした女が幾人か、こちらを緩慢に振り向いたが、口の端から紫煙を垂れ流してふい、とまた向き直ってしまった。
こちらは客だがこういう店は初めての客を好まない。
どうしたものかと思ったが、この場にあまり長居したくもなかったので眉唾物の噂話はすっぱりあきらめて帰ることにした。何せ私だってわが身がかわいい。それに―――そんなものに手を出すほど立派に絶望したわけでなし、さらに言えば、若くもない。
曲がり角に立っていた売人に胡乱な顔をされ、面倒になったのであいまいに笑っておいた。だがそれがどうやら相手の勘にさわったらしく、ああ、まったく薬中どもの感覚はいかれているとも……。
それで、詰め寄られたところで、店の裏口が開いたんだ。子供だったよ。こんな街に似つかわしくないほど小奇麗な顔立ちの、この街に似つかわしい濁った眼の子供だった。
その子供を見た途端、売人は舌打ちをしてさっさとどこかへ行った。
取り残された私は、自分でもどうしてだかよくわからないが……子供に聞いた。
私の探し物を知らないかい?
子供は皮が骨に張り付いたような真っ白な腕を上げてこう言った。
ぼんやり、私の向こう側を見るように。
どこで殺したの?
と。
何のことかわからなかったよ。ああ。驚いたとも。
なにせ私が殺したんじゃない、そも、殺されたことすら知らない、死んだだけだとばかり。
誰が?と聞くと驚いた顔をされた。まるで今私がそこにいることに気が付いたみたいに。
それから子供はかわいそうなくらいに震えて、下を向いて小さな声で言った。
お客様だとは思わなかったんです、許してください。
それから、少しだけ間をおいて、卑屈な顔をしていた、
その、あなたの大事そうに抱えて、いらっしゃる、それ、のですね……
ふと思い立って懐から金貨を一枚、くれてやった。ああ、大事そうに抱えてたのはそれじゃない。
慌てたように受け取って、それを服の内側のどこかにしまい込んだ。
その、ひとの持ってたものは、殺されたときになくしたと、いや、その、生きていた間は持っていたけれど、死んだときに沈んでいったと。
素晴らしい!
私はそう思った。だから、その子供に、もう一枚金貨をくれてやって、それから、いそいそと金貨をしまい込む子供に向けて使い込んだ刃を振り下ろした。
と、子供が顔を上げた、その目はやはり真っ暗で、この街に似つかわしいような、腐った魚の死骸の積みあがる、いろんなものをなくした人生の終着点のこの街にふさわしい、闇のような物言わぬ眼がこちらを見上げた。
ずぶずぶと末端から飲み込まれ、やがて何事もなかったように腐臭だけを吐き出す沼のような闇。
それに躊躇したのか、手が止まった。いやいや、長いことこんな稼業をやってるが、こんなことははじめてで、あれ以来、一回も起こってない。
ああ、その人、あなたが殺したんじゃないんだ。
と子供が言った。
まったく、なかなか驚きだ、そう思わないか?
まぁ、とにかく私はめでたく当初の目的を果たしたわけだ。
なんだ?
事の顛末がまだだって言いたいのか?おいおい、今日はそんな話をしに来たんじゃないだろう、この話の顛末はこうだろう?
どこぞでのたれ死んだお頭の宝をお前は見つけたのかって?
ああ、そうだとも、川底で見つかった、お頭の溺死体の上がった川の底に転がっていた。
ああ、しかし笑えない。
転がっていたのはちんけな首飾り、中に子供の絵が入っていた、もちろんあの薄気味悪い子供じゃぁ、ない。
つまり俺は金貨2枚の損をしたわけだ、さて、依頼主のお二方、ここでの飲み代はそちら持ち?探し物は見つからず、口封じをし損ねたんだから、お代までは要求しはしないがこれくらいはいいだろう?